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②ナナホシテントウ_kigi.

指先は痺れ、胸は焼けるように痛く重く、両の手足は自分のものではないみたいだった。
立っているのがやっとで全身磔にされているかと思うほど、不自然な引き攣れを感じる。

「……うう…」

声が、出ない。

声だけでなく、呼吸やまばたき、その他ありとあらゆることの仕方を忘れてしまっている。

さっきまでペラペラ喋っていたのは、僕が心から気を許し、慈しみ、愛していた親友みたいな存在のはずだった。
たった1日、いや30分前まではたしかにそうだったもの。モミ。
今はすべてがガラガラと音を立てて崩れ去ってしまった。
どうなってしまったのか混乱する頭で整理してみる。
だけどうまくいかない。
それは半分以上もピースの数が足りないパズルを完成させるようなものだった。

モミは今まで見たことのないような真っ白の甲羅のような防護服を着て
接したことのないような瞳で僕を正面に見て言った。

「またね。」

瞬間的に、もう会えないのだということがわかる。
こんな時にも僕の勘は冴え渡っている。
間違いない。

僕のわがままを黙って許し、どんな突飛な願いでも否定せず、隣で一緒に歩いてくれた大切なモミ。
これまで誰かにこんなにも心を預けたことはなかった。
自分で思っていた以上に彼女に寄り掛かってきたのだ。
もうすべて幻になってしまうのか?

少なくとも僕の記憶の中の彼女は幻想の彼方に消え去ってしまって、手元には一片の紙切れだけがか弱く残されているのみだ。
これはなんだ?思い出せない。

声だけじゃない、涙さえ出ない。
そのことがユルにとっては何よりも辛かった。
涙や汗を流したり歩いたり呼吸したりすることがこんなにも尊いものだったのか、感動すら覚える。

毒になるってことくらい分かっていた。

だからいつだって、何に対してものめり込み過ぎないように気をつけてきたのだ。

ふと見上げた電柱がぐにゃりと溶け出す。
交差点にいたはずの何台もの車は今や影も形もない。
月は2つに割れて砂時計みたいに世界に降ってきたかと思えば、空間がマーブル模様に混ざり合っていく。天と地の境が曖昧だ。

変な匂いがする。
これは、樹液の匂い?それとも、モミがよく焼いてくれたアップルパイの香り?

そんなことを考えていたら足元に一匹のてんとう虫が止まった。
やけにくっきりとした輪郭をしている。
この世界でたった一つの真実であるかのように赤と黒の模様が眩しいほどのナナホシテントウ。思わず目を瞑る。

次の瞬間、すべての音が止まった。
月も全て落ちてしまい、光も失ってさっきの変な香りとてんとう虫の羽音だけが響いている。

その時、ユルの心は不思議なくらい穏やかに安らいでいた。
少しずつ、深呼吸。
目を開けたらまったく違う世界と繋がっているはず。
ほんの少しだけ軽くなった心でゆっくりと目に光を入れてみる。

大丈夫、まだ歩ける。


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