理解不能。でも目が離せない 「MEN 同じ顔の男たち」
MEN 同じ顔の男たち
この映画、ひとことで言うなら…
「何を観ているのか分からない」
それなのに、最後まで目が離せなかった。
A24作品らしい、幻想的でグロテスクな映像美。
深読みしがいのある、
だけど誰にも勧めにくい一本。

▶最初の感想
正直、感想がとても書きづらい映画だった。
観ている間ずっと
「私は今、何を観ているんだろう?」という感覚が続き、クライマックスではその違和感がさらに強まっていった。
A24らしく、映像はとても幻想的で芸術的。
ただ、ストーリーは非常に難解で、
軽い気持ちで観ると精神的に揺さぶられる。
▶林檎とは
このカントリーハウスはハーパーにとってはエデンの園。
本当の物語の始まりは、
ハーパーが林檎を手に取るシーンからだろう。
まるでイヴが禁断の果実を食べたかのように、
そこから彼女の世界が変化していく。
アダムとイブの物語を改めて調べてみると、
林檎そのものに毒や特別な効能があったわけではなく、神の言いつけを破ったことで「後ろめたさ」や「罪の意識」「羞恥心」が生まれた、とある。
互いに責任をなすりつけ、神によって楽園から追放される。
この映画における林檎もまた、神(=夫)のコントロールから外れ、自らの選択をしたことで、ハーパーに『後ろめたさ』や『罪の意識』が芽生えたことを示唆しているのではないだろうか。
ハーパーと夫は、二人の関係がうまくいかなかった理由を互いになすりつけ合い、最終的に夫は死に至る。
それは楽園からの「追放」のようにも捉えられる。
「罪」「男女の関係性」「生と死」「性欲」
――そんなテーマが次々と立ち上がってくる。
そして、映画の終盤に現れる裸の男が体にまとう葉は、まさにアダムとイブが身を隠したイチジクの葉だった。
▶同じ顔
ジェフリーという男を
「変わってるけど典型的」と評したハーパー。
それは、
「変わっていること」自体が「典型的な男性像」だ
と感じているということかもしれない。
だからこそ、町の男たちは全員“同じ顔”に見えていたのではないか。
ちなみに私は、同じ顔だとは分からなかった。
似てはいるけど別人では?とすら感じていた。
今でも「あの人たち、本当に同じ顔だった?」と思うほど曖昧。
『本当は同じ顔だけど、そう視えない』とするなら
本質は同じなのに、私達は髪型や服装のみで違うと判断している、ということになる。
ジェンダー問題を横において話すなら、
人間は所詮、男女の違いしかないんだ、ということか。
▶トンネルの中にいた“自分自身”
特に印象的だったのが、トンネルのシーン。
ハーパーがコダマを楽しみ、
自分の名前「ハーパー」と叫ぶあの場面。
普通、自分の名前を言う?という違和感があった。
でもよく考えると、
本来の自分、以前の自分を求めてたハーパーだからこそ、自分の名前を呼んだんだろう。
そう考えると、トンネルの奥にいた人物は
“ハーパー自身”ということになってくる(コートを着てたし)。
暗く濡れたトンネルは、
彼女の内面――苦しみやトラウマの象徴だったのかもしれない。
歩み寄ってきた”本来の自分”に背を向け、
逃げ出したハーパーは道に迷い、
トラウマのトンネルを通り抜けるしか道はない、とでもいうかのように、
塞がれたトンネルの前に立つ。
▶“種を残すこと”が愛なのか?
男たちは、まるで「自然」のように振る舞う。
裸の男が葉をまとい、タンポポの種を吹き飛ばすシーンはあまりにも象徴的だった。
綿毛は精子で、このシーンは射精だとするなら、
その綿毛の1つがハーパーの口に入ったことは=受精。
彼女は多くの綿毛を全身で受け入れたように見えたけど、
涙を流し、それを望んでいなかった。
生き物は死んで産まれ、産まれては死ぬ。
けどそれは、ハーパーにとって「美しい営み」ではなく「強制された定め」のように感じられたのだと思う。
だからこそ生死を繰り返す男達を蔑む目で見ていたんだろう。
▶ラストに残る問い
映画の終盤、ハーパーは夫との会話を通じて、
まるで「子をなすことが女性の定め」だと受け入れたようにも見えた。
それは、妊娠していた友人の存在とも重なる。
この映画はこう問いかけてくる。
「望まない子を授かることは残酷なのか?」
「愛とは、子孫を残すことなのか?」
「もしイヴが林檎を食べなかったら、幸せだったのか?」
▶この映画を観て感じたこと
混乱、違和感、そして深読みせずにはいられない感覚。
“不快なのに魅せられる”ということ。
「意味がわからないのに、考察せずにはいられない」
そんな映画が好きな方にだけ、
こっそりおすすめしたい作品です!
あなたは、トンネルの向こうに誰を見ますか?
▶私の評価
脚本・ストーリー ★★★☆☆
演出・映像表現 ★★★★★
演技・キャラクター ★★☆☆☆
テーマ性・メッセージ性 ★★★☆☆
エンターテイメント性・満足度★★☆☆☆
総合点 ★★★☆☆
🎬 映画情報
公開日:2022年5月20日(アメリカ)
監督・脚本:アレックス・ガーランド
上映時間:1時間40分
製作:A24 / DNAフィルムズ
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