サイケデリクス研究者の長寿をめぐる検証と、シロシビン老化研究、そして日本人研究者の貢献
本日7月2日は、トランスパーソナル心理学の第一人者であるスタニスラフ・グロフ博士の95歳の誕生日だった。オンラインイベントは博士の波乱の人生と活躍を振り返り、祝福するあたたかな雰囲気が印象的であった。
もうひとつ、LSDを発見したアルバート・ホフマンは102歳まで生きた(ついでに伝説の精神科医とよばれる加藤清先生は享年92歳、加賀乙彦先生は享年93歳)。
こうした背景から、「サイケデリクスに関わる人々は長命なのでは」という問いが生まれ、学術的に検証されることになった(本当に真面目にやるのがすごい)。
1. サイケデリクス関係者の寿命を検証した論文
2026年 npj Aging
Leonard Lerer「Psilocybin and human longevity」
この論文は、2025年のマウス研究がメディアで大きく取り上げられたことを受け、科学的慎重さを重視して書かれたコメント論文である。
まとめ
著名なサイケデリクス使用経験を表明している人物・研究者・提唱者11名(死亡者)の平均死亡年齢を調べ、対象群として、がん研究者12名・老化研究者5名と比較した。
結果、全グループが一般人口より長寿であったが、サイケデリクス群が他の研究者群を統計的に上回るという証拠は得られなかった。
著者は「社会経済的地位による長寿効果は認められるものの、サイケデリクス使用そのものが特別な長寿効果を持つという主張は、現時点では支持できない」と結論づけている。
“All groups exceeded population life expectancy, reflecting the effect of socioeconomic advantage on lifespan, but psychedelic personalities did not outlive cancer and aging researchers.”
(すべてのグループが一般人口の期待寿命を上回っていた。これは社会経済的優位性の影響を示しているが、サイケデリクス関係者はがん研究者や老化研究者を上回る長寿ではなかった。)“These findings highlight the need for rigorous mechanistic and epidemiological studies before inferring human anti-aging effects of psychedelics.”
(これらの結果は、サイケデリクスに人間での抗老化効果があると結論づける前に、厳密なメカニズム研究と疫学研究が必要であることを強調している。)“Psychedelic personalities did not outlive their biomedical peers.”
(サイケデリクス関係者は、他の生物医学研究者よりも長生きしていなかった。)
2. そのきっかけとなったヒト細胞・マウス研究論文
2025年7月 npj Aging
Kato et al.「Psilocybin treatment extends cellular lifespan and improves survival of aged mice」
上記のLerer論文が生まれる直接のきっかけとなったのが、この前臨床研究である。
筆頭著者は加藤浩介博士(当時Emory University、現在Baylor College of Medicine Assistant Professor)である。
まとめ
ヒト細胞と高齢マウスを用いて、シロシビン/シロシンの全身的な老化関連効果を初めて実験的に検証した。
細胞実験ではヒト肺・皮膚線維芽細胞にpsilocinを投与したところ、複製寿命が10μMで29%、100μMで51〜57%延長し、老化マーカー減少・SIRT1増加・酸化ストレス低下・テロメア維持が確認された。
マウス実験では19ヶ月齢の高齢メスマウス(人間換算60〜65歳相当)に月1回のpsilocybin投与(初回5mg/kg、以後15mg/kg)を行った結果、10ヶ月後の生存率がコントロール群50%に対し治療群80%(p=0.014)となり、しかも毛並みが良くなり、白髪減少・毛髪再生という「見た目も若返り」現象まで観察された(!)。
この研究は「シロシビンは後期高齢からでも老化の複数のハローマーク(老化の特徴的サイン)に影響を与える、強力なgeroprotective(老化防止)候補になり得る」と結論づけている。
“We provide the first experimental evidence that psilocin (the active metabolite of psilocybin) treatment extends cellular lifespan and psilocybin treatment promotes increased longevity in aged mice, suggesting that psilocybin may be a potent geroprotective agent.”
(我々は、シロシン投与が細胞寿命を延長し、シロシビン投与が高齢マウスの生存期間を延長することを初めて実験的に示した。これにより、シロシビンが強力な老化防止剤となり得る可能性が示唆される。)“Psilocybin treated mice demonstrated significantly higher survival (80%), compared to vehicle (50%).”
(シロシビン投与群の生存率は80%で、コントロール群(溶媒)の50%を有意に上回った。)“This study provides the first experimental evidence demonstrating that psilocybin impacts hallmarks of aging, supporting the previously proposed ‘psilocybin-telomere hypothesis’.”
(本研究は、シロシビンが老化のハローマークに影響を与えることを初めて実験的に示し、これまで提唱されてきた「psilocybin-telomere hypothesis」を支持するものである。)
加藤博士は熊本大学大学院で博士号を取得した後、アメリカでポスドク研修を積み、Emory Universityを経て現在Baylor College of Medicineで研究を続けている。元々はCOPD・肺線維症・気道粘液のスペシャリストとして肺疾患研究に取り組む研究者だった。しかしHecker教授のラボで「セロトニン受容体が全身の細胞にある」という事実に気づき、サイケデリクス研究に飛び込んだという。
Emory大学の研究者インタビュー(2020年)ではテニスを好み、熊本出身ということもあり温泉巡りを愛するとのこと。(九州人でテニスと温泉を愛するところに勝手に親近感!)
シロシビン (psilocybin) に老化抑制作用!?
— Kosuke Kato (@kosukekatophd) July 23, 2025
私たちの研究により、シロシビンとその代謝物シロシン (psilocin) が、
-細胞寿命の延長
-老齢マウスの生存率改善
を示すことが報告されました。
精神医学を超えた、再生医療・抗老化の可能性を提示しています。 https://t.co/JDYrxXpjTP
Louise Hecker教授
Hecker教授(共同研究者・責任著者の一人)は複数のポッドキャストや記事で、「ジムで隣にいた友人が何度も何度もpsilocybinについて話しかけてきて、最初は興味がなかったが、調べてみたら『効果が長続きしすぎて科学的に説明がつかない』と思い、研究を始めた」と語っていた。(そうか、サイケデリクスとはそういう出会い方もあるのか。。。と感心した次第)
さらに不思議な事例:傘を作らない「Enigma株」とアルツハイマー
シロシビンの世界には、普通の傘や茎をまったく作らない変異株がある。それがEnigma株。 脳みそや珊瑚のような「blob(塊)」状にしか育たず、胞子も作らない超レアな突然変異株で、非常に強力(しかもクローンでしか増やせない!)。
2026年に報告されたケースでは、重度アルツハイマー病で10年近くほとんど話せなかった80代女性にEnigma株を5g(!!) 投与したところ、投与後19時間で急に自分で会話が始まり、数週間で歩行・着替え・失禁改善など劇的な回復が見られたという (もちろん個別事例にすぎないことに注意。あと、倫理的に相当な問題と身体的にかなり深刻な負担を強いてもおり、当然、物議を醸している)。サイケデリクス研究が「意識」だけでなく「脳の機能回復」にも光を当て始めている象徴的な話ではある。
この二つの論文とEnigma事例は、サイケデリクス研究が「意識の探求」から「全身の健康と老化」という新しい地平へと広がりつつあることを示している。 グロフ博士の節目を迎える今、こうした科学的検証がさらに進むことを期待したいと思う。
(もうひとつだけ、追記すると、私はサイケデリクス使用により死を選ぶ人は減ると確信している。自我の死を経験することは、死に直結する壮絶な苦痛や孤独と心理的視野狭窄からの解放・救済になりうると考えるからだ。自死が避けられ、与えられた運命に従って、本来の寿命を迎えられるなら(宝珠を守りきるなら)どんなに素晴らしいだろう。この世界が、そして自分が、生きるに値することを思い出させてくれる有力な手段のひとつだと思う。切に。)
引用文献・出典
Lerer L. (2026). Psilocybin and human longevity. npj Aging. https://www.nature.com/articles/s41514-026-00380-y
Kato K. et al. (2025). Psilocybin treatment extends cellular lifespan and improves survival of aged mice. npj Aging, 11(1), 55. https://www.nature.com/articles/s41514-025-00244-x
加藤浩介先生 Baylor College of Medicine プロフィール https://www.bcm.edu/people-search/kosuke-kato-177836
Emory University Researcher Spotlight (2020) https://www.emorydailypulse.com/2020/12/16/researcher-spotlight-kato-katsuke/
New Scientist (2026) – Woman with Alzheimer's starts conversing again after taking psilocybin (Enigma株事例) https://www.newscientist.com/article/2531319-woman-with-alzheimers-starts-conversing-again-after-taking-psilocybin/
