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【第1話】:好きなのに、触れられない。彼を傷つけた夜の話~触れられない恋から、愛を知るまで~  


第1話:好きなのに、触れられない。彼を傷つけた夜の話



「やっぱりね」


その言葉が、胸に突き刺さった。




   好きなのに、触れられない。

   触れられることが、怖い。

   家に行くことが、怖い。


  それでも、彼のことは好きだった。

だから、この日が来ることは、わかっていた。


彼に、「やっぱりね」と言われる日が。



夏の終わりの夜。

車の中は、エアコンが切れて少し蒸し暑かった。


「これから、家くる?」


彼はいつもどおりの優しい口調で、初めてそう聞いた。


期待していない声。

私がNoと言うことを、もうわかっているような声。


私は、何も言えなかった。


頭が真っ白になった。

喉が詰まって、息ができない。

答えを探そうとしても、何も見つからない。


あ、やばい。と、どこか冷静な自分がいて。
そんな自分の感情とは裏腹に体が震え始めた。

手だけじゃない、全身が。

どうしよう。止められない。

パニックだった。


家に行くことが怖い。

触れられることが怖い。

期待に応えられない自分が怖い。

このまま彼を失うことが怖い。


でも、どうしたらいいのかわからない。


5秒。10秒。30秒。

どれくらい経ったのかわからない。


彼が、小さくため息をついた。

静かな、諦めたような、ため息。

やけに車の中に響いたそれが、まるで止まった時間を動き出す合図のようだった。

その音が、胸の奥に突き刺さった。

針が刺さるような、鋭い痛み。


「...やっぱりね」


彼の声は、優しかった。

怒っていなかった。

責めてもいなかった。


それがいちばん、痛かった。


彼の表情は見えなかった。

いやーー

   見る勇気がなかった。


車の中の空気が、やけに冷たくて。


私は震えながら、ただ座ってることしかできない。

謝りたかった。なにを?

説明したかった。なんのために?

今さら謝っても、説明しても遅いじゃないか。

だって私はーーー

   触れられるのが、怖いなんてーーー



彼は、もう何も言わなかった。




エンジンがかかる音。


車が動き出した。

いつもの道を、いつもの速度で。


二人とも、何も話さなかった。


窓の外を流れる景色。

信号の赤。青。

通り過ぎる街灯。


すべてが、遠くに感じた。


私のマンションの前で、車が止まった。


    「ありがとう」

    小さな声で、やっと言えた。


    「うん。おやすみ」

    彼の声も、小さかった。


ドアを開け、閉める。
何か言わなきゃと思うのに、

  「またね」が、言えなかった。


車のテールランプが、遠ざかっていく。

赤い光が、闇に消えていく。


私はその場で、呆然と立っていた。




部屋に戻っても、何も手につかなかった。


   苦しくて、哀しい。

   彼を傷付けた、私は最低だ。

 
   なのに、涙が出なかった。


目は乾いたまま。
どこもかしこも痛い気がするのに、不思議なことに感覚がない。

ただ、一つだけわかるのは、

   心だけが、痛かった。


「やっぱりね」


その言葉が、頭の中で何度も響いた。


彼は、知っていたんだ。

私が答えられないことを。

私が逃げることを。


それでも、聞いてくれたんだ。

最後のチャンスを、くれたんだ。


涙も出ないまま、朝になった。


                第1話・完



あとがき


数年前まで、家から出られなかった。

人の視線が怖くて。

誰かに触れられることが、何よりも怖くて。


やっと外に出られるようになっても、

家族以外に触れられることだけは、まだ怖かった。

"恋"なんて、もう一生できないと思っていた。


でも、彼と出会った。


優しい人だった。

私のペースに合わせてくれる人だった。


それなのに、私はーーー


                



【次回予告】

第2話「触れられない理由を、彼に説明できなかった」

   彼に連絡ができない。

   何を言えばいいのか、わからない。

   無気力に過ごす日々の中で、

私は自分の「触れられない理由」と向き合う。

   なぜ、触れられるのが怖いのか。

   なぜ、家族だけは大丈夫なのか。



触れられない恋に悩む人へ。

このnoteが、あなたの心に信じる勇気を灯せたら嬉しいです。



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