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私の知らない、社会科見学のアナザーストーリー。


思い出に癒されることってある。
思い出が今の自分にエールを送ってくれることがある。

思い出で、結構やっていけるって話。

新緑の時期、私は田舎に帰省するのが恒例なのだけど、この時の帰省は時間に余裕があったので、実家に帰る前に少し寄り道しようかと、父親、母親と一緒に、「なんだか海が見たいね」という話になった。
地元の山にある、パノラマビューで海が一望できる展望台へ向かう。空の青と一面に広がる綺麗な海を眺め、新緑の中をふわりと横切る青いアゲハ蝶を目で追いかけつつ、私たちは大満足の時間を過ごしていた。

山の空気に癒やされて、展望台から駐車場へと戻る数分の帰り道。
土で足を滑らせないよう、目線を足元に落としてゆっくり歩きながら、ふと思い出したことがあって口を開いた。

「この場所、小学生のころ社会科遠足で来たかも」

なんてことのない一言だった。けれどそこから、母の口から「社会科見学といえばさ…」と、幼なじみのKちゃんの話が飛び出したのだ。

私たちの地元は、まあまあ筋金入りの田舎だ。信号なんて当然ないし、今でいうコンビニのような商店すらない。四方八方に迫る山の気配を遠くに近くに感じながら、ひたすら田んぼの脇を横目に歩くのが私たちの通学路だった。

そんな通学路での忘れられない事件があった。

ある日の下校途中、300メートルほど先にある「猟犬を飼っているおじさんの家」の前に差し掛かった時のこと。いつもは繋がれているはずの犬が、なんだかこちらを見ながら吠えている。

……ん? 近づいてくる? いや、そんなわけない。
猟犬だよ?…でも来てる、…来てる!!来てる‼︎
おじさんの姿はない。軽やかに、軽快にこちらへ向かって走ってくる。しかも、2匹も!!

「犬やんっ!!」

二人で顔を見合わせ、半泣きで逃げ始めた。
「走ったらダメだよ! 余計追いかけられるって!!」私はKちゃんに向かって歩くように言っていた。
でも私は走った。私は走った。
頭ではわかっているのに、迫りくる恐怖に足が勝手に走ってしまう。後ろを振り返りつつ、泣き叫びながら2人で全力疾走。あ、やられる。終わった。後にも先にも、あの瞬間の「詰んだ」という恐怖を超える体験を、私はまだ知らない。

そんな命がけの修羅場を一緒に超えた仲のKちゃんは、いつもどこか抜けていて面白い展開が起こる男なのだ。

熊出没注意の通達が地域全体に出る時期、森の中で動くもの、黒っぽいものに疑心暗鬼になり全てが熊に見えていたKちゃん。通学路で「熊を見た!」と大騒ぎして、周りから「それ、牛じゃない?絶対牛だよ。」と笑われていた、Kちゃん。
クラスのお楽しみ会で、男子が、ゆず、ミスチルを歌う中、身体を斜めにし、目を閉じながらSHAZNAの『Melty Love』を熱唱し、教室中を大爆笑の渦に巻き込み、もう一回!もう一回と女子からも男子からも言われて伝説になったKちゃん。
意図して狙っているわけじゃないのに、気づけばいつも周りのみんなを笑顔にしてしまう、愛すべき彼の記憶。

この彼に数十年の時を超え、
イケメンに抱きしめられるよりもはるかに持続性のある癒しをもらうことになる。

母はちょっとおかしそうに笑って、あの遠足の日の話を続けた。

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