⑭ナナホシテントウ_夜更かしカフェオレ
「え!良いんですか?」
ユルは反射的に背筋を伸ばした。反動でズレた眼鏡を咄嗟に直しながら「これはチャンスかも」そう思った。研究は好きだが、好きだからといっていつまでも続けられるわけじゃない、先立つものが必要だ。今や研究も商売だ。
日々の“作業”に忙殺されるなかで、思考停止してしまっていたが、そろそろ次のステップのことも考えていかないといけない。実際は逆で、考えたくないから“作業”に没頭してるのかもしれない。
そんな中、OBOGが古巣の研究室をわざわざ訪ねてきての“我々の研究所”へのお誘い、断る理由がない。
「じゃあ、今からどう?ここから30分の距離だし!」
”planck_L”の写真の女性が続けるのを、男が両手を開いて“呆れた”のポーズでおどけながらも、続きを促した。
「あなたには資格があると思うの。メッセージは届いたでしょ?」
“今から”!“資格”?“メッセージ”?ユルは話についていけず、しばらく言葉が出ない。
「planck_L…」
男がポツリと、でもはっきりと聞こえるように言った。
ユルの顔色がサッと変わる。それを察して男が、
「いや、良いんだよ。あれは一種のボトルメールなんだ。瓶に手紙を入れて海に流すやつ…」
と加える。
「planck_Lがメッセージで、それが届いたってのが資格ってワケなの。これは偶然じゃないわ、ボトルメールが届くのが必然なのと同じように。」
ユルは考える。”planck_L”は男からのメッセージだった。そして、それにより何らかの資格が生じた。その資格が研究所へのお誘いだとしたら、なんと棚ぼたな話だろうか?そこまで考えて思わず頬が緩んだが、同時に違和感が口に出る。
「でも、なんでボトルメールなんですか?」
”planck_L”の写真の女性が何か言おうとするのを、男が遮る。
「うーん。我々は外の世界と遮断されていて、連絡の手段がアレしかなかった。」
男の眉間には深い皺があらわになる。明らかに言葉を選んでいるというか、説明に苦悩しているのが見て取れる。
「そしたら、お二人はここから30分の絶海の孤島に囚われていて、助けを求めるためにボトルメールを送ったというわけですか?」
ユルは男の説明がさっぱり分からないというように、ちょっとおどけて言う。
すると二人はハッとして顔を見合わし、ユルの方を向いて、
「察しが良い!」
二人の声がシンクロした。
