水たまりからはじまる422字|シロクマ文芸部|まろやかホラー
第1章 水たまりからはじまる
水たまりに指先を入れた。
ぴちゃ。
切れるように冷たい。
夏の盛りなのに。
大きな水たまりを前に、幼い私と隣にしゃがんでならぶ影。
「水たまりには、何が溜まっていると思う?」
「水じゃないの?」
「そう、半分はね。あとは、記憶だよ」
「それも、よどんだ記憶」
「水はやさしいから、どんどん記憶を溜めていく。
綺麗な記憶は空に還る。
でもね、汚れた記憶は地に沈む。
雨が降ると水に溶けだす」
「ふうーん」
ぴちゃ、ぴちゃと水たまりを人差し指でかき混ぜる。
「ほら、水たまりの中に映るあんたの顔、悪くない?」
「えっ?」
振り向くが、影の表情は見えない。
ちいさな私の姿は鮮明に思い出せる。
お気に入りの真っ赤なワンピースに麦わら帽子。
左手には粒の大きなビーズのブレスレット。駄菓子屋のおまけだ。
しかし、誰とこの話をしたか、さっぱり思い出せない。
それでも、
あの日から、私は水たまりを見ないようにしている。
つづく…かもしれない物語。
参加しています。「水たまり」からはじまる…
