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「やってみないとわかりませんよね」と言われ、かき氷屋を始めた

「やってみないと、わからないですよね」

提案の最後に、少し申し訳なさそうに言われる言葉です。飲食店の経営者にも、消費財メーカーの担当者にも言われました。何度も言われました。そして僕は、そのたびに納得していました。反論できないからです。事実なので。

悔しいというより、かっこ悪いな、と思っていました。

2026年6月、渋谷のバーの昼の時間を借りて、12席のかき氷屋を始めました。マーケティングのコンサルティングを本業にしている会社が、です。

この記事で書くこと

  • マーケティング会社が自腹で飲食店を持つと、何が変わるのか

  • 数ある業態のなかから「かき氷」を選んだ、実際の判断基準

  • 開けてみて最初に崩れた前提と、お客様にかけてしまった迷惑

僕は累計数十社のマーケティング支援に関わり、運用してきた広告費は数十億円です。同時に、渋谷で12席のかき氷屋の店主でもあります。この連載は、その両方の立場から書きます。

この記事は、施策はやっているのに伸び悩んでいる経営者の方、そして外部パートナーの提案に「本当に大丈夫なのか」と一度でも思ったことのある方に向けて書いています。
売り込みではなく備忘録と思って書きます。ポジショントークと思われるかもしれませんが、誰かしらの役に立てたら嬉しいなと思っています。


マーケティング会社が、なぜ自腹で飲食店をやるのか

初期メニュー

意思決定の責任を自分で負ったことがない、という引け目を消すためです。第三者の立場からどれだけ精緻な提案をしても、「確実に成果が出ます」とだけは、僕は言えませんでした。

新卒で入ったのは事業会社でした。ミニマムの予算を決めて、撤退ラインを決めて、自分で検証する。当たり前にやっていたことです。ところが支援する側に回ると、そこが急に難しくなる。実行に対しては責任を持てます。でも結果までは追いきれない。そういう立場の人が、想像していたよりずっと多いことにも気づきました。

もうひとつ、はっきりしていることがあります。こちらがどれだけ調べ抜いて考えた提案なのかは、相手には伝わらない。 これは、しょうがないことだと思っています。伝わらないものを「伝わってほしい」と願うのは、こちらの甘えです。

だったら、伝わる形に変えるしかない。自分で決めて、自分の金を賭けて、結果まで引き受ける。それを一度やっておく。

社内には「飲食をやりたいからやる。責任は自分が持つ」と言いました。反応はよくありませんでした。本当にやるのかどうか、みんな分かっていない、という空気でした。自分が立てた売上の範囲で投資するのだから、というのと、成功させてやるという気持ちで、そこは押し切りました。

実行に責任を持つ人は多い。でも、結果まで追いきれる立場に自分を置いたことは、独立してから一度もありませんでした。

個人の感想

なぜ他の業態ではなく、かき氷だったのか

決め手は「料理の素人である自分が、お金を取って出して恥ずかしくないか」でした。かき氷は、味の差が出るポイントが少なく、素人でも品質を管理できる数少ない業態だからです。(←後にこれはまじで舐めていたなと痛感します、Open遅れました)

飲食をやると決めてから、業態はひととおり検討しました。居酒屋、一般的なレストラン、タピオカ、フルーツジュース。落とした理由はそれぞれ違います。

  • レストラン・居酒屋:メニューが増えるほど品質が落ちる。プロではない自分が、全品に自信を持てるとは思えなかった

  • タピオカ・フルーツジュース:逆の問題。自分が作っても、他店と味の差が出ない

  • かき氷:構成がシンプルで、差が出る箇所を特定できる

お客様がお金を払って食べるものが美味しくない。それだけは絶対にダメだと思っていました。原価率の話より先に、この基準がありました。

かき氷で差が出るのは、氷の削り方、シロップの調合、盛り付け、そして組み合わせです。例えば、ブルーベリーにチーズケーキアイスとクッキーを合わせたもので、食感まで含めて差が出ます。

氷は、あくまで水です。味を決めるのはシロップと組み合わせ、食感を決めるのは削り方と盛り付け。つまり、伸ばすべき変数が4つしかない。

素人が管理できるのは、変数が少ないからです。

始めてのB3オリジナル:夕暮れブルーベリーフロマージュ

判断のあとは、確かめました。当時住んでいた街の近くの有名店をひととおり食べに行き、味、量、盛り方を見ました。氷を削る機材は17万円で購入して、実際に自分で削って練習しました。味そのものは自分だけでは絶対に分からないと思ったので、料理研究家の方に監修をお願いしています。

このとき、はっきり失敗したこともあります。最初にいただいたメニュー表のとおりに自分で作って食べてみたら、見た目も含めて「これは出せない」と思いました。ちゃんとした方に頼んでいるのに、そんなわけがない。そう思って、その方に直接バーまで来ていただいて、目の前で作ってもらいました。同じレシピで、まったく別のものが出てきました。 これなら出せる、と思ったのはその瞬間です。

業態選定で実際に見ていた軸を、重視した順に並べます。

  1. 原価率

  2. 制作・オペレーションの難易度(作る人が変わっても味が変わらないか

  3. 季節性

  4. 単価

  5. SNSとの相性、見た目

  6. 立地

立地が最下位なのは、格好つけではありません。そもそも「物件を借りずに間借りできる場所」という制約から始まっているからです。知り合いがやっている渋谷のバー、その昼の時間を借りました。ビルの4階です。バーが19時から始まるので営業は18時まで。渋谷の人通りが増えるのが11時以降なので、開店は11時。

立地は、選んだのではなく、制約条件の結果です。 ここを取り繕うと、後の話が全部嘘になるので先に書いておきます。

やってみて、最初に崩れた前提は何だったか

「客が来ない」でした。開店してしばらく、店はずっと暇でした。

知り合いのつてで集めたアルバイトは、いい子たちが集まってくれました。その子たちが、やることもなく立っている。SNSを始めても最初は伸びず、Googleマップの運用を始めて、ようやく少しずつ変わりました。

もうひとつ、自分でも意外だったことがあります。インフルエンサーの方に依頼するのに数十万円を払う。その判断が、めちゃくちゃ怖かった。事業会社でも、自分の会社でも、広告投資はずっとやってきたはずなのに、です。飲食は売上がその場で、目の前で見える。だからこそ、出ていく金の手触りが違う。

この「怖さ」を知らずに、僕は今まで投資判断を提案していました。

そして、施策が当たり始めた瞬間に、今度は別のものが崩れました。

お客様にかけてしまった迷惑を、そのまま書きます。

  • ビルの4階なのに、Googleマップの登録位置がずれていて、入口が見つからず下でうろうろさせてしまった

  • バー側の都合で休業する日をInstagramには出していたが、Googleマップと連動できておらず、閉まっている日に来させてしまった

  • 順番待ちで2〜3時間お待たせし、待った末に入れなかった方がいた。その見込みを事前にお伝えできていなかった

  • 注文の取り違え、予約の取り違えが起きた

  • 現金でのお支払いに対応していないことを、店頭で伝えられていなかった

  • かき氷機が壊れ、その時間に来てくださった方にかき氷を出せなかった

その場でできたのは、謝ることと、無料券をお渡しすることだけでした。

ここからは僕の解釈です。原因は4つに整理できました。

  • 人員配置:12席を2名で回す想定だった。実際は3名いないと回らない

  • 予約・順番待ち:システムの導入が、混雑が始まった「後」になった

  • 需要予測・仕込み:客が来なかった時期の感覚のまま、仕込み量を決めていた

  • 教育:「こういうミスが起きたらこうする」を、事前に用意していなかった

ただ、根っこはひとつだったと思っています。

集客が失敗したときの準備はしていたのに、成功したときの準備をしていなかった。

自分の打つマーケティングが当たると、心のどこかで信じ切れていなかった。だから当たった後の絵を描いていなかった。机上の空論で戦ってきたな、と思いました。

いま変えたのは、日報でのフィードバックを全員で共有すること、そしてGoogleの口コミを——厳しいものも含めて——そのままオペレーションに組み込むことです。逆に、まだ解決していないこともあります。ビル内の動線と、他テナントさんとの関係です。論理的にワークすると分かっていても、動かすのは人なので、そのとおりにはなりません。

数字の推移はこうです。5月にプレオープン、6月5日にグランドオープン。7月に単月黒字化(といっても、ほぼトントンです)。8月に初期投資を回収し、同月の売上は348万円でした。

この連載で何を書くのか

全8本を予定しています。この記事が入口です。

  1. 「やってみないとわかりませんよね」と言われ、かき氷屋を始めた(本記事)

  2. 新規事業の選び方|なぜ飲食で、なぜかき氷だったのか

  3. かき氷屋の集客に使ったのは30万円。効いた順に全部書きます

  4. 自分の店で試して、クライアントには勧めなかった施策

  5. 店をやってから、コンサルの提案書がどう変わったか

  6. 12席・7時間営業で、1日にさばける限界を測った話

  7. 天気予報から仕込み量を決めるスクリプトを作った

  8. LINEの出退勤打刻から給与計算まで自動化した

まとめ

  • マーケティング会社が自腹で飲食を始めたのは、結果まで責任を負う立場に一度自分を置くため

  • かき氷を選んだ決め手は「素人が出して恥ずかしくないか」。味の変数が4つしかなく、品質を管理できる

  • 業態選定で実際に見た軸の順番は、原価率 → オペレーション難易度 → 季節性 → 単価 → SNS相性 → 立地

  • 最初に崩れた前提は「客が来ない」。次に崩れたのは、客が来た後のオペレーション

  • 集客が失敗する準備はしていたが、成功する準備をしていなかった

よくある質問

Q. かき氷屋の開業にいくらかかりましたか?

総額は公開していません(業務委託費用や物件情報などの許諾が取れていないため)。ただ、5月プレオープン・6月グランドオープンで、8月には初期投資の回収が完了しました。物件を借りずに間借りにしたことが、回収の速さの最大の要因です。設備でいえば、氷を削る機材が17万円でした。

Q. なぜマーケティング会社が飲食店をやるのですか?

提案する側と、決めて金を賭ける側では、見えるものが違うからです。実行に責任を持つことと、結果まで追うことは別物でした。支援先に「やってみないとわかりませんよね」と言われ続けたことが直接のきっかけです。

Q. 料理の経験がなくても飲食店はできますか?

業態によります。かき氷を選んだのは、味の差が出る箇所が氷の削り方・シロップ・盛り付け・組み合わせの4つに絞られ、品質を正しく管理できると思っていたからですが、実際はそんなに甘くなかったですし、研究開発にかなり時間を費やしました。競合商品も嫌になるほど食べました。味の監修は料理研究家の方にお願いしています。ただ、かなりコミットした方がいいです。土日は店に立ったり、深夜に店に行って対応したりはしましたし、経験に勝る量をこなすことは絶対的に必要です。

Q. 間借りのメリットとデメリットは何ですか?

メリットは初期投資が軽く、回収が早いことです。デメリットは、営業時間・内装・清掃の状態を自分で決めきれないことです。うちは夜のバーが19時開店なので、営業は11時〜18時に固定されました。

Q. かき氷屋は儲かりますか?

条件次第です。うちの場合は、渋谷・間借り・12席・11〜18時営業という条件で、7月に単月黒字、8月の売上が348万円でした。ただし季節性が非常に強い業態なので、単月の数字だけで判断すべきではないと考えています。

事業設立時のリアルなやり取り

注記

  • 数字はすべて2026年8月時点、B3単店舗ベースの実績です

  • 原価率・客単価・初期投資の総額は公開していません

  • 「37社」「約11億円」「平均継続1.9年」は株式会社MonoLuceの累計実績(2026年8月時点)


新規事業や飲食のこと、いま頼んでいる代理店のことでもかまいません。「これ、どう思いますか」くらいの温度でご相談ください。

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