【 小さな宿 】 87章 写真と建築の旅 ヨーロッパ編 023 パリ 感受性に向き合えた場
同じ町に留まることが、
思ったより変化のない体験に思えた。
パリは、明日で最後。
退屈。
少し違う。
ただ、2週間、
毎日のように街や場所を変えてきた体は、
この場に留まる限界を、
少し感じていたのかもしれない。
あの列車の長距離移動は、
いつの間にか、
心身の休息になっていたのだろう。
同じ街だと、歩くことがどこか重かった。
今日は、パリを少しだけ離れて眺めてみよう。
沈黙の勲章
午前中は、
"やぼ用"を片付けにアーキテクチャスタジオへ。
ジャンヌーベルとともに、
アラブ世界研究所を手掛けた事務所。
目当ての人物には会えず。
吹き抜けには、
巨大な原寸大のダイヤフラム。
堂々と飾られたモックアップ。
沈黙の勲章。
富の波紋
少し贅沢な寄り道を挟む。
まずはベルサイユ宮殿。
行きたいというより、
行かなければならない。
鏡の間、果てしなく続く左右対称の庭園。
人々のざわめきも、金の輝きに溶け込む。
目を奪われる。
建築というより、
金と権力を貼り付けた見せかけ。
ただ、富と権力の象徴ではなく、
どこか王や妃の孤独感にも見えた。
無数の鏡には、虚しさが沈んでいるはずだ。
さっき見た象徴的なダイヤフラムにも、
どこか通じる。
もう、要らない。
足を北へ向けた。
待っていた名作
次はサヴォア邸。
誉高い名作。
こちらは、見たい気持ちで足を運んだ。
義務にも近い感覚。
近代建築の5原則は、
小さな宇宙の中で空間を整える手法にも思えた。
あるいは、束縛。
妙にうるさく、語りかけてきた。

ベルリンで見たミースの宇宙とは違った。
バスルームのトップライトから落ちる光。
長い寝椅子の造形だけは妙に心に残った。
目の前の小さな発見だけを受け止める。
芝生、庭、森。
自然の中に置かれた住宅としての体験。

貫かれた思想
この日の最後。
セルジ・ポントワーズの小高い丘に立つ、大都市軸。
バスの運転手の優しさで、規定外のルートへ。
感謝。
12本の円柱。
池を見下ろす位置にそびえる。
鳥居のような門型の連続。
中央に貫く強烈な軸線。
私の胸を貫くだけでなく、
地球の果てに届くようだ。
両端の一方はパリが見え、もう一方は何もない。
地理的にはストーンヘンジの位置を向く。
深い歴史の軸をつなぐ場所なのか。
誰のため、何のためかの場所なのかは知らない。
ただ、そこに立った自分が感じたこと。
それが重要だった。
沈黙の壮大さ。
何も語らない。
圧倒的な存在感を放つ。
従順と挑戦
朝から頭が重かった。
お腹の調子も優れなかった。
それでも、幾つもの場所を巡った。
大都市軸からの帰り道。
やけにパリが恋しくなった。
すでにあそこは居場所。
慣れた街になっていた。
どこかへ訪れるたび、
印象をすぐに受け入れる。
そして、次の場所へ意識を切り替える。
バスや鉄道を、スマホもない状態で乗り継ぐ。
経路を確認する余裕さえない。
次の場所へ向かう力。
若い頃の感受性は、取り戻せる。
旅の先で。
つづく
