情景をプレイヤーに丸投げしてもTRPGはできる ― 「夢中の光」のすゝめ
序文と注意
今回は私が回してプレイヤーから好評を頂いた特殊な「シナリオ」―私が『夢中の光』と呼んでいるものを紹介しようと思います。しかしシナリオといっても詳細な説明などがある訳ではなく、またGMそれぞれが独自にアレンジして遊べるものだと考えているので、正式なシナリオではなく、シナリオの「種」のような物だとお考えください。
また、他システムでも応用できるよう心がけてはいますが、筆者が普段遊んでいるシステムが『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第5版のため、そちらを基準として話しています。
この「シナリオ」は「プレイヤーとGMが共同で物語を作る」というTRPGの前提を推し進めるための軽いトレーニングであり、同時にGMから、プレイヤーからのインプットにオープンであることを示すためのものです。
一方で、普段のプレイスタイルとして既成のシナリオによる共通体験を重視しているようなグループでは、この「シナリオ」が想定しているプレイヤーの態度との噛み合いが非常に悪く、事前に入念な説明を行うか、あるいは使用をおやめください。
また、性質上、GMに高度な即興性が求められるため、GMご自身のプレイスタイルや脳細胞の構成によっては満足いかない結果になる可能性もございます。筆者はその際の効果は保証いたしません。(裏を返せば、GM自身が即興性を鍛えるためのトレーニングとも言えますが…。)
遊び方
背景設定
設定上は様々な理由が考えられますが、少なくとも神、あるいは他者の夢に干渉しこのような空間を作り出すことのできる強大な存在の試練、あるいは戯れとして作られたとするのが手っ取り早いです。クライマックスに説明するので、黒幕の動機を準備しておきましょう。
クトゥルフ神話については詳しくないのですが、実際にプレイした自卓のプレイヤーからは「ナイアルラトテップのしわざ」というような話が挙がったのでおそらくその辺が適任です。白い部屋かな?
冒頭
プレイヤーキャラクター(以下PC)は白い、何もない空間で目を覚まします。それまで、各PCはそれぞれ自室や宿などで眠りについていたはずです。
立っているのか、寝ているのか、それとも浮いているのかすらもわからず、彼らは寝間着姿のまま、普段着ている服や道具・装備類はその場にはありません。
もし、このタイミングで何か物が欲しい、人物がいてほしいなどと考え始めた場合は、出現させてしまいましょう。説明するよりも先にプレイヤーの体験でルールを自然に理解し始めるかもしれません。
一度状況を説明したら、まずは現状を把握し、理解する会話が行われることでしょう。
ある程度理解が進んだ所で、この空間の主から声だけが響きます。ここでこの世界の歩き方を説明します。説明すべき内容は以下の通りです。
PCたちは何らかの事故で夢の世界に捕らわれてしまっている
この白い空間を進み、出口を見つければ目覚めることができる
しかしこの空間には「道筋」がなく、道筋がなければ前進もできず、出口にたどり着くこともできない
この空間ではそこに何かがあってほしい、何かが起きてほしいと考えれば、それは存在する
この時点でPC達は「服を着替えたい」、「いつもの装備が欲しい」と考える可能性は高いです。一式出してあげてしまいましょう。
探索
プレイヤーが最初の「道筋」を想像/創造した所で探索が始まります。
GM自ら情景をイメージし、説明しましょう。ここは完全にプレイヤーたちに依存するため、説明できる事はありません。
全体の方針として、「プレイヤーの提案を否定しない」事を心がけ、極度に有利になってしまうものは障害を設けたり、判定に依存させるようにしましょう。この後の詳細例も
序盤から「出口が欲しい」と宣言された場合は、その「出口」を通っても、まだ夢の中、未定義のまま真っ白である事を伝えましょう。ただし、このトリックは1回だけにとどめるのが理想です。
地図などを求められた場合、地図に出口の位置は映らず、これまでに定義された場所だけが映っているとしましょう。あくまでプレイヤーのインプット次第である事を強調し、今後何が起こってもいいようにするためです。
極度にプレイヤーにとって有利になってしまう物(飛行など)については、知力/INT、あるいはそれに類する能力や技能での判定に成功し、正確にイメージできた場合とすべきでしょう。また、失敗しても完全に手詰まりではなく、何らかの裏目があるとよいでしょう(底の見えない崖に落下中、トランポリンを願ったが、失敗したので硬い地面にぶつかったなど)。
この辺りは完全にアドリブですが、参考としてD&D第5版で私が使用した目標値基準は以下の通りです。参考にされる場合は、ご自身で適宜ご調整ください。
呪文の効果に類するもの:難易度10+呪文のレベル(例:飛行なら「フライ」呪文のレベル3で難易度13)
物体や生物:ルールで定義された「サイズ」基準
5: 超小型
10: 小型
15: 中型
20: 大型
25: 超大型以上
試練
お好み(2エリア目以降がオススメ)程度で、ふさわしいと思った試練を提示しましょう。ここでは通常通りの判定や、各種リソースの消費を伴う可能性があります。谷間に差し掛かったり、建物や木が倒れてきたりするかもしれません。
重要なのは、結果的に道を外れてしまったとしても、何らかの新しい道筋を用意してあげましょう。地面が崩れて見つかる洞窟、川が突然激流になって流された先の海岸など、その先に新しい何かが見つかるでしょう。
暗闇
PCやプレイヤー同士の会話が続き、なかなか前に進む様子がない場合、背後からプレイヤー達が定義してきた空間を飲み込むように、一切の光を通さない、完全な真っ暗、あるいはただ「無」が存在する、そのような空間を出現させることもできます。
速度に関してはどれほどの危機感を持ってほしいかで変動します。私の初プレイの場合、最初に出現した際は歩くよりも遅いペースでしたが、クライマックス、出口手前では走るよりも速く設定しました。飲み込まれてしまった場合のケースはこの後説明します。
戦闘(データヘビーなシステムの場合)
状況次第で戦闘になる可能性も考えられます、しかし、あらゆる可能性を想定することはできません。
戦闘に関する詳細なデータが存在するシステムでは、ザコと強敵(おおよそ単独)の2段階、あるいは弱・中・強の3段階の敵キャラのデータを用意し、必要に応じてその場で改変しましょう。
死亡や闇に飲み込まれるなど
死亡や暗闇に飲み込まれた場合のケースは特に決めていませんが、いくつかの例が考えられます。
何事もなく目覚める。
どこかに捕まっている。
復活させるのに再び想像する必要がある。
どちらにせよ、できるだけ早く離脱したプレイヤーと合流させましょう。待たされるのは辛いので。
結末
ある程度探索させたところで、プレイヤーの提案(例えばPCが「声の主の元に行きたい」とイメージするなど)に乗じる形で黒幕の所に行かせてあげましょう。
この空間は固定で描写を用意しておき、一切考えていない場所に着いたことで異質さをアピールします。
後は黒幕の動機をたっぷり説明しましょう。
全ての謎が解けた後はプレイヤーの提案を基に、素直に出口に向かわせてあげましょう。暗闇が追いかけてきたり、モンスターを出現させてもいいでしょう。
脱出に成功すれば、それぞれが元いた場所で目覚め、シナリオ終了です。
理念
この「シナリオ」を回すにあたって、英語圏で用いられる即興劇の基礎「Yes, and...」と「Yes, but...」を基準としています。
海外のTRPG界隈においても時折触れられる概念で、否定されると流れが止まってしまうので、とにかく相手を否定せず、相手が提示した物に付け加える形で進展や障害を提示する、ということです。ある意味プロレスで相手の攻撃をあえて受けてダメージを表現する事に近いものかもしれません。プロレスも勝敗などはあらかじめ決められていても、即興の要素は多いと聞きます。
詳しくは下の記事で。
誕生の経緯
新たにグループを呼び集め、GMとして配信でTRPGを遊び始めたのですが、その時、ずっと物足りない物を感じていました。PCの動機もしっかり設定しているのに、プレイヤーから自発的に何も起きず、GMがずっと一人芝居をしているように感じられていたのです。
しばらくはその理由が何なのかわからなかったのですが、別のグループと遊んだ際や、『クトゥルフ神話TRPG』の動画で見る、いわゆる「カオス卓」などを見るうちに、ようやくその正体に気づきました。
それは初心者プレイヤーからのインプットがなく、ただただ受け身である事でした。
もちろん、キャラクターや世界観を楽しんではいるのは伝わっています。しかし、プレイヤーは提示された選択肢を選び続けたりするだけで、「ここに○○はありますか?」「お店の人に聞き込みはできませんか?」と自発的にアクションを提案したり、時にGMである私の想定を裏切るような行為を初心者は行ってこなかったのです。
そこから初心者プレイヤー達に一度のみならず、二度この事を話しても、自分が問題と感じている事は理解されませんでした。
やがて1月頭からこのアイディアを思いつきセッションを終えるまで、この事に関してひどく思い詰めるようになっていました。
その中で、二度目で理解してくれない事を受け、次の手を探り始めました。いくら言葉で言っても理解してくれないなら、実際に体験させて理解してもらうしかない。自分が言うようなスタイルが好みではないという可能性もありましたが、概念を理解していないだけという可能性に賭けたかった。そうして、このアイディアに至ったのです。
実例
その際の映像がこちらです。
最終的に、グループの初心者からは大好評をいただきました。配信後、経験者のフォローもあっての事ではありますが、オリジナルの世界観で遊んでいた事もあり、プレイヤー側から「どこまでGMの設定した世界に踏み込んでいいのかわからなかった」という、今まで引き出せなかった意見も聞くことができ、今まで考えていなかった事、実感の湧かなかった事を実感できるようにできたという達成感があったのです。
あとがき
ただの即興性なら『フィアスコ』や『怪談白物語』でも遊んでいればいいだろうとお思いになられるかもしれませんが、自分として普段遊んでいるTRPGの延長線上だった事が重要だと思っています。「別のゲーム」という枠組みで捉えられてしまえば、結果的に普段のセッションでは同じ態度で接されてしまうからです。
夢、そして未定義の空間というテーマ性も大きく、最初から何もないのだから、GMの考えているシナリオや世界観を傷つけることなく、そして何でも作り出すことができるという安全な空間である事を強調しています。
皆さんももしよければ、このアイディアで遊んでみてください。今まで気づけなかった楽しみに気づくきっかけになるかもしれません。そして感想を是非お聞かせください。X、Misskey.io、Blueskyでお待ちしています。
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