小さな声が集まるとき、そこにバイブスは生まれるのか ――「小さな声、小さな本」展を終えて
「いちばん印象的だったことは何ですか?」
会期終盤に、お客さまから問われました。
質問されたときはまだ、自分の気持ちがふわふわしていて核となる答えをとらえられていなかったけれど、最終日を経て振り返り、いまはっきりと感じていること。
それは「来てよかった、出品してよかったと思ってもらえた瞬間に、何度も立ち会えたこと。それが何より嬉しい」という実感です。
その理由を振り返ると、「バイブス」という言葉がしっくりくるような気がしています。
▼この記事は、「小さな声、小さな本」展の振り返り記事です。
第2回「小さな声、小さな本」展が終わりました
まず、足を運んでくださったすべての皆さま、ありがとうございました。
来場者数を数えていたわけではないので正確な数字は分からないけれど、約10日間の会期中ずっと、ほぼ途切れることなく人が来てくれた印象があります。
出品者さんやそのファンの方、誰かのSNS投稿をみてイベントを知ってくださった方、HAGISOで食事をしたついでに立ち寄ってくださった方……。



ありがたいことに出品者さんの7割ほどが顔を見せてくださいました。遠方で来られなかった方も多かったけれど、「たまたま東京に来る用事があって!」と駆けつけてくれた方も。一番遠くて熊本の方かな? 2回来てくださった人もたくさんいました。1度目はご友人を連れて、2度目は一人でゆっくり、など。
バイブスが生まれた気がした
本、本屋界隈についてのテーマが多くお気に入りのPodcast番組『本の惑星』の #44「ポップアップと祝祭 みんなでつくる第四の本屋は広まるか」のなかで、語り手の内沼晋太郎さんがこんなことを話していました。(ざっくり要約です。個人的には神回で何度も聞いているので、本編もぜひ!)
https://open.spotify.com/episode/0yFUId2Tis6r37QeXR3Mzc?si=7D96YRRoQHeHhUePqkXUUg
「ブックイベントで大切なのは、熱量をもった運営の中心チームと、場所、そしてコンセプト。三つがうまくそろって初めて、来場者の共感を得やすい」
「情報を届けるより何より大切なのは、"行ったら何かありそう"という期待感やバイブスを見せること」
今回、運営の中心はあくまで私(KAZENONE BOOK / 櫻井)一人でしたが、出品者さんや来場者さんが面白がって、楽しんで、積極的に盛り上げてくれました。そのことが、大きな成功の要因だったのだと思います。
もちろん会場のHAGISOさんの魅力は言わずもがな。
そして今回は第1回と違って、どんなZINEがあるかをあえてSNSで公開しませんでした。(写真やストーリーズなどでさっとは写っても、作品紹介まではほとんど見えなかったと思う)
出品者さんのことを考えると、もっと宣伝してさしあげたかったし、その投稿を見てオンラインでの発注があったら嬉しいな、なんてあざとい思いもないわけではなかった。けれど……。
「来なければ、どんなZINEがあるかはわからない」という期待感。会場でふと生まれる、作り手同士の会話。自分のZINEを誰かが読んでいる、手に取ってくれているのを目撃したときの小さなガッツポーズ。もしかしたら、主催者である私との何気ないやりとり……。
そういう、あの場だからこそ起こりえた小さな非日常が積み重なって、大きなうねりになったのかも、と感じています。
とはいえ、これらは計画的にできるものばかりではないから難しい!
でもそんな中でも意識していたことは3つあって、一つは「どうしたら出品者さんが気持ちよく参加してくれるかな?」ということ。もちろん募集の段階から。
もう一つは「来場者さんがどうしたら、自分にしっくりくるZINEと出会ってもらえるかな?」ということ。
最後に、何より私自身が楽しむこと!毎回届いたZINEを検品したり販売したりしながら「うわー、これ面白そう!終わったら読もー」とか「このZINEはこういう人に合いそう!そうした方が来たら勧めてみよう」などと考えながら店に立っていました。
ほんのささやかな気遣いが、意外と大切だったりするのかな。

委託販売ならではの魅力
「文フリやZINEフェスとはまた違った良さがありますね」——会場でもよく出品者さんと話題になりました。
いちばんの違いは、作り手さんが側にいないこと。
来場者の皆さんは「買わなきゃ」「早く決めなきゃ」という焦りがなく、一冊とじっくり向き合ってくれる方が多く、長い方では1時間以上滞在してくれた方も!
作り手は意外と気にしていないのだけれど、目の前に作者がいると、どうしてもそういう空気になってしまうことってありますよね。もちろん、対面イベントに出たほうが売れる人もたくさんいると思います。(それも今回得た学び!)
でもこの場では、作り手さんの素性をなにも知らない人が、純粋に内容に惹かれて手を伸ばし、同じ気持ちを味わいたくて購入する。
そういう互いの想いが重なる、偶然の出会いがあちこちで生まれていた気がして。それがこのイベントの良さなのかもしれないと感じました。
100冊を目の前にして見えてきたこと
今回公募で180冊のZINEの応募があり、最終的に110冊ほどに厳選させていただき、会場に並べていました。
その個性豊かなZINEを前にして、なんとなく「届きやすいZINE」の輪郭が見えてきました。
それは
作者が地道にSNSで発信を続けていること
紙の質感、細部のあしらい、一言カードに載せる文章へのこだわり
届けたい人が明確(これが、たぶん一番大事)
価格と内容のバランスが取れている

「届けたい人が明確」については、たとえテーマがものすごくニッチだったとしても、「届けたい人が明確」なZINEは、「私も同じことを考えていた」「同じ境遇の人間です」という人に必ず届きます。けっして数は多くなかったとしても、必ず。
「こんなのZINEなんて言えるのかな……」という一風変わった仕上がりのZINEだって、「これ、面白い!」「私もこんなのつくりたいと思っていた!」と面白がってくれる人が必ず一人はいるのです。

表紙のデザイン、ほかであまり見ない紙質、タイトル、一言カードの言葉、作品のテーマ……。
そうしたなにかしらの情報がトリガーになって、手に取り、文章を読んで、「これはここで買わないと後悔する気がする」と直感がはたらいて、レジへ向かってくる。そんなお客様を何人も見てきました。
……ただこれはあくまでも、このイベントの中での話。
ZINEはたくさんの人に届けることが正解でもなく、そんなの気にせず自由に書きたいことを書いて、世に出していい世界だと思っています。
でももし「これまでよりもっとたくさんの人に届けたいな」と思っている人がいたら、少し参考にしてもらえたら嬉しいです。
*
最後に、この場を裏でいっしょに創り上げてくれた、たくさんの人へのありがとうを。
まずHAGISOさんへ。
KAZENONE BOOKの活動をはじめて約2年。年に一度必ず「何かやらない?」と声をかけていただき、ギャラリーで展示販売をさせてもらっています。
スタッフのみんなとの掛け合いも楽しく、いつも「おかえり」「今回も楽しみにしてます!」と温かく迎えてくださいます。
長期間にわたって場所を貸してもらえること(普通はこうはいきません……)、この会場の雰囲気が、私がつくりたい世界観にぴったりはまってくれることも、本当にありがたくて。頭があがりません。
そして家族へ。
週末どちらも家を離れることは、まだ幼い娘には寂しい思いをさせてしまっています(その分、月曜日はふたりでデートしたりして楽しかったね)。
夫は自分の仕事に加えて育児まで、本当にお疲れ様でした。義母・義父にもたくさん助けてもらいました。家族みんなで乗り越えたイベントだったな、と思っています。
次は、みなさんのZINEへ
この展示を通して改めて感じたのは、「書きたい人はたくさんいる」ということでした。
私は、こうしたイベントのほかに、ZINEをつくる手が止まってしまう方に伴走する「おしゃべり編集室」も運営しています。


今回のイベント期間中、ありがたいことに個別レッスンのお申し込みをたくさんいただきました。対面で話して、人となりを知っていただけたからかな。ものすっっっっごくうれしかったです。これから先、またどんなZINEが生まれるのか私が一番楽しみ!
そしてこのイベントを経て、私自身もまたパワーアップした気がしています。多くの学びを、参加してくださるみなさんに還元したいです。
7月・8月の「さくっとコース」回は、オンラインですがまだ空きがあります。ZINEをつくりたいけれど立ち止まってしまう方、ほかの人の話を聞いて刺激がほしい方はぜひ!詳細はこちら。
今回集まったのは、売れるZINEや上手なZINEではなく、それぞれの「小さな声」でした。
その声に耳を傾ける人がいて、誰かの声に励まされる人がいて、また新しい声を書きたくなる人がいる。
そうやって小さな声が集まるとき、そこには確かにバイブスが生まれるのかもしれません。
それでは長くなりましたが、これにて。
また来年も、「小さな声」たちに会えますように。
【こんなZINEをつくっています】
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