〜心の羽を広げて〜
雨宿りをして、
濡れた羽を乾かした。
宿り木にとまり、
心の羽をそっと休めた。
雨音を聞きながら、
風の音を聞きながら、
少しずつ呼吸を整えてきた。
そして、ある日。
ふと空を見上げたとき、
少しだけ羽を広げてみようかな、と思う瞬間が来る。
それは、
大きな決意ではないのかもしれません。
何かが大きく変わったわけでもない。
急に強くなったわけでも、
迷いがすべて消えたわけでもない。
それでも、
昨日より少しだけ、空が澄んだように感じる。
遠くの光が、
前より少しだけ、やわらかく感じる。
風が、
少しだけ心地よく感じる。
そんな小さな変化に気づいたとき、
心の羽は、そっと広がりはじめるのかもしれません。

飛翔とは、
いきなり高く飛ぶことではないと思います。
誰よりも遠くへ行くことでも、
誰かに見上げられるほど大きく羽ばたくことでもない。
自分のタイミングで、
自分の空へ向かって、
そっと羽を広げること。
それだけでも、
十分に飛翔なのだと思います。

長く羽を休めたあと、
空へ戻るのは少し怖い。
また雨が降るかもしれない。
また風にあおられるかもしれない。
また途中で、
どこかの枝にとまりたくなるかもしれない。
でも、それでいい。
雨が降ったら、
また雨宿りをすればいい。
疲れたら、
また宿り木を探せばいい。
一度羽をたたんだからといって、
空へ戻れなくなるわけではありません。
一度枝にとまったからといって、
飛ぶことを諦めたわけでもありません。
休んだ時間があったからこそ、
見える空があります。
羽をたたんだ時間があったからこそ、
感じられる風があります。
雨の冷たさを知っているから、
光のあたたかさに気づける。
静かな枝の上で過ごした時間があるから、
次の風を待つことができる。
だから、
雨宿りをした時間も、
宿り木で休んだ時間も、
何も無駄ではなかったのだと思います。
飛ぶことは、
強くなることだけではありません。
弱さを消してから、
空へ向かうことでもありません。
不安を抱えたまま、
それでも少しだけ羽を広げてみること。
完璧な自分になるのを待たずに、
今の自分のまま、風を感じてみること。
それもきっと、
心の飛翔なのだと思います。
高く、遠く飛べなくてもいい。
今日は、
ほんの少し空へ出てみるだけでいい。
昨日より少しだけ、
顔を上げてみるだけでいい。
できなかったことを数えるより、
ここまで羽を休めてきた自分を、
少しだけ大事にしてあげたい。
濡れた日もあった。
羽をたたんだ日もあった。
枝にとまって、
静かに風を待った日もあった。
それでも、
心の奥では、ちゃんと準備が進んでいた。
そして今、
もう一度、空を見上げている。
それはきっと、
小さな飛翔です。

飛び続けなくてもいい。
ずっと元気でいなくてもいい。
誰かの早さ、
誰かの高さと比べなくてもいい。
自分の空を、
自分の速さで飛べばいい。
雨宿りをしたあなたへ。
宿り木で羽を休めたあなたへ。
今度は、
心の羽をそっと広げてみませんか。
高く飛ばなくてもいい。
遠くまで行かなくてもいい。
まずは、今日の空へ。
今のあなたのままで、
心地よい風を感じながら、
ゆっくり羽ばたいていけますように。

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