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37. こぶし調理ご飯

 拳しか知らない、拳しか持たない男だった。皆、彼がこの先何をやるのか思案を巡らした。彼は群れずにやってきた。この先のことも自分で決めるだろう。
 料理屋を始めるらしい、と言う話が広まった。拳と料理、拳で料理、拳が料理。無茶だ、と思われるかもだけど彼の場合その対比を面白く感じさせ、彼ならやりそうな気がしてくる。
 メニューは、叩いて柔らかくした肉のステーキとたたききゅうりのみ。肉もきゅうりも、一流と呼ばれる料理人が嫌う固いもの。彼は、固いほど叩きがいがあると言う。新しもの好きの料理評論家やSDGsの記者たちが群がった。
 ブラボー!賞賛の声。「でも魚も食べたい」「カツオのたたきとか。これはたたき違いかな」我儘でハイソな笑い声。「ちょうどいただきものの鰹がありますので」見事な一皿を仕上げるとその上から拳を叩き込んだ。「何を...」「元は、叩いて味を馴染ませる料理なのです」彼の意外な奥深さに一同は心をその拳につかまれた。

#毎週ショートショートnote #こぶし調理ご飯

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