安さは、もう武器にならない ── ある運送会社社長が"数字"で会社を守った9ヶ月間
あらすじ
実運送・倉庫業を営む「村田急送」の社長・村田隆(58歳)は、ある日届いた一通の通知で、自社が「物流統括管理者(CLO)」の選任を義務付けられる規模の会社だと知った。だが正直なところ、2026年問題も2028年問題も、何がそんなに大変なのか、まだピンときていなかった。
専務である息子・大輔にCLOを任せてみたものの、出てくる話は「AIとロボット」ばかり。効果も費用も判断できないまま、会社は迷走していく。
これは「何を導入するか」ではなく「自社の何を知らなかったか」に気づいた、ある運送会社の9ヶ月間の物語である。
📖 登場人物
👤村田隆(58歳):実運送・倉庫業「株式会社村田急送」代表取締役社長。従業員約100名、売上高約5億円。荷主・元請けからの受託比率が高い。燃料費・人件費の上昇分を取引先に価格転嫁できず、利益はギリギリ。現場(配車・運行管理)は完全にベテラン任せで、2026・2028年問題にもあまりピンときていない。
👤川島(62歳):運行管理・配車のベテラン。入社35年。「配車は俺の頭の中にある」が口癖。
👤村田大輔(32歳):専務。社長の息子で後継者。父から物流統括管理者(CLO)に任命される。DXには前向きだが、現場より先にシステム・AI・ロボットといった"モノ"から入ってしまう。
👤村田由美子(55歳):取締役管理部長。経理担当で社長の妻。「回収計画も現場の裏付けもない投資は通せません」が口癖。
👤高橋(59歳):同業の運送会社社長。一足先に業務可視化を実施した先輩経営者。
プロローグ:見慣れない封筒

九月のある朝、村田隆は事務所に届いた一通の文書に目を通していた。
差出人は元請けの物流子会社。件名には「改正物流効率化法への対応に関するご協力のお願い」とある。要点をかいつまむと、来年4月から自社は「物流統括管理者(CLO)」を選任し、中長期計画を作成・提出しなければならないらしい。デスクの隅に置かれた業界紙にも、大きな見出しが躍っていた。「2028年、トラック新法完全施行 ── 許可更新制・適正原価・下請け規制へ」。
正直なところ、何がそんなに大変な話なのか、隆にはピンとこなかった。うちは荷物を運んで、倉庫を回して、今のところ何とかやれている。燃料費が上がっても、荷主に強く言えないまま受け入れてきた。それでも会社は潰れていない。
「なんだかよくわからんが、役所がまた面倒な話を持ってきたな」
隆は文書を専務の大輔に渡した。
「お前、このCLOとかいうの、やってくれ。うちの中じゃ、お前が一番デジタルに詳しいだろう」
大輔は少し驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。「わかりました。任せてください」
その表情には、ようやく自分の出番が来たという、隠しきれない意気込みが浮かんでいた。
📍解説: 2026年4月、改正物流効率化法が施行されます。年間取扱貨物量9万トン以上の「特定荷主」や一定規模以上の物流・倉庫事業者に対し、物流統括管理者(CLO)の選任と中長期計画の作成・提出が義務化されます。多くの経営者は「役所からの新しい要請」という程度の受け止め方をしがちですが、この先に控えているのは、単なる書類対応では済まない構造変化です。
第1場面:社長の焦りと丸投げ

十月の役員会。大輔が資料を配った。表紙には「配車業務のDX化提案」とある。
「自動配車AIと、倉庫内の搬送を自動化するAGVの導入を提案します。これで現場の負担は大きく減らせるはずです」
スクリーンには、他社の導入事例やロボットの写真が並んでいた。隆は資料をめくりながら、どこか落ち着かない気持ちになった。
「これ、いくらかかるんだ」
「初期投資でおよそ8,000万円です」
「8,000万か……。それで、何がどれだけ良くなるんだ」
「配車業務の効率化と、庫内作業の省人化が期待できます」
「期待できる、というのは、まだわからないということか」
大輔は言葉に詰まった。
隆は腕を組んだ。CLOに任命したのだから、大輔の言うことを信じてやりたい気持ちはある。しかし、8,000万円という数字の重さと、「期待できる」という曖昧な説明の間には、大きな隔たりがあった。うちの会社の、どこにそんな余裕があるというのか。
「今日は持ち帰ろう」
会議室を出ながら、隆は焦りだけが募っていくのを感じていた。期限は近づいている。しかし何をどうすればいいのか、自分でもまるでわからなかった。
📍解説: 2026年問題も2028年問題も、放置すれば「対応できなければ事業が続けられなくなる」という経営存続の問題に直結します。しかし多くの経営者は、業界全体を覆う法規制や市場環境といった構造的な話にしか目が向かず、危機感はあっても「何から手をつければいいか」を判断する材料を持っていません。DX担当に丸投げしても、現場の実態というもう一つの重要な情報が欠けたままでは、的確な判断はできないのです。
第2場面:迷走する大輔、母の一喝

役員会のあと、大輔は複数のベンダーに連絡を取り始めた。配車システムの会社、AI需要予測のスタートアップ、AGVメーカー、倉庫管理システムの代理店。会うたびに新しい提案書が積み上がっていった。
「このシステムなら配車効率が20%向上します」「このAIなら需要予測の精度が上がります」——どの説明も、もっともらしく聞こえた。だが、大輔自身、現場の配車担当や倉庫スタッフに話を聞きに行くことは、ほとんどなかった。
十一月、大輔は再び役員会に資料を出した。前回よりさらに規模の大きい、複数システムを組み合わせた総合提案だった。総額はおよそ1億2,000万円。
母である村田由美子取締役管理部長が、資料をめくる手を止めた。
「大輔、この投資でいくら削減できるの」
「システムを入れれば、確実に効率は上がります」
「確実に、というのは何を根拠に言っているの。うちの現場が今、何にどれだけ時間をかけているか、あなたは把握しているの」
大輔は答えられなかった。
「回収計画も、現場の裏付けもない投資は通せません」
由美子はきっぱりと言った。会議室が静まり返った。隆は何も言えず、ただ息子の背中を見ていた。
📍解説: システムありきの提案が繰り返される背景には、「現場の実態を数値で把握していない」という共通の欠落があります。ベンダーの説明はどれも正しく聞こえますが、自社のどこに、どれだけの非効率があるのかというデータがなければ、投資判断の根拠にはなりません。財務担当が求める「回収計画」は、現状把握なしには決して作れないのです。
第3場面:高橋社長との対話

十二月、地域の運送業組合の忘年会。隆は料理に手をつける気にもなれず、会場の隅で一人、グラスを傾けていた。
「村田さん、浮かない顔だね」
声をかけてきたのは、同業の高橋社長だった。三年ほど前から会社の体制を見直し、業界でも「うまくやっている」と評判の経営者だ。
「実は、CLOだ何だで、うちも息子に色々やらせているんですが……正直、何をどう判断すればいいのか、自分でもよくわかっていないんです」
高橋は少し笑った。
「うちも最初はそうだったよ。システム選びから入って、痛い目にあった。それで気づいたんだ。村田さんの会社で、誰が、何に、どれだけ時間を使っているか、今すぐ言えますか」
隆は言葉に詰まった。
「……言えませんね」
「それが答えですよ。うちも言えなかった。だから何に投資すればいいのか判断できなかったし、荷主に運賃の話をしようにも、自分たちの原価すら正確には言えなかった。まず、そこからだったんです」
帰りのタクシーの中、隆はその言葉を何度も反芻していた。
自分の会社のことを、自分は何も知らなかったんじゃないか。
📍解説: DXで最初に必要なのは「ツール選定」ではなく「現状把握」です。誰が・何を・どれだけの時間で行っているかが数値でわかって初めて、投資の優先順位も、荷主との運賃交渉の根拠も見えてきます。多くの物流会社が価格転嫁に踏み切れないのは、自社の実質原価を数字で説明できないことも一因です。
第4場面:数字が、現場を語り始めた

年明け、隆は高橋社長に紹介してもらい、BPEC(ビーペック)という業務可視化サービスに調査を依頼した。
「現場に長時間張り付いたり、複雑な作業をお願いしたりしない。自分の業務の中で、各作業がどれくらいの時間を占めているか答えるだけでいい」
川島は最初、「俺は感覚でやってきたから、数字にするのは苦手でね」と渋っていたが、「大まかな割合でいいので」と伝えると、「それなら」と応じてくれた。
二週間後、レポートが届いた。隆は会議室で一人、画面をスクロールした。
配車業務にかかる時間のうち、荷主ごとの細かい配送条件の調整や、突発的な変更への対応判断が、川島一人に月あたり約70時間集中していた。年換算では840時間。川島が抜けた瞬間、この判断は誰にもできない。
さらに、事務所全体の業務時間の中で「紙の伝票の転記やExcelへの二重入力」が最も大きな割合を占めていることもわかった。現場アンケートでも、同様の傾向が全国的に見られるという注釈が添えられていた(出典:OKI Style Square)。
そして、最も隆を動揺させたのは、主要な荷主案件の実質原価だった。燃料費と人件費を積み上げて計算し直すと、複数の案件で、実際に受け取っている運賃が採算ラインぎりぎり、あるいは下回っていた。
これでは、2028年に「適正原価」の基準ができた瞬間、うちは今の運賃のままでは受注さえできなくなる。
画面を閉じ、隆はしばらく動けなかった。しかし、恐怖よりも、むしろ奇妙な落ち着きがあった。何が問題かがようやくわかったからだ。
📍解説: 業務可視化調査の目的は、「誰が・何を・どれだけの時間で行っているか」を共通の指標で把握することです。属人化している業務、非効率な業務、そして荷主ごとの実質原価が数字になって初めて、「どこに投資すればどれだけの効果が見込めるか」「どの運賃をどう見直すべきか」を、投資前・交渉前に判断できるようになります。
第5場面:役員会、根拠ある小さな投資提案

二月の役員会。大輔が配ったのは、今度はたった4枚の資料だった。
「今回は的を絞って提案します。川島さんの配車判断業務のデータ化と、荷待ち時間を減らすためのバース予約の仕組みです」
スクリーンに数字が映った。
「BPECの調査では、川島さんの配車判断業務は年間840時間。これをデジタルマニュアルとシステム補助でチーム対応可能にします。費用は450万円。荷待ち時間の削減効果も含めると、回収期間はおよそ1.5年です」
由美子がメモを取りながら顔を上げた。「根拠は、この調査結果ね」
「はい。実際の業務データから算出しています」
由美子は静かに頷いた。「これなら通せます」
隆は一呼吸おいて、役員全員を見渡した。
「前回は8,000万、その次は1億2,000万の話をして、どちらも数字の根拠がなかった。今回は450万円だが、根拠のある数字だ。何が違うか、わかるか」
誰も答えなかったが、全員がわかっていた。
「現状を、先に知っていたかどうかだ」
この計画は、そのまま来年提出する中期計画の柱として盛り込まれることになった。
📍解説: 経営層が投資判断に踏み切れない最大の理由は「効果の不確実性」です。業務可視化によって現状が数値化されれば、小さな投資でも根拠を持って役員会を通せます。そして、この「根拠ある実行計画」こそが、2026年問題で義務化される中期計画に必要な中身です。書類上の体裁だけを整えた計画では、2028年に向けた実質的な備えにはなりません。
第6場面:現場が変わった

半年ほど経った夏、村田急送の現場には、少しずつ変化が生まれていた。
川島の配車判断のノウハウは、システムに組み込まれたチェック項目とデータとして整理され、若手のスタッフでも大まかな判断ができるようになった。川島自身も「一人で抱え込まなくていい」と、以前より肩の力が抜けたように見えた。
荷待ち時間はバース予約の仕組みによって短縮され、ドライバーたちの拘束時間も目に見えて減った。紙の伝票のやり取りも一部がデジタル化され、事務所の残業は少しずつ減っていった。
何より変わったのは、現場の雰囲気だった。ベテラン一人に負荷が集中する状態から抜け出したことで、年配のスタッフも無理のない範囲で働けるようになり、辞めていく人が減った。若手の採用面接でも、「働きやすそうな会社だ」という声が聞かれるようになったと、人事担当から報告があった。
隆は現場を歩きながら、以前より明るくなったスタッフたちの表情に気づいていた。
数字にしただけで、こんなに変わるものなのか。
📍解説: 現場三重苦(過剰サービス・アナログ管理・人手不足と高齢化)は、可視化して対処すれば必ず改善できる課題です。ベテラン依存から脱却し、業務負荷が適正に分散されれば、離職の抑制や採用力の向上という形で、じわじわと会社の体力を回復させていきます。DXの効果は、生産性の数字だけでなく、働く人の表情にも表れるのです。
エピローグ:9ヶ月後、次の一手へ

翌年六月。国への中長期計画の提出を終え、隆は少し肩の荷が下りたような気持ちで報告書を読み返していた。
BPECの再調査によると、川島の配車判断業務にかかっていた時間は年間840時間から約340時間まで減少し、荷待ち時間も平均で3割以上短縮されていた。実質原価が採算ラインを下回っていた荷主案件についても、数字を根拠にした交渉を始めており、一部ではすでに運賃の見直しに応じてもらえていた。
隆は、九月のあの朝、見慣れない封筒を開いたときのことを思い出した。何がそんなに大変なのか、まるでピンとこなかったあの日。今ならわかる。
足りなかったのは、危機感ではなかった。自社の現状を、数字で知ることだった。
感覚でしか語れなかったことが、数字になった。数字になったことで、判断ができた。判断ができたから、稟議が通った。稟議が通ったから、現場が動いた。現場が動いたから、効果が測れた。そして今、次の課題が見えている——事務所の紙の伝票を、もう一段階減らせないか。
隆はスマートフォンを手に取り、高橋社長にメッセージを送った。
「おかげさまで、なんとか一歩進めました。また相談させてください」
返信はすぐに来た。
「それは良かった。2028年まで、まだやることはありますよ」
Mt.SQUAREでできること
村田社長が経験した「現状可視化から始めるDX」を、Mt.SQUAREはBPECというサービスで支援しています。
BPECの特徴は、専任のIT担当者がいなくても、投資前に費用対効果を数値で示せること。
業務量調査は現場への負担が少ない方法で実施します。「誰が・何を・どれだけの時間で行っているか」を客観的な数字で把握し、次の3つの視点を提供します。
📌業務負荷量:どの業務に、誰がどれだけの時間をかけているか
📌属人化の度合い:特定の人しかできない業務はどこか、リスクはどこにあるか
📌適正原価の把握:荷主ごとの実質原価が、採算ラインに対してどうなっているか
これらが数字として把握できれば、「この業務を改善すれば年間○○円のコスト削減になる」「この運賃はどこまで見直すべきか」という判断が、投資前・交渉前に可能になります。
2026年問題で求められる中期計画も、2028年問題への備えも、出発点は同じです。まず、自社の現状を数字にすること。
「まず現状を知りたい」という段階からご相談ください。
▼BPECの詳細・資料ダウンロードはこちら
▼Mt.SQUAREへのお問い合わせはこちら
