イタイ初出勤の思い出。〜ミエナイチカラ〜
出勤初日。
今日は午前が回転寿司、午後が病院、両方が初出勤という頭がおかしくなりそうなスケジュール。
しかもどちらも初日なので、早めに出勤しないといけないため、この日家に帰ってからの休憩時間はたったの20分という超過密スケジュール。
なんでこれでいけると思ったんだよ過去の私は。
朝からお腹イタイイタイなりながらも、おまじないの下痢止めを飲み、心を奮い立たせて自転車を漕ぐ。
私はめっちゃ記憶力が悪いんだけど、学校や歴代の職場の初日や研修期間の記憶はめちゃめちゃ残っている。
※
私は高校を卒業するとすぐに就職したんだけど、それまでバイトや部活動なども一切行ってこなかったので、そりゃまぁ苦労した。
社会性や上下関係が一切身についておらず、人見知りでコミュニケーションが全く取れなかった。
研修では鬼の教官に目をつけられ、毎日こっぴどく叱られ、挙げ句の果てに配属された勤務地はまさかの隣の県で、家から1時間以上かかる遠方だった。
地下鉄しか乗った事なかった私は初めてJRを使う事になり、今みたいにネットで時刻表も検索出来ない中戸惑うばかりだった。
快速や新快速や停まる駅がそれぞれ違って何が何やらだ。案の定乗る電車を間違えて、遥か遠くに運ばれてしまい、半泣きで会社に電話したことがある。
出勤時間は8:30とかなのに、寝坊が怖くて毎日5時起きしていた。多分緊張していたのもあると思う。
5時に起きて何をしているかというと、ただ自分の部屋の椅子に座って、まだ夜も明けきらない薄暗い中、ボーッとしているだけだった。
最初に配属された先では全く仕事もできず、フロアの真ん中で大量の物をぶちまけたりしていたし、周囲の人とコミュニケーションも全く取れなかった。
毎朝出勤すると全部署を回って挨拶をしないといけないんだけどこれが嫌で嫌で、いつもやったふりをしていた。
当然毎日毎日怒られているんだけど、先輩の叱責に「あ、はい。あ、はい。」ばっかり言って
「あ、はいらないから」と言われたのにそれにまた「あ、はい。」と答えたりなんかしていた。
ポンコツすぎて毎日トイレで泣いていた。
レクリエーションが開催された時の事だった。
パートや社員みんなでバスに乗ってどこかに行くんだけども、バスの中ではパートさんも社員さんもみんなそれぞれ仲が良い人でグループが出来ていて、私は1人どうしていいかも分からずポツンと座って、話かけられそうなタイミングをうかがってはキョロキョロしていた。
そんな私の所に1人の先輩がサッとやって来たので、話しかけてもらえると思って笑顔になったら
「自分から話しかけへんと誰も話しかけてくれへんで」
と一言告げて去って行った。
自分が悪いのはじゅうぶん分かってはいるものの、どうしたらいいのか、どうすれば出来るのかが全く分からなかった。顔にはりついたままの笑顔を誰にもバレないように、誰も自分を見てなんかいないのに、プライドだけは高くて、こっそり何事も無かった風を装った。
当時の私は誰の目から見てもいっぱいいっぱいで、イタイ奴だったろう。
この頃の私は自分からは話しかけられないから、もし話しかけられたら笑顔で感じよく接しよう、とよくわからない一方的なルールを決めていた。
笑顔で感じよくさえしていれば、正義は自分にあると、言い聞かせていた。毎日笑うことしかできなくて、それだけが唯一の砦だった。
けれど話しかける勇気がないからと言って、挨拶をしなかったり、トイレで食事休憩時間をずらしたりしていたのだから、誰とも仲良くなれなかったのは当然だった。
全然馴染めていないのに、馴染めていないのを平気なフリをして、毎日必死に作り笑いをしていた私の仮面は、先輩の一言であっけなく崩されてしまった。
あの時期出勤時の電車の中で毎日聞いていた音楽がある。その曲を聴いて、歌詞に励まされて、毎日必死に生きていた。心折れそうになりながらもMDから流れる曲だけが私の味方であり支えであり、言い訳だった。
そんなこんなで私の初出勤にはほぼ碌な思い出がない。
自分が上手くできなかった記憶のオンパレードだ。
あの時あんなに励まされたあの曲は、久しぶりに聞くと当時の記憶が蘇ってくるトラウマソングになってしまった。
イントロが流れるだけで、あの時薄暗い家の中で見ていた窓の色が変わっていく様や、車窓からすごい勢いで景色が前方へ飛んでいく眺めを思い出す。
腹の底からこみあげてくるのは、悔しさや虚しさか。
今では挨拶くらいいくらでもデカい声で出来るし、誰とでも世間話だってできる。JRは未だによく分からん。
人に注意する側にもなった。
それなのに大好きなLIVEも、いまだにこの曲が始まると、18歳の私が苦しみ出す。
あの頃の私はなかなか成仏してくれない。
今ではなんでも出来るようになったけど、なんか不思議と今でもあの頃の私がちゃんといて。
もしかしたら出来るようになったというより、仮面の種類が増えて上手くかぶれるようになっただけなのかもしれない。
慣れないメイクにストッキングを履いて、不器用すぎた私がいまだに時空を漂っている。
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