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AIが通ると「新人の席」が消える


AI Layoffs data according to RationalFX

はじめに

昨年は、「AIによって仕事がなくなる」と多くの人が将来の不安を漠然と感じ始めた年でした。日本でも多くのリストラ、希望退職や新規雇用凍結(hiring freeze)を発表した会社も多かったように思います。

現在、サラリーマンとして働く方々に実際に起きている変化は、もう少し具体的で、厄介でしょう。

このnoteでは事例や論文を通じて、
仕事そのものが一気に消えるというより、
キャリアの入口が狭まり始めているという兆候が、
数字として表れ始めている
ことをお伝えしてきました。

今回は、昨年末に報道された、ヨーロッパの銀行における大規模な雇用減少を例に、一緒に考えていきたいと思います。

ARY News's Post

銀行で何が起きているのか?

まず報道された複数の情報をもとに、雇用の減少をめぐる事実を整理していきます。

年末年始、欧州の銀行業界で雇用が中長期的に大きく減少する可能性について、複数の主要メディアが報じ、話題になっています。

たとえば、Financial Timesはモルガン・スタンレーの分析を引用し、欧州の主要銀行35行(従業員総数は約212万人)において、2030年までに雇用の約10%、人数にして約21.2万人規模の削減が起こり得ると伝えました。

期間は「今後5年程度」で、AI活用の加速と支店閉鎖(とオンライン移行)が同時に進み、雇用の再編が現実味を帯びている、という位置づけです。

重要なのは、今回の削減対象が支店の窓口業務などに限られていない点です。影響を受けやすいのは、バックオフィスやミドルオフィスといった「central services(中央サービス機能)」であり、たとえば法務、リスク管理やコンプライアンスといったいわゆる本社業務も含まれるとのこと。

最初に圧力がかかるのは「現場の営業」よりも、標準化・自動化が効きやすい“管理・運用の厚み”の部分だ、という見立てです。

TechCrunch

その背景は?

背景には、欧州銀行が長年抱えてきた構造的な課題があります。財務的にいえば、米国の銀行と比べて自己資本利益率(ROE)が低く、投資家から「もっと稼げる体質へ」と強い要求を受け続けてきました。

モルガン・スタンレーの分析によれば、AIは銀行にとってコスト・インカム・レシオ(効率性の代表指標)を改善する機会になり得る、と指摘しています。さらにAIと追加のデジタル化によって「30%程度の効率改善」を見込む声が銀行側にある、とも。

漠然と「AIは便利、生産性の向上に寄与する」というレベルではなく、投資家に説明できる形で“効率化のストーリー”が組み立てられつつあるわけです。

銀行自身がAIを組織再編の"ネタ"に

他の産業と同様に、銀行自身がAIを組織再編の"ネタ"として語り始めています。

例を挙げるならば、オランダのABNアムロが2028年までに正社員の約2割を削減する計画を示したこと、フランスのソシエテ・ジェネラルのCEOがコスト削減に関して「聖域はない(nothing is sacred)」と述べたことがメディアでは取り上げられています。

これらは「銀行でいつか来る話」ではなく、すでに経営の言葉として公にコミットし始めた、という意味で特筆すべきでしょう。

現場の実装は、すでに始まっている

UBSがAIを使ってアナリストをアバター化し、擬似的な銀行員の動画を顧客に送る取り組みを紹介しています。

UBSの欧州銀行リサーチ責任者は、監査・法務・コンサルなど他業界では変化が見え始めているものの、銀行はまだ「目に見える効率改善」を十分に出せていない、と率直に述べています。

これは銀行のトータルコストは非常に大きく、たとえ強力なツールが揃っても、導入・定着・業務設計まで含めた実装には時間がかかる、というニュアンスと読み取れます。

また、UBSは上位250人の経営幹部をオックスフォード大学に送り、AIの「リーダーシップ・サミット」を実施したことも報じられています。AIが単なるIT施策ではなく、トップマネジメントの議題になっていることを象徴するエピソードといえるでしょう。

もちろん、この欧州の銀行に関するニュースは、ReutersやBloombergをはじめ数多くのメディアで取り上げられています。欧州の銀行が人件費を含むコスト構造の見直しを進めていることを、決算報道やCEO発言を通じて断続的に伝えているのが現状です。

また、TechCrunchやFinextraといったタイプのメディアも、AI導入と人員再編が同時並行で進む構図を「銀行の次の効率化波」として扱っています。

繰り返しになりますが、これは「AIが突然、人間の仕事を奪う」という単純な話ではない、ということです。

今回は銀行業界での事例を取り上げ、収益性改善とコスト削減が経営課題であり、AIはその実行を後押しする触媒として機能していることを書いてきました。

雇用減少は、AI単独の結果ではなく、構造改革の文脈の中でAIが組み込まれた結果として理解する必要があると思います。ここまでが、各メディアが報じている事実です。

どの層が、どんな影響を受けるのか?

業務の自動化やAI導入が進むとき、最初に削られやすいのは、職業そのものではなく、その職業の中でキャリア初期の人が担ってきた仕事です。調査、要約、下書き、定型的な修正といった、いわば「入口の仕事」です。

FT記事で印象的だったのが、JPMorganのEMEA(欧州・中東・アフリカ)トップの警鐘でした。

AI活用の熱が高まる中で、「基礎や基本の理解を失わないように、非常に注意しなければならない」と述べ、AIで基本作業を速くしつつも、若手がキャッシュフローモデルやPER(株価収益率)などの基礎をきちんと身につけられるようにバランスを取る必要がある、としています。そうしないと「将来、大きな問題を先送りすることになる」ということです。

これは、雇用の数字以上に重要な論点だと思います。入口の仕事が消えると、単に“採用枠が減る”だけでは済みません。若手が基礎を学ぶ機会が失われ、数年後に中堅が不足し、さらにその先では熟練も枯れていきます。

これは雇用の話であると同時に、人材育成と組織の持続性の話でもあるわけです。

三菱商事が一般職を復活させた

ここまで、欧州銀行で進む人員再編を「雇用の数字」として見てきました。

ただ、同じAI時代でも、すべての企業が「人を減らす」「職種区分をなくす」方向に一直線で進んでいるわけではありません。むしろ日本では、逆方向に見える動きが出ています。

Business Journalによれば、三菱商事は2027年度入社から「一般職」の採用を8年ぶりに再開すると発表しました。「AIが事務を奪う」と言われ続け、一般職の採用縮小や停止が進んできた流れの中で、あえて“区分”を復活させる。これは一見すると時代に逆行しているようにも見えます。

同様に、伊藤忠商事は一般職を「ビジネスエキスパート職」と再定義し、処遇を引き上げる改革に踏み切ったとされています。つまり、一般職を単に「補助業務」として扱うのではなく、職能として格上げし、専門性を前提に組み替える方向です。

一方で、銀行や生保では、これと逆の動きも進んでいます。たとえば三菱UFJ銀行や日本生命保険のように、総合職・一般職を統合して「一本化」を進める企業も少なくありません。表面だけ見れば、商社は「区分を残す」、銀行は「区分をなくす」、というような感じでしょうか。

一見、真逆に見える人事戦略かもしれませんが、これらは対立する戦略ではなく、「バックオフィス業務が消えた」のではなく「高度化した」という共通の現実から分岐している、という見え方ができないでしょうか?

商社では、資源・インフラ・食料・DX・投資など事業領域が多岐にわたり、総合職は異動を前提にゼネラリストとして育成されます。その一方で、契約管理、事業管理、規制対応、会計・税務といった領域は、長期にわたる知識の蓄積が不可欠です。

そうすると「実務スペシャリスト」を厚くする合理性が出てきます。AIを使って手作業を減らした後に残るのは、判断、設計、統合、説明責任です。つまり、事務は“単純作業”ではなく、AIとデータ基盤を使いこなす実務のプロフェッショナルとして再定義される、ということではないでしょうか。

銀行・生保では支店削減やオンライン移行が進み、定型事務の比率が大きく下がっていきます。その結果、特定業務に固定された人材よりも、営業・企画・デジタルを横断できる多能工型の人材を増やし、評価軸を一本化していくほうが組織運営上は合理的になります。「誰もがフロントに立つ」前提で、スキルと成果で処遇を決める方向です。

それは、低付加価値の事務を淘汰し、残る事務機能を高処遇化するという流れであり、言い換えるなら、「一般職は消える」のではなく、AI時代に合わせて“事務職エリート”へ再定義される、ということ?

ここまで読むと、欧州銀行の雇用減の話は、「どこを薄くし、どこを厚くするか」を再設計しているだけという言い方もできます。

仕事が消えるかどうかではなく、入口がどう設計し直されているか、そしてその設計が数年後の人材パイプラインに何を残すのか、に注目するべきなのだと思います。

「実証研究」は何を結論づけている?

さて、この違和感を、印象論ではなくデータで検証しようとした研究があります。スタンフォード大学の研究は、生成AIの影響が、職業全体ではなく、キャリア初期の若手層に集中している可能性を示しました。著者らはこれを「炭鉱のカナリア」と表現しています。改めて紹介しておきます。


この英語論文(約60ページ)を、できる限り忠実に読み込み、日本語でnoteに整理しました。忙しい方でも論点を外さず理解できるよう、結論を6つの事実に分解し、背景や含意を補足しています。

このnoteでは、

・なぜ若手から影響を受けるのか
・雇用、求人、賃金に何が起きているのか
・企業、学生、個人投資家にとってどんな意味を持つのか

を書いています。新しい年や仕事が始まる前に、新たな決意と学びを。

※年末年始に多く読まれているものも改めて貼っておきます。


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