⑤シェムリアップ到着 「41歳、会社を辞めてアジアを旅した12日間―香港からアンコールワット、そして統一鉄道へ―」
〜世界中の旅人が目指す場所へ〜
一人旅5日目の朝、安ホテルで目覚める。
窓のない部屋で時間がわからない。
アジア旅での安いホテルの部屋は大抵窓がない。しかもジメジメしているからエアコンをつけっぱなしで寝た。シャワーの排水もすこぶる悪かった。
今日はついにアンコールワットのある街、カンボジアのシェムリアップを目指す。
昨日、ホテルに着いてから深夜2時すぎに翌日の航空券をネットで買った。
ベトジェットエアー。ハノイ→シェムリアップ行き。約11,000円
前回の反省を踏まえて、カンボジアe-simもこの時KKdayで購入しておいた。

カンボジアはこの旅で唯一観光ビザが必要な国。
ノープランの旅だったけれど、この【e-visa】だけはすぐに取得できるわけではないので事前に手続きを済ませておいた。30米ドル。それでも72時間かからずに取得できた。


昼前にホテルをチャックアウトして、ホーチミン廟に向かう。
昨晩とは打って変わって厳重な手荷物検査があった。
手荷物も検査場の出たところにある、預け入れ場所に預ける。カメラも預ける。だいぶ行列になっていたがすぐに入れた。

ここには何があるのか?
そう。ホーチミンさんのご遺体である。
建国の父であるホー・チ・ミン主席の遺体が防腐処置(エンバーミング)を施されてガラスケースの中に安置されています。遺体は本物であり、ロシアの技術を用いて厳重に管理されています。
廟の中に入り、ホーチミンさんのご遺体の周りの回廊をゆっくりと歩いて行く。ご遺体のそばに衛兵が二人立っていた。
皆が感じるであろう感想、そのまま。
まるで蝋人形のようであった。



ホーチミン廟を出て、ハノイ駅近くの高めのレストランで食事。
フルーツの盛り合わせとフルーツジュースを間違えてオーダー。運ばれてきた豪華な盛り合わせに驚いていると、間違いに気づき、ジュースに変更してくれた。オーダーする時にも店員さんに「フルーツだけど大丈夫?」とたしか確認してくれていた気がする。全部で5000円くらいしたかな。値段が高いだけあって美味でした。

歩いて、ハノイ駅到着。このとき12時半くらい。
空港行きのバスに乗る。
ハノイ駅で、統一鉄道の状況をチラ見するがやはり完売だった。


このバスで、ノイバイ国際空港(Noi Bai International Airport)まで向かう。
14時ごろ、空港に到着しイミグレを通過し31番ゲートまで行くと、みるからに日本人がたくさんいる。
香港を出てからハノイまで全く日本人に会うことがなかったので、安心というよりも驚き。みんなアンコールワットを目指すんだ。ワクワク。


飛行機は16:20に離陸。
18:05 シェムリアップに到着。
入国審査でプリントしてきたビザを提示。難なく通過することができた。
カンボジアは米ドルが主流。
現金が残り少なかったので、空港のATMで100ドルおろす。
空港の出口で市内行きのバスチケットを買う。
電車などはなく、バスのみ。

田舎道をひた走る。バスの外は真っ暗だった。都市に行くととてつもない光に囲まれるが、そのギャップに毎度驚くことになる。
バスを降りると、トゥクトゥクの客引きのおじさんだらけ。
「トゥクトゥク! 1ドル! 1ドル!」
と、1ドルでホテルまで行くというので、乗ってみることに。
結局トゥクトゥクで行くことになるのだし。チャッピーに聞いても1ドルだったらむしろ安いと教えてくれた。

小柄なおじさん。警戒感薄いけど、感覚的に(ま、へんなことにはならないだろう)と。
予約していたホステル前まで行くと、ドライバーのおじさんがかなりしつこくアンコールワットガイドの営業トークを始めた。
なるほど、1ドルなのはそういうことだったのか。本命はこっちのガイドの客を取ることなんだな。
15分くらい色々営業トークされた。一日アンコール遺跡のガイドで20ドルとか。僕は自由に行動したかったので固辞。
LINE交換してやっと解放してくれた。
おじさんにも生活があるのだろうし、きっと家族を養うために働いている。そう思うとちょっと悪かったかな、とも思った。
この後も、基本は配車アプリのGrubでトゥクトゥクを呼んでいたが、流しのトゥクトゥクに乗るときにはドライバーおじさんと値段交渉が必須になった。
それが当たり前なので、おじさんも嫌な感じは出さない。
そうして、ようやく、チェックイン。
いい感じのホステル。3泊で約一万円。今回の旅で泊まったホテルで一番コスパもホスピタリティも良かった。こじんまりとしたプールもあって、ホテルの人たちも親切だった。何よりもしんとしていてのんびりした雰囲気が最高だった。3泊と言わずこの値段なら一週間くらい泊まって、ゆっくりアンコール観光すれば良かったと思う。1kg=1.5ドルでランドリーサービスもあったので、溜まっていた洗濯物もこの時洗濯してもらうことができた。


ホステル内をぶらついてると廊下で日本人の女の子に出くわす。
「鍵、開かないんですよ」
と、いきなり日本語で話しかけられて、少し面食らったが、お互いに一目で日本人だとわかる。ルームキーを鍵穴に差し込み何度か試してようやく開いた。
「ありがとう」「じゃあ」と別れた。
その時、ご飯でも誘えばよかったと少し後悔したが、それ以降彼女に会うことはなかった。
さて、シャワーを浴びて22時ごろになっていたが、街に繰り出す。
有名な繁華街パブストリート。
ホステルから徒歩10分くらいだった。
日本にはもうどこにもないタイプの賑やかすぎるメインストリート。
店先でゴーゴーガールのような踊り子が踊り狂い、大音量でクラブ音楽の重低音が轟いている。

熱狂。
内心すこしびくびくしながら通り過ぎる。
橋を渡った先に見慣れた看板があった。
ハードロックカフェ アンコール店
店先でライブを行っている。
「一人だけどOK?」
テラスのテーブル席に案内される。この時、この旅で初めてのアルコールを飲む。定番ぽいカクテル。普段お酒を飲まないから、ビールなどを楽しめないけど、このカクテルは美味しかった。


結局アンコールにいた三日間ここに通い詰めることになる。何より安心だし。
二日目の夜はライブを行なっていなかったが、三日目の夜もライブをしていた。地元のアーティストなのかな。女性ボーカルのパワフルな歌声とオアシスやストーンズなどお馴染みのロックナンバーで心地よかった。リクエストも受け付けていた。
日本のハードロックカフェでも生演奏あればいいのに思った。
路面で演奏したり、こうやって大音量で音を流すのが日本だとルール的にできないのかな。
23時ごろ店を出る。まだまだ眠らない街といった感じ。
ブラブラと散歩する。
川沿いに物乞いの親子がいた。シートを敷いて、お金を入れるための空き缶を置き、寝転んでいる。若い母親と幼い子ども。
おそらくこの街は観光のみで成り立っている。観光でしか生計が立てられないとすると、つける職業としては限られるだろうなと思った。
帰り道、路面で声を掛けれらマッサージ店に入る。店先の椅子に座り男女の客が足裏マッサージを受けているのが見えた。
その時、言われたのは30分、5ドルだったかな。
それくらいならいいか、と、「OK」と言って女性について行く。
あれれ、と思っていると、2階に連れて行かれる。
カーテンで仕切られたマットに寝るように言われる。そして、どこからか現れた三人の女性に囲まれる。
服を脱げ、と、なぜかパンツ一丁にされる。うつ伏せにされ、しばらく背中をマッサージをされるが、たいして上手くない。
時折「ちんちん、ちんちん」と日本語で言われ股間を触られる。
最初は冗談だと思い、僕も笑いながら「NOちんちん、NOちんちん」と言っていたが、かなりしつこく性的サービスに勧誘される雰囲気。
(あれ、なんか…おかしい…)と思った時にはすでに遅し。
(てか、そういうことか!)と、その時に気が付く。
遅いよね。ていうか、お店の人もそういう前提だったのかな。男一人の客だったら、と今になって思えばわかるが、その時は全然わからなかった。
普通にパンツの上から性器を触られたり揉まれたりする。でも、正直全然そういう気分にならなかった。僕の手を掴み女性の胸元に持っていかれたりもする。
最後はかなり強めに「NO!NO!」と言い、なんとか断る。
10ドルだけ渡して解放。ていうか、最初に言った30分の普通のマッサージもしてもらえなかった。げんなりして、店を出る。
正直、もう少し美人なら受けていたかも…という感じ。でも、何があるかわからないから何事もなく出て来れて良かった。
店の下では普通に、足裏マッサージを女性客が受けたりしているから、わからないよ…。調べたら本当に真っ当なマッサージ屋さんと、スペシャルがある店があるらしい。いい勉強になった。
その帰り道、歩いていると露出多めのドレスを着たイカつい女性に腕を取られる。
40〜50歳くらいの女性なのかもわからない女性。ずっと腕を組まれて着いてくる。その女性自身の裸体の画像をスマホに表示して見せてくる。
建物の暗闇を指さして、口の前で手で筒を作り、上下するジェスチャーを仕切りにしてくる。
さっきのマッサージの件もあったから(もう、マジで勘弁してくれ…)という想い。。
と、明るい通りに出たところで
「ノートゥギャザー!ノートゥギャザー!」
強めに言ってなんとか、まく。
これが大観光都市、世界中の観光客が集うシェムリアップか…。
手荒い洗礼を受けた感じ。こういうものだと、慣れてくると、簡単に断れるし、値段交渉もできるようになる。
ホステル近くのコンビニで氷とコーラを買う。ここのお店にも三日間通うことになる。
部屋に帰ってきてホッと一息つく。
今までのどことも違う雰囲気を感じる。発展途上の東南アジアのイメージ。
香港で感じなかった感覚。
カオス…。
まだ目当てのアンコールワットを見てもいないけど、衝撃という意味ではこの旅でこの夜が一番だった。
観光産業の光と闇のようなものをほんの少し垣間見た気がした。今日出会った人、みんな、一生懸命生きている。家族がきっといて生活があるのだろう。外国人観光客として、できるだけ外貨は落としたいけど、素人には刺激が強すぎるよ…。
さて、明日はいよいよアンコールワットに向かう。
明後日、この街で、一人の女性に声をかけることになる。
そして今回の旅の中で、一番忘れられない風景は、アンコールワットでもなく、遺跡でもなく、その女性のバイクの後ろで感じる風になることをこの時はまだ知らなかった。
つづく
