世界3位のレストランへ。メキシコシティ「QUINTONIL」全皿レポ——日本文化へのリスペクトに満ちた、忘れられない夜。--->
📌 エビデンス: 2025年、「The World's 50 Best Restaurants」にて、QUINTONILは世界第3位(北米ベストレストラン)を獲得。ミシュラン2つ星も保持。メキシコのレストランがトップ3に入るのは史上初。
まず、メキシコシティという街について——洗礼を受けた話
QUINTONILを語る前に、この街について書いておかなければならない。

メトロ・ベジャスアルテス駅。パリで生まれたギマール設計のアール・ヌーヴォーが「París – México」として移植されている。背後には金色のドームを持つパラシオ・デ・ベジャスアルテス。
メキシコシティは「そういう街」だ。スペイン植民地の建築、パリのアール・ヌーヴォー、アステカの壁画、現代アート、抵抗運動のグラフィティ——あらゆる時代と文化が地層のように重なり、今も現在進行形で変化し続けている。

白黒のオプアートが壁面を覆う地下への階段。欄干はパリのギマール設計そのもの。

セントロ・ヒストリコの歩行者通り。書店「ポルーア」が見える。夕暮れ時、あらゆる人がすれ違う。

ベニート・フアレス大統領のへミシクロ記念碑。壁面には連帯のペインティングが施されていた。

同じ夕暮れ、旗を持つ人々の群れ。歴史と政治と民衆が渦巻く——それがメキシコシティだ。
そして、やらかした。
QUINTONILに行く日、時間まで街の観光と冒険心から地下鉄に乗ろうとした。

「クアトロ・カミノス行き」のサインが光るホーム。この地下鉄に乗るために、私は洗礼を受けることになる。
メキシコシティの地下鉄は現金のみ。ICカードや交通系カードはなく、チケットを窓口で買うか、プリペイドカードに現金をチャージする必要がある。当然、現金が要る。
近くのATMでWiseカードを使って現金を引き出そうとした。操作が終わり、600ペソ引き出したら46万引き落とされていた。。。


「46万円が引き出されました」
スキミングATM。メキシコシティ、特に観光地周辺には、内部に読み取り装置を仕込まれた改ざんATMが存在する。
この顛末はこちらにも書いた→ note記事:メキシコシティで46万円のATM被害に遭った話
この「洗礼」を経て夜、QUINTONILへ向かった。
QUINTONILとは
メキシコシティのポランコ地区に佇む、シェフホルヘ・バジェホと妻アレハンドラ・フローレスが2012年に開いたガストロノミーレストラン。店名は、メキシコで古くから食されてきたアマランス科のハーブ「キントニル」に由来する。
ノーマ(コペンハーゲン)やプホル(メキシコシティ)での経験を経て開業した二人が掲げるのは「メキシコの食材と伝統技法を、現代の文脈で表現する」こと。使用食材の98%がメキシコ産というこだわりは、世界の美食家たちを強く惹きつけている。

ポランコの夜。控えめな黒いファサードに、ミシュランのシールがひっそりと貼られている。「QUINTONIL 55」という番地だけが夜に浮かぶ。
アクセス・基本情報
📍 住所: Av. Isaac Newton 55, Polanco, Polanco IV Secc, Miguel Hidalgo, 11560 Ciudad de México
🕐 営業時間: 月〜土 13:00〜14:00 / 17:30〜21:30(要予約・日曜定休)
💺 席数: 42席(別途カウンター席あり)
💰 料金(October 2025):
コースメニュー:$5,100 MXN(約43,000円)
Liquid Horizons ペアリング:$2,800 MXN
メキシカンワインペアリング:$2,600 MXN
Terroir & Rarities ペアリング(最上位):$7,000 MXN
ノンアルコールペアリング:$1,800 MXN
コースメニュー——「OUR MEXICO」October 2025

シンプルなリネン地のバインダー。「QUINTONIL」のロゴだけが刻まれている。

「OUR MEXICO OCTOBER 2025」全メニュー。Chileatoleから始まりDulces mexicanosまで全14皿。Menu $5,100 MXN / Terroir & Rarities Pairing $7,000 MXN。
「OUR MEXICO」——「私たちのメキシコ」。このタイトルを最初に見たとき、すべてが繋がる気がした。
空間・内装

ウォームトーンの木材で統一された空間。奥のカウンター席からはオープンキッチンが見渡せる。

入口付近の待合スペース。バックライトの棚にはアレブリヘやワインボトル、50 Bestのトロフィーが並ぶ。
何よりも印象的なのがスタッフの数の多さ。42席という規模に対して60名以上が働いており、ヨーロッパのミシュラン星付きにありがちな「緊張感」よりも、明るく家族的な雰囲気が漂う。
賞の壁——12年間の軌跡

2013年から2025年まで、「The World's 50 Best」と「Latin America's 50 Best」のプレートがずらりと並ぶ。

50 Bestのトロフィーと、カラフルなアレブリヘが共存する棚。
トイレまで手を抜かない

日本文化へのリスペクト——金継ぎ、わさび、IWA5
金継ぎの器

青磁色の器に走る、細く鋭い金の線。欠けた縁も、割れた胴も、すべて金で繋がれている。
テーブルに置かれた瞬間、視線が釘付けになった。これが「金継ぎ」——割れた陶器を金で繋ぎ直す日本の修復技法だ。シェフのホルヘは日本の友人から金継ぎキットを贈られ、割れた器を自ら修復したのだという。

器の内側から見下ろすと、底にも金の継ぎ目が走る。料理が盛られる前のこの姿も、すでに一つの作品だ。
「壊れたことを隠す」のではなく、「壊れた跡を美として昇華する」という発想。その哲学が、メキシコ最高峰のレストランの食卓に生きている。
IWA 5——日本酒がメキシコシティに来た理由



IWA 5——ドン・ペリニヨンで28年にわたって醸造最高責任者を務めたリシャール・ジョフロワが、退任後に富山県立山町で立ち上げた日本酒ブランド。シャンパーニュのアッサンブラージュ技法を日本酒に応用した前代未聞の一本。
全皿レポ——「OUR MEXICO」October 2025
① Chileatole with wild mushrooms, mexican herbs

コースの幕開け。金継ぎの器に、野生キノコとメキシコのハーブで作ったチレアトレ(とうもろこし・唐辛子ベースの伝統スープ)が注がれる。温かく、土の香りがする一杯。「メキシコ料理のルーツ」から始まるという演出が、すでに意図的だ。
② Crab infladita, pipián verde with sunflower seeds, makrut lime and Thai basil

揚げた生地が膨らんで黄金色に。中から蟹とピピアン・ベルデが顔を出す。

ふわりと膨らんだ「インフラディータ」(揚げ生地)の中に、蟹とピピアン・ベルデ(ひまわりの種・マクルートライム・タイバジルのソース)が詰まっている。タイバジルの香りが鼻を抜ける——メキシコ食材と東南アジアハーブの予想外の出会い。
③ Plantain buñuelo with escamoles, cream infused with Melipona bee honey

割ると、鮮やかなエメラルドグリーンのフィリングが現れる。エスカモーレ(アリの卵)が使われているとは、外観から想像もできない。
プランテンを揚げて作ったレース状の球体の中に、エスカモーレ(食用のアリの卵)とメリポナ蜂蜜のクリームが詰まっている。口に含むと——ナッツのような香ばしさと、蜂蜜の甘さ。「食べてから正体を知る」という体験設計が完璧に機能していた。
④ Mussel tostada with mole de mar

グリルしたムール貝をトスターダの上に乗せ、"モーレ・デル・マール"(ホタテとグリルチリで作ったソース)を添える。
🥗 前菜
Lime pickled tomatoes, jicama and fennel kimchi


黒いフリル皿の中央に、トマトのタルタル仕立て。フェンネルのキムチとヒカマが混じり込む。

背後に食材ボード、手前に完成皿——2段階のプレゼンテーションが、食材への敬意を伝える。
食材を「見せてから食べさせる」という演出。スレートボードに並んだ4種のトマトを眺め、「これが何になるのだろう」と思っていたら、黒皿にタルタル仕立てで提供された。韓国のキムチ発酵技法をメキシコ野菜に応用するという柔軟さに驚く。
Aged kampachi in kombu, spicy herbs aguachile, wasabi ice cream and pickled watermelon radish

鮮やかな赤いリングに囲まれたカンパチ。周囲には緑のハーブオイルが広がり、中央には白いわさびアイスと青い花。テーブルに届いた瞬間、思わず声を上げた。
雪のような白いわさびアイスに、青いボラジの花。ハーブの緑が皿の底から滲み出す。
昆布締めで熟成されたカンパチに、スパイシーハーブのアグアチレ。わさびアイスの冷たさとハバネロの熱が共存する不思議な体験。視覚的な美しさと、口の中での味の爆発——この夜の前半のハイライト。
Gordita de yuca and aged cheese from Ocosingo, Chiapas, chicharrón de wagyu and chicatana ant, suero costeño and lemon balm mojo
ゴルディータと同時に供された別添えのソース。鮮やかなエメラルドグリーンに茶色の渦巻き——これがメニューにある "lemon balm mojo"(レモンバームのモホ)。木のスプーンで掬って、ゴルディータにかけながら食べる。

ゴルディータと同時に供された別添えのソース。鮮やかなエメラルドグリーンに茶色の渦巻き——これがメニューにある "lemon balm mojo"(レモンバームのモホ)。木のスプーンで掬って、ゴルディータにかけながら食べる。

ユカ芋のゴルディータ。ナスタチウムのオレンジが鮮やか。緑のモホソースと和牛チチャロンが絡む。
ユカ芋のゴルディータに、チアパス州の熟成チーズ、和牛のチチャロン(揚げたもの)、そしてチカタナアリを組み合わせた一皿。「昆虫料理」という予備知識がなければ、まったく気づかないレベルに昇華されている。

Smoked biological trout from Baja California, adobo de cocopache, hen of the woods mushrooms pickled in fig leaf

金継ぎの器の上に、スモークトラウトが香ばしく焼かれて乗る。深いオレンジ色のココパチェアドボが皿の底に広がる。
バハカリフォルニア産の有機スモークトラウトに、昆虫「ココパチェ」のアドボを纏わせ、イチジクの葉で漬けたマイタケを添える。標本で見た甲虫が、今度はソースとなって料理に溶け込んでいる。
🪲 昆虫を用いた一皿——食べた後に「見せる」という哲学

料理を食べた後に、昆虫の実物標本と図解カードがテーブルに置かれる。手前:ココパチェ(Tharus gigas)、中:ホルミガ・チカタナ(Hormiga chicatana)、奥:エスカモーレ(アリの卵)。
料理を食べた後にに昆虫の実物標本を見せるという演出。木枠のケースに収められた本物の昆虫と、植物画のような美しいイラストカードが並べられる。見た後だと食べれないかもしれない。
🌵 箸休め
Cactus paddle sorbet

黒い溶岩石のような皿に、淡いグリーンの楕円形ソルベ。その対比が美しい。
サボテンの葉(ノパル)で作ったソルベ。黒い石皿に乗った淡緑色のソルベは、見た目からして「メキシコにしかないもの」を主張している。青臭さと爽やかな酸味が、前の皿の余韻をリセットする。
🫙 メインコース
Pibil pork tamal, young corn cream

土の器の中に、バナナの葉に包まれたタマルが鎮座する。上には白いコーンクリームのフォームとスパイス。

スプーンでほぐすと、ハバネロとシソのソースを纏った豚肉が現れる。コーンクリームのフォームが溶け込んでいく。
ハバネロ入りクレオールソース、シソ、豆ソースを纏わせたタマル。バナナの葉も食用として提供される。シソの使用に、またも日本との繋がりを感じる一瞬。土鍋から立ち上る香りが、食卓をメキシコの家庭の台所に変えていた。
Chichilo negro, rib eye, pico de gallo with huitlacoche and charred vegetables
土の器に盛られた野生キノコたち——ポルチーニ様の大きなキノコ、珊瑚茸、香草が美しく盛られている。この夜のメインを構成する素材のプレゼン。

この夜のハイライト。チリ、チョコレート、パン、ナッツ、糖蜜、シナモンで作ったチチロ(メキシコの伝統モーレ)に、熟成リブアイビーフ、ウイトラコチェ(黒いトウモロコシの黒穂菌)のピコ・デ・ガジョ、そして炭火でチャーした野菜を組み合わせた。圧倒的な複雑さと深みのある一皿。

🍨 デザート
Coconut sorbet with plankton and caviar
「プランクトン」という食材をソルベに忍ばせる。ミネラルと海の香りがする不思議な微生物と、キャビアの組み合わせ。

Mexican cornbread with rompope de nixtamal, vanilla from Chichicaxtle, Veracruz, passion fruit

パンをちぎると、トウモロコシの粒と野菜が顔を出す。ベラクルス州産の天然バニラとパッションフルーツのロンポペを添えて。
Dulces mexicanos

コース最後の「Dulces mexicanos」は、金属製のツリースタンドで運ばれる。イチゴのタルト、チョコレートの正方形、緑色のドーム、黄色のグミ、小さな丸いビスケット——メキシコの菓子文化が一本の木に咲いた。
コースのフィナーレにふさわしい演出。いちごのタルト、カカオのガナッシュ、ノパルのゼリー、チアシードのクッキーと思われる6〜7種の小菓子が、ブランチ状のスタンドに飾られて登場する。「食べ終わった」という感覚を与えず、最後まで視覚で楽しませる。
コース後のコーヒーと小菓子

コース後に供されるコーヒーと、チョコレートチップ入りの小さなクッキー2種。手前がエスプレッソロースト、奥はより軽い焙煎。

丸いものと平らなもの、2種のクッキー。チョコレートの粒が散るシンプルな仕上がりだが、素材の質が高い。
食事の余韻を締めくくるコーヒーサービス。メキシコはコーヒー産地としても世界的に名高く(オアハカ、チアパス、ベラクルス等)、この一杯もそのコンテクストの中にある。
ワインペアリング——Terroir & Rarities ($7,000 MXN)

細長いステムのグラスに注がれた白ワイン。この夜の始まりを告げる一杯。

Egon Müller-Scharzhof の Scharzhof Riesling 2023(モーゼル)。8.5%という低アルコールが、コース序盤の繊細な皿に寄り添う。

イタリア・フリウリのRonchi di Cialla、Ciallabianco 1997。リボッラ・ジャッラ、ヴェルドゥッツォ、ピコリットのブレンド。28年の熟成が生んだ琥珀色。

Williams Selyem / Pinot Noir 2022 / Russian River Valley, Sonoma County。カリフォルニア・ピノの最高峰のひとつ。

黒いラベルに金文字で「L'AVON」。産地やヴィンテージの詳細は確認できなかったが、ローヌ系と思われる。
そしてこの夜の最大の驚き——IWA 5がメキシコシティに現れた。

「Assemblage 1 (2019) / SHIRAIWA K.K. / 178 SHIRAIWVA / TATEYAMA TOWN / TOYAMA JAPAN」——富山県立山町・白岩、Assemblage 1、2019年。
確認できたボトル一覧:
Egon Müller / Scharzhof Riesling 2023(ドイツ・モーゼル)
Granalla / Sauvignon Blanc 2022(メキシコ・バジェ・デ・グアダルーペ)
Ronchi di Cialla / Ciallabianco 1997(イタリア・フリウリ)
Williams Selyem / Pinot Noir 2022(カリフォルニア・ロシアン・リバー・バレー)
L'Avon(詳細確認中)
パタゴニア トゥルソー(Bodega Chacra)
メンドーサ マルベック(Catena Zapata)
シャンパーニュ Edition 172(base 2016, Reims)
IWA 5 Assemblage 1(2019)(富山県立山町・日本)

正直な感想: 旧世界から新世界、そして日本まで縦横無尽なラインナップで、地理的な広がりは申し分ない。ただ、料理のダイナミックさに比べると、ペアリングの「必然性」をもう少し感じたかった。 料理が放つ「メキシコにしかない体験」という熱量に対して、ワインの選択は比較的オーソドックスだった。
〆:食事の後に手渡されたもの
コースの最後に、スタッフから2つのギフトが手渡された。
メニュー冊子(その日のすべてのボトル名入り・ベリー仕様)
重要食材にまつわる書籍(トウモロコシ、ミルパ農法、メキシコのチーズについて)

「食べ終わったあとも、食卓が続く」。そんな体験の設計に、ホスピタリティの本質を見た気がした。
総評
項目評価
料理のクリエイティビティ⭐⭐⭐⭐⭐
食材の多様性・ストーリー性⭐⭐⭐⭐⭐
ペアリングの質⭐⭐⭐
サービスの温かさ⭐⭐⭐⭐⭐
内装・空間⭐⭐⭐⭐
コスパ(世界3位として)⭐⭐⭐⭐
正直に言う。純粋に「美味しい」という点だけで言えば、世界にはもっと上があるかもしれない。一皿一皿の味の精度という意味で、ここを超える体験は他にも存在する。
ただ、QUINTONILで得られたものはそれとは別の次元にあった。
昆虫を料理として完全に昇華する技術と思想。金継ぎという日本の美学を食卓に持ち込む感性。わさびアイス、昆布締め、シソ——日本の食文化がメキシコ料理の文脈の中で何の違和感もなく生きている。IWA 5が世界3位のレストランのペアリングリストに載っている。それがメキシコシティの、ポランコの、一軒のレストランの食卓で起きていた。
世界のトップレストランで、日本の食や文化がこれほどまでにリスペクトされている——その事実に、素直に驚いた。そして、日本人として誇らしかった。
メキシコシティという街の振れ幅も、この夜を際立たせた。路上でスキミングATMに46万円を抜かれ、世界3位のレストランへ。その落差が、この街を象徴している。何もかもが本物で、退屈している暇がない。
「美食」を求めるなら他にも選択肢はある。でも「体験」を求めるなら——特に、日本人が世界の中の日本を感じたいなら——QUINTONILはその答えの一つになり得ると思う。
📍 QUINTONIL Av. Isaac Newton 55, Polanco IV Secc, Miguel Hidalgo, 11560 Ciudad de México 公式サイト | @rest_quintonil 営業:月〜土 13:00〜14:00 / 17:30〜21:30(要予約)
The World's 50 Best Restaurants 2025 — 第3位(北米ベストレストラン) ミシュランガイド メキシコシティ 2025 — 2つ星
⚠️ メキシコシティ旅行者へ:ATMは使わないほうが良いです。ペソにしたいなら空港の方がレートが高くても安全です。
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