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<Salon d’Art[株式会社Soto]主催 木曜コンサート>田中翔一朗ピアノリサイタル

プログラム
◯L.v.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ 第8番「悲愴」ハ短調 Op.13
◯平山智/ヘラクレイトス断章〜ピアノとトイピアノの為の
◯K.シュトックハウゼン/ピアノ曲 I〜IV
◯L.v.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ 第23番「熱情」ヘ短調 Op.57

主催:Salon d’Art(株式会社Soto)
協賛:アーク証券株式会社
協力:紀尾井町サロンホール運営事務局・株式会社ミリウテラス

ピアニスト、作・編曲家として活躍する田中氏のリサイタル。どの作品も演奏の背後にさまざまな思索があることが窺われた。

「悲愴」…第1楽章はソナタ形式と言いつつ、変則的だと改めて感じる。冒頭の主題がふとした拍子に蘇り、大きな力として立ちはだかる。第2楽章は決してドライではなく、それでいてウェットでもない、バランスの良さ。第3楽章では、作品をじっくり味わいつつ弾いていく田中氏の姿が印象的だった。

平山作品…6つの楽章から成り、楽章ごとにトイ・ピアノとピアノがほぼ交互に用いられる。冒頭のトイ・ピアノによる短い序奏を除くと、ダイナミックな第4楽章を中心として、ピアノートイ・ピアノーピアノとトイ・ピアノートイ・ピアノーピアノと鏡像的な構成である。第1楽章(序奏)で奏でられるモチーフがその後も登場して構成感を確保しており、最後の楽章でもそのモチーフに立ち返っていく。
コロナ禍の中で書かれた作品だという。調性を持つ柔らかい響きに耳を傾けていると、当時の気分がなんとなく蘇る。

シュトックハウゼン作品…切れ味鋭い演奏。激しく変化するダイナミクスやリズムを、エネルギッシュに巧みに弾きこなしていく。どの曲も、いっときも止まることのない世界の運動をさながら象徴するかのよう。各曲の最後の音にじっと耳を澄ます姿が印象的だった。一音一音のうちに世界がある。

「熱情」…プログラム・ノートでは、第1・3楽章展開部における二声の扱いはシュトックハウゼン作品のうち「Ⅳ」を想起させると述べる。そして、「ウロボロスの蛇」を思わせるという。
これに引っ掛けるなら、第1楽章の第1主題と第2主題は反行形の関係にある。両者が絡み合って展開していくさまもまた、かの図像を彷彿とさせるのではないか。
また、第1楽章にあらわれる「運命」の動機が典型的だけれど、ごく短い、旋律未満の要素を徹底的に活用するのがこの作曲家の流儀だった。シュトックハウゼン作品は、さらに短い単音の中に限りない広がりをみせる点で、楽聖の拓いた道を極限まで推し進めたと言えるのかもしれない。

コンサート・ピアニストの演奏というと、極めて明確にメリハリをつけた弾き方という印象がある。ダイナミクスの振れ幅を大きくとり、クライマックスに向けて明確なベクトルを描く。そういった表情の「型」がある場合が多いように感じる(今回の公演の後、海外の著名音楽家の「熱情」を改めて聴いてみると、まさにそんなタイプの演奏だった)。
田中氏はそうした型のようなものがあまり感じられない。良い意味で拘らない演奏だと思った。もちろん、メリハリは十分につけられている。けれども、それは、虚心に作品に向き合い、曲本来の自然な起伏をそのまま音に起こすことを通じた彫琢だと思う。しかも、常に温かみがある。個人的にとても好ましく感じられた。ぜひまたうかがおうと思う。(2026年9月3日 紀尾井町サロンホール)

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