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【画家・絵本作家の声】舘野 鴻さん~企画展「たてのひろし絵本のしごと」によせて

こんにちは、あっという間に年が明け、2026年の始まりです。
今期の冬は今のところ、安曇野も昨年よりも冬らしさを感じています。
寒い日ほど美しい自然の現象に遭遇することが増えることを感じ、日々森の中を楽しんでいます。

さて、当館では、そんな自然と人との関係について見つめ直していただける企画展「たてのひろし絵本のしごと」展を開催中です。
2026年1月26日(月)までの期間、絵本5タイトルの原画、各全点とそれに関連する資料を展示をしています。

美術館の敷地入り口付近に立つ看板のポスター

舘野鴻さんは、自ら、昆虫の観察・実験を含む生物調査をしながら絵本を創作、小さな生き物たちの生きざまを通して、自然界・宇宙の中での人のあり方を問う作品を作り続けています。
今回の記事では、そんな舘野鴻さんのインタビューをお送りします。

原画を展示中の5タイトルの絵本についてや、絵本を創作するにあたって大切にしていること、現在の舘野鴻さんの頭の中を少しでも覗いて見れるような内容です。

舘野 鴻さん
2025年12月6日、森のおうちカフェスペースにて撮影

生物画家・絵本作家 舘野鴻さんについて

たてのひろし(舘野鴻)さんは、幼少時より熊田千佳慕氏に師事し、土木作業員や生物調査のアルバイトの傍ら現代美術の創作や音楽活動を続け、その後、図鑑の標本画や解剖図、景観図などのリアルイラストを描く仕事に従事。2005年より絵本創作を始めました。

2007年頃の舘野鴻さん(左)と熊田千佳慕さん(右)

舘野 鴻(たてのひろし)プロフィール 
1968年、神奈川県横浜市生まれ。幼少時より熊田千佳慕氏に師事。
中高生のときは生物部所属。札幌学院大学在学中に演劇、舞踏、音楽と出会う。
土木作業員や生物調査のアルバイトの傍ら、現代美術の創作や音楽活動を続けた。
その後、図鑑の標本画や解剖図、景観図などのリアルイラストを描く仕事に従事し、2005年より絵本創作を始める。主な絵本に『しでむし』『ぎふちょう』『つちはんみょう』(小学館児童出版文化賞受賞)『がろあむし』(以上、偕成社)、『みかづきのよるに』『うんこ虫を追え』(以上、福音館書店)『どんぐり』(小峰書店)、『うさぎのしま』(共著/近藤えり・世界文化社)、『すずめばち』(福音館書店)など。読み物に『ソロ沼のものがたり』(岩波書店)など。文章を手がけた絵本に「3びきのあまがえる」シリーズ(かわしまはるこ/絵・世界文化社)、『ねことことり』『あおいことり』(なかの真実/絵・世界文化社)などがある。
徹底的な観察をもとに描かれる繊細かつダイナミックな作品で知られ、生物画や本の装画も多く手がける。フィールドワークを中心とした生活を送り、野生動物たちの生き様に目を凝らしながら絵を描く。神奈川県秦野市在住

森のおうち「たてのひろし絵本のしごと」目録より

舘野さんと森のおうちの出会い

2017年、舘野さんが常念岳への取材の途中で森のおうちを訪ねてくださいました。そこから対話を重ねて、2022年には当館にて、細密画を中心とするそれまでの主要作品の表紙や、作品の幅を広げることになった絵本原画たちを展示し、好評を得ました。

その時の様子などは2022年10月8日投稿のnote<【画家・絵本作家の声】舘野 鴻さん「虫たちはこう生きている。私たちはどうか」~舘野鴻作品展によせて>をご覧下さい。

その後、新しいことに挑戦し続けている舘野さんは、さらに今年だけでも3冊の新作絵本を発刊しています。

今回の企画展では、2023年以降に手がけた作品5タイトルの原画全点と、関連する原画や資料を展示しています。

原画を展示中の絵本書影
『どんぐり』 たてのひろし/作・絵 (小峰書店)2023 年刊
『すずめばち』舘野 鴻/作・絵 (福音館書店)  2025年刊
『うさぎのしま』 近藤えり、たてのひろし/共著 (世界文化社) 2025年刊
『あまがえるの たんじょう』 たてのひろし/作、かわしまはるこ/絵 (世界文化社) 2023刊
『あおいことり』 たてのひろし/作、なかの真実/絵 (世界文化社) 2025年刊

「絵本とは何か」を問い続けながら表現の幅を広げ続けている「たてのひろしの絵本のしごと」を、原画と共にインタビューをご覧いただくことで、さらに深く知って頂ければ幸いです。

舘野鴻さんへのインタビュー

※細字が質問、太字が舘野さんの言葉です

この度の当館展示では、2023年〜発刊(発表)になった絵本作品たちを一同に掛けることになりました。前回2022年に原画展をさせていただいた時から、さらにパワーアップした“たてのひろし作品”を見ることができる今回の展示かと思います。
この3年間を振り返って、どんな期間でしたでしょうか。

2022年は私にとって大きな転期でした。
もともと「昆虫画」や「細密画」に拘っているわけではなく、さまざまなもの、ことを対象にさまざまな表現活動をしていたつもりです。その延長で虫を描くことが多くなり、仕事でもそんな形になりました。このままなら「孤高の昆虫細密画家」みたいなことになりかねない。私はそういう感じがとても嫌なので『がろあむし』(2020)を契機に別の表現を探り始めました。

それが出版という成果になって現れたのが2022年でした(みかづきのよるに・うんこ虫を追え・ソロ沼のものがたり・ねことことりの出版)。

図らずも児童書というカテゴリーで仕事をさせていただいていますが、この仕事との出会いは私にとって大きな出来事でした。
社会に育てられ社会から食い扶持をあてがわれた木偶の坊がこの先いよいよ老いていく。その立場で今何ができるのか。親となってから幼児保育、学校教育の現場に関わってきた中で「子どもにとってどうなのか」という問いが制作の原点となり、この3年間もその問いから現れる表現の姿を捉えようとする時間でした。

しかしその姿は未だ私にはわからず手探りをするばかりです。おそらくこの先もそんな感じでしょう。

2025年10月25日企画展関連イベント「タテノin安曇野~こどもタテノ塾」で森の中を歩く
2025年10月25日企画展関連イベント「タテノin安曇野~こどもタテノ塾」子どもと一緒に観察
2025年10月25日企画展関連イベント「タテノin安曇野~こどもタテノ塾」子どもと絵を描く


今回のそれぞれの展示5作品について短くて結構ですので、見どころや作品への想いをお聞かせ下さい。

◆『どんぐり』について

どんぐり一つ一つはみな、この先数十年から数百年の生存の可能性を持ちこの世に生を受けました。しかし、ほぼ全てのどんぐりは死んでいきます。
この絵本は、どんぐりの死を描いています。その死と引き換えに輝く生があり、一つも無駄な死はない。世界はいつもそうなっています。

本作は私の過去の作品と未来の作品のスピンオフでもあります。その手がかりを探してみてください。文字がない絵本ですが、文字を書くとその文字の持つ意味を中心に脳が絵と関連させようとするために、絵に描かれた他の情報を見落とします。文字はある場合において不要になるということを、この絵本で検証しています。

この作品ではオリジナルの映像作品も制作し、続く2作『やまゆり』『もみじ』(予定)も映像化する計画です。

『どんぐり』 たてのひろし/作・絵 (小峰書店)
企画展会期中に仕上がった『やまゆり』(小峰書店刊行予定)の表紙絵
2026年1月20日(火)、21日(水)、23日(金)、24日(土)は『やまゆり』の原画を当館にて公開制作予定


◆『すずめばち』について

主人公のキイロスズメバチは害虫です。見つけたら刺されないようにして殺さなければなりません。
ではそのキイロスズメバチの一生を見てみましょう。人は出てきません。ここでキイロスズメバチは人にとって害虫になっているでしょうか。ただひたすらに、一生を全力で燃焼し次世代を残し死んでいきます。

そんなキイロスズメバチにとって、私たち人は何者なのでしょう。
きっと害獣なのではないでしょうか。

この絵本は、描かれるものの細部や画面の構成を記憶し、参考資料を見ずに平塚市美術館や私立中学校で原画を公開制作をした作品です。
1975名の観覧の方々がその証人となり、その様子を撮影した映像作品《絵本『すずめばち』公開制作9 日間の記録》(山本草介監督)は証拠となります。

※企画展会場では、映像作品をご覧頂けます

『すずめばち』舘野 鴻/作・絵 (福音館書店)
舘野さん手作りのすずめばち、がろあむしのお面も


◆『あまがえるのたんじょう』について

「3びきのあまがえる」シリーズの最終章です。
ラッタ、チモ、アルノーの誕生までを追った内容で、中盤は科学絵本の性質が強調されています。この描写は《死》を描く上でとても大切なことで、子どもたちが死を理解していくために必要な視点の一つと考えています。
死は誰にでもやってくるごく自然なできごとですが、それは多くの作家にとって重要なテーマです。

アマガエルを取り巻く環境や生態などの客観的な事実の描写は、かわしまはるこさんの長年にわたる精緻な観察に拠っています。その事実をいかに自然に「物語」として伝えるか。それだけではなく、絵本制作に必要な要素は無数にあり、難しいものですが、それが面白さでもあります。
まずは生き生きと描かれたあまがえるたちの物語をお楽しみください。

「3びきのあまがえる」シリーズ たてのひろし/作、かわしまはるこ/絵 (世界文化社)


◆『あおいことり』について

前作『ねことことり』の対となる作品です。
「猫」を人間社会、「小鳥」を自然界に重ねたおとぎ話です。
猫と小鳥はコブシの小枝を介して親睦を深めますが、猫が大量に集めているコブシの枝は小鳥が家を作るために欠かせない材料でした。この作品は思いやりにあふれた友情物語のように見えますが、仲良くなった小鳥を猫が知らずに絶滅に追いやろうとしていた、という「毒」を含んだお話です。

ところが、あとがきを書かなかったことやイラストの華やかさに物語が埋もれ、そのメッセージは読者にほとんど届きませんでした。
新作では小鳥側から物語が語られます。なかの真実さんの華やかなイラストと秘められた物語を、裏表紙に至るまでお楽しみください。

『ねことことり』『あおいことり』 たてのひろし/作、なかの真実/絵 (世界文化社)


◆『うさぎのしま』について

うさぎの島として知られる広島の大久野島が舞台の作品です。

第二次対戦中、この島で国際条約で製造、使用を禁止されていた毒ガス兵器を極秘で製造していました。この毒ガスは中国で実際に使用され、多くの人を殺害しました。製造工場では工員たちも毒ガスによる障害で死亡したり傷病に苦しみました。

戦争は必ず被害者も加害者も生みだし、深い傷を残します。

白いうさぎは私たちを大久野島の過去へ連れていきます。そして今を知り未来を見渡したとき、私たちはどうあるべきなのかが見えてくるはずです。

環境問題を考える時、原始人類まで遡る必要があると思っています。
近藤えりさんのやわらかなパステルの奥底にあるメッセージを感じてください。

『うさぎのしま』 近藤えり、たてのひろし/共著 (世界文化社)


作品を並べてみると、描かれる対象は違えど、自然へのまなざしは一貫しているかと思えます。その信念はどこから来ているのでしょうか。

「自然」は何を指すのかといえば、それは皆さんそれぞれかと思います。
私は、「自然」は人に相対するものではなく、ただの「状態」のことであると考えています。また、その「自然」は人を含むと考えています。
人工物も生物も無生物も、あるいは空間も時間ももちろん含んでいます。

そしてその「自然」と私は常に一体です。そこにはいつも均衡の力が働いていて、また「善」も「悪」も、無いかまたは同時にあるものだと考えています。
自然という概念も人があるからで、野生にあるものに「自然」という概念はおそらく無いでしょう。

人がそのように在る、という世界の捉え方が、信念といえば信念なのかもしれません。

舘野さんは来館するたびに、森のおうち周辺の森の変容をスケッチしている


絵本の創作をしながら、日々全国を歩き回り、対談やトークイベント、ワークショップを重ねていらっしゃいますが、それらのイベントの魅力や、お集まりの皆様との会話の中で感じる、参加者の皆様の反応からお考えになっていることがありましたら、教えて下さい。

制作した絵本は、私の対話の窓口です。絵本をどのように作ったかで、対話の内容も広がりも展開も違ってきます。

今、絵本制作は私の全生活で全人格です。ですから全力なのです。

その窓口から、本当にたくさんの方々に会うことができています。
読者の皆さんとの対話から、私は多くのことを学んでいます。これからも多くの方々と対話したいですが、そのためには私はもっと経験と勉強が必要です。そして幅広い表現の形も必要だと感じています。

未来がずっと楽しくなったり、世界が輝いて見えたり、そんな対話を生み出すような絵本が作れたら素晴らしいことです。

2025年10月26日企画展関連イベント「タテノin安曇野~おとなタテノ塾」
ワークショップの合間にギャラリートークをする舘野鴻さんと近藤えりさん
2025年11月23日企画展関連イベント
「たてのひろし、仕事の仕方~過去を見つめて未来へ」の様子


前回から現在、さらに大活躍で、お忙しくされています。忙しい中でも作品を創作するときに大切にされてることを教えて下さい。

『がろあむし』までは、ひたすら忍耐の年月でした。

絵本デビュー作の『しでむし』~『がろあむし』
舘野鴻昆虫記 問いかける虫たち(全4巻 偕成社刊)

私にとっては鍛錬や修行のような位置付けです。それは好んでそうしていたのです。
先に書きましたが、2022年以降はそれまでのような仕事はしていません。自分がやったことのないことをやりたいと思っています。

職人の仕事は尊敬しますし憧れますが、私はどうもそういう性質ではなさそうです。私は何者でもなく私には何もない。ただ外界に反応してここにあるだけ。
だから明日何を考えているか、言っているかわからない。

「わたくしといふ現象」、とは、やはり私もその通りなのだと思います。

「わたくしといふ現象は」で始まる宮沢賢治の『春と修羅』(復刻版)_左
『宮沢賢治の鳥』 国松 俊英/文、舘野 鴻/絵 (岩崎書店)_右


これからの作品作りに、どんな可能性を感じていますか。

あらゆる可能性を感じています。

写真は変顔の方が多いくらいな舘野さん。そんなユーモアも創作に生きている(!?)
2025年12月_国営アルプスあづみの公園イルミネーションにて


今回の展示で、原画を御覧になった方に他にお伝えしたいことなどがございますか。

絵本の絵は特殊です。基本的には連作で、一枚だけでは成り立たない。それで成り立つなら絵本の絵ではありません。背景には必ず一まとまりの物語がありますし、そうではない、というならそれは画集ということになるでしょう。また絵本そのものは製品で商品でもあり、絵本の原画はその素材にすぎません。絵画やイラストは太古からあるもので、絵そのものにも人間の歴史が深く刻まれています。今ある技術は先人たちの経験や研究の積み重ねの上にあり、今あるものは模倣であり誰か一人が発見したわけでもありません。西洋にも日本にも美術史、文学史はありますし、私たちの仕事は紛れもなくその延長上にあるものです。そうしたことを踏まえて我々が仕事をしているかどうか、皆さんの目で判定していただけたら幸いです。

来館者に積極的に話しかけ、対話を楽しむ舘野さんと近藤さん


この他、今回の企画展にご来場くださった皆様に向けて、メッセージもいただいています。

この後に続く「お知らせ」にもある通り、1月には初めての試みとなる細密画の公開制作のイベントも予定してますので、この機会に皆様のお越しをお待ちしております。

*学芸員 米山 裕美*

2026年1月企画展後半:イベントのお知らせ


舘野鴻(たてのひろし)細密画公開制作
『やまゆり』(小峰書店刊行予定)
※原画展示中絵本『どんぐり』の続編

2026年1月20日(火)、21日(水)、23日(金)、24日(土)
 9:30~16:30(最終入館16:00) 随時(休憩時間あり)

制作・ギャラリートーク、サイン対応

●2026年1月24日(土)10:30頃~
舘野鴻×酒井倫子(森のおうち名誉館長)の対談(雑談トークショー)

●同期間
絵本作家・近藤えり 在館:原画展示中の絵本『うさぎのしま』作者
 ギャラリートーク、サイン対応

参加費:美術館入館料のみ
(大人900円、小中学生500円、3歳以上250円、3歳未満無料)

お問い合わせ:お電話で TEL 0263-83-5670
*美術館開館中のみの対応とさせていただきます

企画展情報

2025年10月3日(金)~2026年1月26日(月)

「たてのひろし絵本のしごと」

【展示作品】
『どんぐり』 たてのひろし/作・絵 (小峰書店)
『すずめばち』舘野 鴻/作・絵 (福音館書店)
『あまがえるの たんじょう』 たてのひろし/作、かわしまはるこ/絵 (世界文化社)
『あおいことり』 たてのひろし/作、なかの真実/絵 (世界文化社)
『うさぎのしま』 近藤えり、たてのひろし/共著 (世界文化社)
以上、各原画全点 ほか

絵本美術館&コテージ 森のおうち
開館時間●9:30~17:00(最終入館は閉館30分前まで、変更日は当館HP参照)
休館日●木曜(2026年1/6~1/15は冬休み)、2月のみ水・木曜
入館料●大人900円 小・中学生500円 3歳以上250円 3歳未満無料
〒399-8301 長野県安曇野市穂高有明2215-9
TEL0263-83-5670 FAX0263-83-5885
http://morinoouchi.com/

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絵本美術館&コテージ 森のおうち 最後までお読みいただきありがとうございます。 当館“絵本美術館 森のおうち”は、「児童文化の世界を通じて多くの人々と心豊かに集いあい、交流しあい、未来に私たちの夢をつないでゆきたい」という願いで開館をしております。 これからも、どうぞよろしくおねがいいたします。