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てんかん患者さん移行期診療の実際と今後~東小金井小児神経・脳神経内科クリニック 生田先生へのインタビューを通して~

今回は、てんかん患者さんの移行期医療の課題解決に尽力している、医療法人社団かけはし 東小金井小児神経・脳神経内科クリニックの生田先生へ、インタビューをしてきました。

生田先生は、小児期~成人の移行期の課題を解決するためにさまざまな取り組みをされています。現場で感じる課題や現在の取り組み、今後の治療やビジョンまで詳しくうかがってきました。

今回インタビューをした生田 陽二先生とは?

医療法人社団かけはし 東小金井小児神経・脳神経内科クリニック  生田 陽二先生

生田 陽二先生

医師を目指したきっかけは、中学生のときに神経疾患を患う祖母の境遇を母から聞いたことだそう。

東京大学農学部応用生命科学家庭生命工学専修を卒業後、北海道大学医学部医学科へ編入。
その後、東京都立小児総合医療センター神経内科で小児神経学を学ぶ中で、小児期発症の神経疾患患者の移行期医療の課題に気づいたといいます。

NICU~30歳以上の患者さんまで小児科で診ている現状を変えるべく、院内で移行外来を設立しようと奔走したという生田先生。
部長に話す、看護師や医師の意見を聞く、患者さんを適切な科に割り振るなど、さまざまな取り組みを行ったのだそう。

さまざまな職種に意見を聞くと、院内理解を得ることは難しかったものの、全員が否定的なわけではないことに気付いたといいます。

そして院内での移行ではなく「病診連携」という形で、成人診療科と連携体制を構築するため、院外に移行外来のような診療所を作ろうと決意し、2020年4月に東小金井小児神経・脳神経内科クリニックを開業。

病院の小児科からの移行が難しい患者さんを受け入れ、専門家として診療を継続しつつ、必要に応じて適切な成人診療科に繋いでいく地域の移行期診療を進めるクリニックを目指されています。

また2023年9月には、幻冬舎より「小児期発症慢性疾患患者に寄りそう希望の移行期医療」を発刊されました。 

医療法人社団かけはし 東小金井小児神経・脳神経内科クリニック紹介

エントランス

2020年4月に移行期の課題を解決するために開業された、小児科の中でも小児神経学とてんかん学が専門のクリニック。

小児~成人まで通院可能で、主にてんかんの外来診療と、医療的ケアの必要な重症心身障害児を対象とした在宅診療の2本柱としています。

外来の特徴として、年齢や知的障害の有無問わず脳波や超音波、ホルター心電図など、大きな病院に行かずに完結できるような設備がありました。
また、通常は大きな病院で通院して受ける高度医療¹⁾も可能です。

脳波検査室の様子

¹⁾高度医療:痙縮治療のバクロフェン髄注療法、デュシャンヌ型筋ジストロフィーのビルトラルセン点滴、VNSの刺激調整など

また医療的ケアの必要や、重症心身障害のある患者さんとご家族、支援者のためのイベント「みんつく!」を毎年開催し、疾患啓発や地域や同じ疾患を持つ患者さんやご家族が繋がる場を作っています。

診療中やイベントを行う中で感じる小児期から移行期の課題とは?

病院で勤務しているときから、4つの課題を感じていたと話す生田先生。

①立場による課題
②患者背景による課題
③移行期を見据えた診療と社会的支援
④移行期を見据えた医療連携体制の構築

①立場よる課題

小児科と成人診療科では、診療スタイルや立ち位置が違うことで課題が生まれているという生田先生。

具体的に、小児科医は幼少期に診断した疾患について、成長と一緒に診ていくことが多く、成人診療科に移行させる時期が難しい。

一方成人診療科の医師は、小児期発症の疾患について苦手意識があるため、小児期発症の疾患は診られないと感じてしまうことが多い。
さらに小児期発症だと途中で成人診療科の主治医へ変わるため、ご家族との信頼関係の構築も難しい立場にあるのだそう。

小児科が専門医として、成人診療科の医師と連携をして関わり続けることができればベストですが、てんかん専門医はまだ少ないのが現状です。
そのため、小児科医と成人診療科の医師の立場を尊重しながら、連携を取ることが難しいといいます。

②患者背景による課題

てんかん患者は知的障害や、他の病気がある、身体障害による医療的ケアが必要な方も多いです。
そのため、小児期から診てくれる医師との関係性が深く、信頼しているご家族が多いのだそう。

①であげた診療スタイルの違いは、患者家族に見えないため、患者家族が移行期に小児科医と離れることを不安に感じる方がほとんど。
不安を抱えたまま移行し、成人診療科の医師と関係が上手く構築できないと小児科に戻ることも少なくないといいます。

そのため小児科医には、患者家族が不安なく成人診療科に移行できるような情報提供や、話の仕方、関わり方が必要だと話されていました。

診察の様子

③移行期を見据えた診療と社会的支援

現在、小児期発症のてんかん患者さんは小児科で診ていることが多いですが、成人診療科に移行する方がメリットが大きいといいます。
なぜなら、小児科で診続けることで十分な社会的支援が受けられなくなってしまうからだそう。

具体的には、小児期は医療証で「医療費無料」や「小児慢性特定疾病医療費助成制度²⁾」の制度も使用できます。そして、成人になるとこれらの制度から、自立支援医療制度³⁾への切り替えが必要です。

しかし小児科医は、小児の制度には詳しいものの、移行期や成人後の制度を知らないことが多く、移行期においても制度の切り替えについて説明されることが少ないのだそう。

移行期や成人後に利用できる制度については、成人診療科の医師が詳しく、行政との繋がりも強い。
しかし小児科で診続けていることで、制度の切り替えが上手くいっていないことが多いといいます。

私も最近まで自立支援医療制度が使えることを知らなかったため、成人診療科に移行しないと得られない情報があることを痛感しました。

そのため、早期から成人診療科へ移行することで就労や家族の介護が難しい場合についても相談する、対応できる場合が多くなるのではないか、と感じました。

²⁾小児慢性特定疾病医療費助成制度:児童福祉法第19条の2に基づき、児童等の慢性疾病のうち国が指定した疾病(小児慢性特定疾病)の医療にかかる費用の一部を県が助成し、小児慢性児童等の御家庭の医療費の負担軽減を図る制度
³⁾自立支援医療制度:心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度

④移行期を見据えた医療連携体制の構築

現在、移行期を見据えた医療体制がありません。
体制を構築するために動いている医師が多くいるのも事実ですが、大学病院や総合病院で移行期医療の体制を作るのはとても難しいのだそう。

病院内で移行外来を作ろうとした生田先生曰く、地域に専門医が開業して、病院と連携しながら進めていくことが1番よい移行期医療の体制ではないかと話されていました。

診療中に多い誤診や、社会的なてんかんの理解は?

てんかんは種類が多く症状が多岐にわたるため的確に診断することは専門医であっても難しいこともあるといいます。

生田先生が診察をする中でも、発作を起こしたことがないのに脳波異常のみで「てんかん」と診断されている、「自然終息性てんかん」であるのに成人期まで治療が継続されているなど、正しい診断や治療がされていないことも多いのだそう。

世間的にてんかんの理解は10年前よりは広がっているものの、まだ「てんかん=泡を吹いてけいれん」というイメージの方が強いです。
そのため、症状や治療の理解がされておらず、偏見が多い疾患だと感じることが多いといいます。

具体的には、妊娠できないと思い結婚・出産ができない女性がいる、てんかんを隠して運転免許を取得する、薬剤調整中に運転するなど。
内服薬によっては妊娠も可能ですし、運転免許は発作がコントロールできていれば取得は可能です。

もちろん、薬剤調整中は運転は控えるべきですし、内服薬によっては妊娠の時期を考えることはあるものの、できないわけではありません。
ですが、正しい知識を持たないてんかん患者さんやご家族、配偶者も多く、正しい指導を受けられない人がいることも現実なのだそう。

世間的に就職に運転免許が必要なこともあり、てんかんを隠して免許を取る、運転をするという人も多いとのこと。
また地域的にてんかん専門医がおらず、正しい知識を得られない人もいるといいます。

実際に私も、てんかんで内服中のため結婚ができない、転職の際に運転は極力避けたい旨を伝え、業務内容に運転は含まれないにもかかわらず、内定取り消しもありました。

患者さん側も地域によって、てんかん専門医に診てもらえるか否かで医療格差があり、社会的にも「てんかん」の正しい知識を持っている人はまだ少ないのだと改めて感じました。

現在ある治療や先生の考える今後の治療

てんかんについての講演会の様子

生田先生は、新しい抗てんかん薬が発売され、15年前と比べ、副作用も減り難治性の患者さんに有効な薬が出てきたことで、コントロールできる患者さんが増えてきたと感じていると話します。

新しい薬の登場で、今後は発作が抑えられない患者さんに対しても、少しずつ予防できる、発作を止められるようになると期待しているとのこと。
しかし、これらを適切に使いこなせるてんかん専門医が増えることと、専門医が介入することが必須になると話されていました。

現在のてんかん専門医は、800人程度。
以前ブコラム⁴⁾が新しく発売されたときには、病気の理解がされていない、薬を適切に扱える専門医や看護師がいないことで、施設や学校での導入に4年以上かかったのだそう。

そのため現在の専門医の数では、今後予定されている新しい薬剤が日常的に使えるようになるまで、何年もかかることが予想されているといいます。
しかし今後発売予定の薬剤は発作時緊急薬⁵⁾が多く、発作が起きてすぐ、もしくは起きる前に使えるため、患者さんの生活の質が大きく改善するであろう、と期待している様子がうかがえました。

前兆があり全身の発作に移行する私のような患者さんにとっては、発作に移行せずに日常生活を送れる可能性が出てくるため、今後のてんかん診療がとても楽しみです。

⁴⁾ブコラム:抗けいれん剤(ミダゾラム口腔用液)
⁵⁾発作時緊急薬:てんかん発作が起きた時に発作を抑えるために使える薬

てんかん患者さんが社会で暮らすために、先生が考える社会課題と今後のビジョンとは?

みんつく!での様子

近年のSNSの発展に伴い、てんかん当事者やご家族が症状や活動を発信し、10年前よりは症状の理解も広がってきたと感じているそう。
しかしまだ差別的な目も多く、てんかん患者さんが「てんかん」を隠していることも多いといいます。

生田先生は、まずは社会で正しい知識を身に付けてもらうために今行っている「みんつく!」や医師向けの講演会、学校や施設への講演会をして、てんかんの様々な症状を伝える活動を続けていきたいと話します。

そしててんかん患者さんやご家族も障害があっても楽しめる、疾患について学べる機会を増やしていきたいとのこと。
今後は今行っている活動に加え、家族支援も行っていきたいのだそう。

みんつく!で遊んでいる様子

てんかん患者さんのご家族は介護や知識を身に付けるために学習をする、資格を取る方も多いため、親同士で子供を預かれる場所を作り、介護者も社会復帰できるような環境を作りたいとビジョンを語ってくださいました。

またオンラインが広がっている現代では、オンライン診療でてんかん専門医からの意見を聞き、服薬指導を受けながら生活できることが当たり前になってほしいとも話していました。

生田先生へのインタビューを終えて

書籍やてんかん患者であるため、生田先生の活動を知っていたものの、実際にインタビューをさせていただく機会をいただき光栄でした。

お話を聞いていく中で、小児期から移行する課題を正確に捉え、小児期から成人後もきちんと寄り添っていることがわかりました。
このような地域に移行期医療を見据えた病院が増えることで、てんかん移行期の課題を解決できるのではないか、と今後がとても楽しみです。

また、てんかんの治療薬も新たな薬が多く出てきており、オンライン診療でてんかん専門医とも繋がれるようになっているため、今後はてんかん患者の生活の質の向上に繋がるでしょう。

新しい薬の登場や、生田先生の活動で社会的な理解が広がり、小児期発症のてんかん患者さんやご家族が正しい知識を身に付け、適切な治療を受け安心して生活できる社会になると嬉しいと思います。


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