路地裏の苔、静かに問う──“日の丸バーガー”の波紋
石垣に苔が戻ってきた地域も少なくないだろう。冬の間は灰色に縮んでいたのに、春の雨が一度降ると、あの濃い緑がたちまち蘇ってくる。踏まれても枯れず、忘れられても死なない。これほどたくましく生きる植物は他にはないだろう。
3月12日は「モスの日」だ。1972年、東京・成増の八百屋の倉庫を借りた2.8坪の小さな店から雑草のごとく這い出た会社が、日本を代表するチェーンに育ってすでに久しい。MOSのMはMountain、OはOcean、SはSunで、「山のように気高く堂々と」「海のように深く広い心で」「太陽のように燃え尽きることのない情熱を持って」という願いが込められているという。

ところが、これを英語のmoss(苔)と思い込んできた消費者もいるようだ。勘違いにしては、なかなか的を射ている。岩に張り付き、踏まれても死なず、乾いても耐え続ける苔の姿は、路地裏の2.8坪から這い上がった小さな会社の歩みと、図らずも重なるものがありそうだ。
そんな同社が先月、ネット炎上にさらされた。外国人を店長候補として育成するとの報道がきっかけだった。在留期限が事実上なくなる特定技能2号制度の拡大、そして家族帯同の可能性といった変化への不安が、X(旧Twitter)を通じて草の根的に拡大していたことが背景にある。
モスバーガーは、米国のハンバーガー文化を「日本化」することで成長してきた。テリヤキバーガーしかり、ライスバーガーしかり、外来のものを日本の土に馴染ませる創造性が際立った。そんな"日の丸バーガー"を矜持とするブランドが、「日本らしさを守れ」という声によって消費者から揺さぶられるのは皮肉としか言いようがない。
路地裏から這い上がった同ブランドの真骨頂は、異質なものをこの土地に馴染ませ、育て直すことにあった。今後も人間と自然への限りない愛情を込めた理念のもと、その力が揺らいでほしくはないと消費者は見守っている。緑の苔は今日も、声高に主張することなく、石垣にひっそりと、しかし確かに張りついている。

参考情報リンク
雑学ネタ帳|モスの日(3月12日 記念日)|https://zatsuneta.com/archives/103123.html|
Yahoo!ニュース(朝日新聞)|日本の飲食店で店長を目指す「特定技能2号」でキャリアアップ目指すベトナム人青年 支援する企業の狙いとは|https://news.yahoo.co.jp/articles/c9e73f61000cc944d5c61013671ef72054dc307c|
coki.jp|モスバーガー「ベトナム人店長」誕生目前で大論争!不買の嵐|https://coki.jp/article/column/69103/|2026年2月
❖編集後記:
Amazonで検索してみると、モスフードサービス関連の経営書・ビジネス書は少なくない。おそらくその先駆けとなったのは、1988年に初版が発行された加藤勝美著『夢みる雑草たち モスバーガー路地裏経営の解明』(現代人物書院)だろう。一等地に大型店舗を構えるマクドナルドに対し、住宅地や路地裏の小型店から人気を獲得していく“日の丸バーガー”の急成長は目を見張った。「路地裏経営」は大きなインパクトを放つ言葉だった。
■ 『(改訂版)夢みる雑草たち―モスバーガー路地裏経営の解明』(加藤勝美)|ダイヤモンド社(2003年) ▶ Amazonで見る|https://amzn.to/3Nw1Ni4
【モスフードサービスに関する書籍情報】
■『モスバーガーから学ぶブランドが育つ「ぶれない経営」 』(田村 茂)|同友館(2026年) ▶Amazonで見る|https://amzn.to/4bBJm4L
■『モスバーガーを創った男の物語 「羅針盤の針は夢に向け」』(木下 繁喜)|東海新報社(2011年) ▶Amazonで見る|https://amzn.to/47FOEtB
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