最近、雨の日が多いですね。
悪天候のなか、傘を片手に出勤している方も、
多いのではないでしょうか。
私も、そんな一人です。
雨の日の朝は、やることが一つ増えるだけで、 心の中の余裕が、
少しずつ濡れていきます。
傘を持つか。
折り畳み傘で済ませるか。
それとも、長傘で万全に備えるか。
ただ家を出るだけなのに、 なぜか小さな作戦会議が始まるのです。
先週、そんな雨の日の朝に、 ちょっと “ドジ” な出来事がありました。
今日は、そのお話をご紹介します。
私は、折り畳み傘を三本持っている。
いつも、玄関の傘置き場に、
三本スタンバイさせている。
その他に、置き傘として、
会社にも一本。
つまり、合計四本。
雨に備える大人としては、
なかなか優秀な布陣である。
もはや、ちょっとした雨対策本部である。
自分でも少し思う。
私は、折り畳み傘に関しては、危機管理能力が高い。
……はずだった。
ある朝、テレビの天気予報が言っていた。
本日は、昼過ぎから小雨が降るでしょう。
小雨。
この言葉が、また微妙である。
大雨なら、迷わず長傘を持つ。
晴れなら、持たない。
しかし、小雨。
降るのか。
降らないのか。
傘は必要なのか。
必要ないのか。
小雨というものは、
人の判断力を、そっと試してくる。
しかも、折り畳み傘なら持っていける。
普通の傘ほど邪魔ではない。
でも、持つと少し重い。
この「少し」が、
朝の忙しい時間帯での判断をややこしくする。
私は玄関へ向かった。
いつもの場所に、
折り畳み傘が三本ある。
……はずだった。
しかし、見てみると、
一本しかない。
あれ?
いつも三本スタンバイしているはずなのに。
今日は一本だけ。

残りの二本は、どこへ行ったのだろう。
折り畳み傘というものは、
小さくなるぶん、
行方不明になる能力も高い。
傘袋が最たるものだ。
普通の傘なら、まだ目立つ。
しかし折り畳み傘は、
鞄の奥、棚の隙間、会社の机、ロッカーのすみ、
どこにでも潜伏できる。
なかなかの忍者である。
私は少しだけ考えた。
会社に置いたのか。
いや、会社には会社用の置き傘がある。
どこかの店に置いてきたのか。
それとも、前に使ったあと、
別の鞄に入れたままなのか。
いや、折り畳み傘は小さい。
小さいから、
なくしたことにすら、すぐ気づかない。
これはもう、傘というより、
携帯型の記憶テストである。
ただ、その朝は時間がなかった。
深く考えている余裕はない。
昼過ぎには小雨が降るらしい。
ならば、今ここにある一本を持っていけばいい。
私は、玄関に残っていた最後の一本を手に取った。
そして、鞄に入れた。
これで安心である。
折り畳み傘が一本あれば、
小雨くらいなら十分だ。
むしろ、
大人としての備えは完璧である。
しかし、玄関を出てすぐに思った。
今日はよりによって、
会社のパソコンに資料も入れている。
その上に、
折り畳み傘まで入っている。
鞄が重い。
働く大人の朝は、
だいたい気分も少し重い。
まして本日、雨の予報。
空まで、こちらの肩に乗ってくるようである。
駅まで歩く。
鞄が肩に食い込む。
今日はパソコンも資料もある。
そのうえ、
折り畳み傘も一本入っている。
重いのは当然である。
ただ、重いのは鞄だけではなかった。
玄関から消えていた、
残り二本の折り畳み傘の行方。
それを考えると、
少し心まで重い気がした。
傘は軽いはずなのに、
行方不明になると、急に気持ちまで重くする。

会社に着いた。
仕事をした。
昼過ぎ、天気予報どおり、
外は少し暗くなってきた。
小雨が降るかもしれない。
私は安心していた。
大丈夫。
今日は折り畳み傘を持ってきている。
玄関に最後まで残っていた、
あの一本である。
私の危機管理能力は、
まだちゃんと生きている。
帰る時間になった。
念のため、鞄の中を確認した。
折り畳み傘はあるはずだ。
よし。
私は鞄の中に手を入れた。
傘が出てきた。
当然である。
今朝、入れた一本である。
ところが。
その奥に、
何か硬いものが触れた。
ん?
私はもう一度、
鞄の奥に手を入れた。
折り畳み傘が、もう一本出てきた。
……なぜ。
そして、さらに奥から、
もう一本出てきた。

つまり。
玄関から消えていたと思っていた残りの二本は、
旅に出たわけではなかった。
会社にも、店にも、駅にも、
置き忘れていたわけではなかった。
ずっと、
私の鞄の中にいたのである。
しかも、三本そろって。
私は鞄の中を見つめた。
折り畳み傘、三本。
パソコン、一台。
資料、いろいろ。
その他、仕事道具もろもろ。
重いはずである .. ... …
朝から私は、
小雨に備えていたのではない。
局地的豪雨にも対応できる装備で出勤していた。
いや、もはや会社員ではない。
移動式の防災倉庫である。
それにしても、
なぜ気づかなかったのか。
折り畳み傘は、たしかに小さい。
小さいけれど、
三本集まると、ちゃんと存在感がある。
一本なら、念のため。
二本なら、心配性。
三本なら、もはや傘の会議である。
鞄の底で、
きっと話し合っていたに違いない。
「今日、出番あるかな」
「小雨らしいよ」
「三本もいる?」
いるわけがない。

しかも、会社には置き傘が一本ある。
つまり、その日の私は、
折り畳み傘を四本体制で運用していたことになる。
鞄に三本。
会社に一本。
合計で、四本。
数が合っているようで、
運用がまったく合っていない。
雨対策本部としては、
在庫管理に大きな問題がある。

私は、ふと思った。
朝、玄関で私は思った。
傘が無い。
でも、本当は違った。
傘は無かったのではない。
鞄の中に、ありすぎたのである。
しかも、全部、
自分で入れたままだった。
傘は落としていない。
忘れてもいない。
ただ、私の記憶から、
きれいに落ちていただけである。
今日の話に、大きなオチはない。
傘が無いと思った。
でも、あった。
むしろ、ありすぎた。
雨への備えは万全だった。
ただし、
自分の記憶への備えは、
まったく足りていなかった。
落ちの無い話ですが、今日はこの辺で。
折り畳み傘は三本とも無事でした。
会社の置き傘も無事でした。
私の肩だけが、少し雨に打たれたように重くなりました。

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