見出し画像

もう一度、あなたに恋をする。

【はじめに】

この物語は、第2章 第5話 「愛しさが募る冬」の続きです。
▼第5話はこちら




触れられることが、怖かった。

母に言われ続けた言葉が、ずっと心に刺さっていた。

「そんな身体は、男の人は嫌う」

「そんな身体じゃ、子どもも産めない」

だから、彼と距離を置いた。

彼を傷つけたくなかったから。

彼に、失望されたくなかったから。

でも、弟が言ってくれた。

「本当は怖くないんじゃない?」

「自分で壁を作ってるだけじゃない?」

冬が終わり、春が来た。

桜の季節が来た。

彼と、もう一度会いたい。

今度こそ、ちゃんと向き合いたい。





春が来て、風の香りが変わった頃。


4月。


桜が満開の季節。

はじめて彼に出会った季節。

翌年の春、また来年も一緒に桜を見ようと約束した。


そして今年の春、もう一度彼に会いたいと願った。


桜並木を歩く。


ピンク色の花びらが、風に舞っている。

綺麗だ。こんなに綺麗なのに、心は落ち着かない。


彼は、来るだろうか。


また、ここに来てくれるだろうか。


弟に言われた言葉を、思い出す。


「本当は怖くないんじゃない?」


「自分で壁を作ってるだけじゃない?」


そうかもしれない。

本当は、怖くないのかもしれない。

ただ、怖いと思い込んでいるだけなのかもしれない。




ベンチに座って、桜を見上げる。


去年、彼とここで話をした。

ただ、隣にいるだけで幸せだった。



どれくらい時間が経っただろう。


「……やっぱり、ここにいた」


その声に、心臓が止まりそうになる。


振り向くと、少し髪が短くなった彼が立っていた。


相変わらず穏やかで、あの頃よりも少し大人びていた。


夢じゃない。本当に、彼だ。


「元気だった?」


彼が、優しく聞く。


「うん。あなたは?」


「ああ、そろそろ会えるかなって思ってた」


その言葉に、涙が滲んだ。


彼が、ベンチの隣に座る。


少しの距離がある。

去年の秋、こんなに近くにいたのに。

今は、遠く感じる。


でも、彼がいる。


それだけで、嬉しい。




【彼視点】彼女を見つけた


やっと、会えた。


冬の間は来なかった。

いや、来る気になれなかった。彼女を思い出してしまうから。


でも、桜が咲いたら、また来たくなった。


1回目は、3月の終わり。まだ蕾だった。


2回目は、4月の初め。少し咲き始めていた。


そして今日、3回目。満開だ。


もう、会えないかもしれない。


でも、もしかしたら。


そんな淡い期待を抱いて、俺はここに来た。


そして、彼女がいた。


ベンチに座って、桜を見上げている。


あの後ろ姿を、何度も夢で見た。


でも、今は夢じゃない。


本当に、彼女がいる。




夜の桜並木


その夜、ふたりで桜並木を歩いた。


風が花びらを舞わせる。


月明かりに照らされた桜が、幻想的だ。


「綺麗だね」


「ああ」


彼が、ゆっくりと口を開く。


「無理はしなくていい。前みたいに焦らなくていいから」


私は、首を振る。


「ううん、もう怖くないの」


私は彼の目を見て、一歩近づいた。


自分からそっと、彼の手を握る。


あの夜とは違う。


もう、震えも、ためらいもなかった。


彼の手が、温かい。




【彼視点】彼女の手


彼女が、俺の手を握った。


去年の秋、初めて手を繋いだ時。


彼女の手は、震えていた。


でも、今は違う。


まっすぐに、俺の手を握ってくれている。


「……ありがとう」


彼女が、小さく言う。


「なにが?」


「私と出会ってくれて、好きになってくれて、ありがとう」


彼女が、涙を浮かべながら笑う。


「あなたに出会えたことが、私の人生で最大の幸福です」


その言葉に、胸が熱くなる。


俺は、彼女を抱きしめた。




彼の腕の中


彼が、優しく私を抱きしめた。


泣き笑いのような表情を浮かべて。


あたたかさが胸いっぱいに広がる。


涙が頬を伝ったけれど、それは悲しみじゃなかった。


「あのさ、本当はいつもここに来てた」


彼が、小さく言う。


「え?」


「ずっと会いたかったから」


「え、そうなの?」


「そうだよ。でもやっと会えた」


私は、少し罪悪感を覚える。


「待たせちゃって、ごめん」


彼が、優しく笑う。


「待ってたわけじゃない。信じてただけ」


その言葉に、また涙が溢れる。




【彼視点】彼女の涙


彼女が、泣いている。


俺は、彼女の涙を拭う。


「もう、大丈夫だから」


「うん」


「これからは、ずっと一緒にいられる」


「……うん」


彼女が、俺の胸に顔を埋める。


小さく震えている。


「好きだ」


俺が言うと、彼女が顔を上げる。


「……私も、好き」


桜の花びらが、俺たちの周りを舞っている。


春の風が、優しく吹いている。




しばらく抱き合って、ベンチに座る。


彼が、私の手を握ったまま。


「俺たち、もう一回ちゃんと付き合いたい」


その言葉に、嬉しくなる。


「……うん。私も」


「でも」


私は、少し躊躇する。


「でも?」


「あのね、話したいことがあるの」


「何?」


深呼吸をする。


言わなきゃ。ちゃんと、伝えなきゃ。


「私ね、身体のこと、すごくコンプレックスがあって」




告白


「昔から、すごく痩せてて。ガリガリで」


彼が、黙って聞いている。


「お母さんに、ずっと言われてたの。『そんな身体は男の人は嫌う』って」


涙が、溢れてくる。


「だから、怖かった。あなたに触れられて、服を脱いで、この身体を見られて、ガッカリされるのが怖かった」

「それに」


声が、震える。


「お母さん、言ったの。『そんな身体じゃ子どもも産めない』って」


「本当に、子どもができないかもしれない。そしたら、あなたを悲しませてしまう。あなたを、幸せにできない」


「だから、私なんかじゃダメなの。あなたには、もっといい人がいるの……」


涙が、止まらない。 


彼が、ゆっくりと私の顔を上げさせた。

「君は、何も分かってない」

彼の声が、優しい。

「俺が好きなのは、君だ。君の身体じゃない。君という人間だ」

「身体のことなんて、関係ない。痩せてても、太ってても、俺は君が好きなんだ」

彼が、私の目を見る。

「それに、子どものことも。俺は、一緒にいたいから付き合ってる。子どもが欲しいから付き合ってるわけじゃない」

「もし、本当に子どもができなかったとしても、俺は君と一緒にいたい。二人で、幸せに生きていきたい」


涙が、止まらない。


彼が、こんなに私のことを思ってくれていたなんて。

「……本当に?」

「本当だって」

彼が、優しく笑う。

「あのさ、君が思ってるほど、俺は立派な人間じゃない。でも、君を愛することだけは、誰にも負けない」

彼の手が、私の頬に触れる。

「だから、もう自分を責めないで。君は、何も悪くない」


彼が、額を私の額に寄せる。


「だから、もう離れないで。ずっと、そばにいてほしい」

私は、泣きながら頷いた。

「……うん」

「何があっても、君を守る」


「だから」


「もう、一人で抱え込むな」


「辛かったら、言って」

「怖かったら、言って」

「全部、俺が受け止めるから」


彼の声が、温かい。


「これから、ゆっくりでいいよ。君のペースで。俺は待つから」


「……ありがとう」


やっと、言葉が出た。


彼が、私を抱きしめた。


温かい。優しい。安心する。


もう、怖くない。


桜の花びらが、私たちの周りを舞っている。


春の風が、優しく吹いている。

「好きだ」

彼が、小さく言った。

「……私も、好き」

私も、小さく返す。


これから、どんなことがあっても、大丈夫。


彼が、そばにいてくれるから。



彼と手を繋いで、歩く。


桜吹雪の中。花びらが、舞い落ちる。


「ねえ」

「ん?」

「ありがとう」


彼が、不思議そうな顔をする。


「待っててくれて」


「当たり前だろ」


彼が、少し拗ねたような顔をする。

可愛い。そう思って、笑ってしまう。

「笑うなよ」

「ごめん」

彼も、笑う。

「来年も、ここに来ような」

「うん」

「約束」

「約束」


今度は、守れる気がする。


今度は、一人じゃないから。


彼の腕に、寄りかかる。


まだ、怖いものはある。まだ、不安もある。


でも、今は。


大丈夫な気がする。


桜は、毎年咲く。


私たちも、毎年ここに来る。


それが、新しい約束。


風が吹いて、花びらが舞う。


彼が、優しく笑う。


私も、笑う。


                   完



後書き

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。


春の夜、桜並木で再会した私たちは、やっと本当の意味で一つになれた。


私の全てを彼に話して、彼は全てを受け入れてくれた。


身体のコンプレックスも、子どもへの不安も。


全部、受け入れてくれた。


「君を愛することだけは、誰にも負けない」


その言葉が、私を救ってくれた。


触れられることが怖かった私が、今は彼に触れられることを求めている。


抱きしめられることを、望んでいる。


彼と出会えて、本当に良かった。


これから、どんな未来が待っていても、彼と一緒なら大丈夫。


二人で、幸せになる。


「ずっと、そばにいてほしい」


彼の言葉が、心に響く。


うん。


ずっと、そばにいる。


これからも、ずっと。



触れられない恋に悩む人へ。


このnoteが、あなたの心に信じる勇気を灯せたら嬉しいです。









































































いいなと思ったら応援しよう!