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趣味は「数」より「構造」(前編)── 推したちが同じタイミングで負けること


「趣味は複数持った方がいい」

そんな話を聞いたことがある人はいるでしょうか。
たしかに、趣味があることによって生活に潤いが出ます。
生活に潤いが出れば、健康にもつながりそうです。

趣味を持つことは大切です。
しかし、趣味は多ければ多いほどよい、という単純な話でもありません。

大事なのは、趣味の「数」ではなく「構造」です。



1.「推しの連敗」問題

ここでは、サッカーを応援することに、かなりの情熱を注いでいる人を想像してみます。

スポーツ観戦には、日常ではなかなか得られない感情の高揚があります。

応援するチームがある。
仲間がいる。
試合の日を楽しみにできる。
勝ったときには、自分のことのようにうれしい。

このこと自体はすばらしいことだと思います。
ただし、危うさもあります。

チームが負け続けると、自分の生活まで沈んでしまう。
楽しい週末のつもりだったのに気分が沈む。


2.複数の独立した側面から自分自身を捉えること

心理学に、自己複雑性理論という考え方があります。

Linvilleが提唱したこの理論では、自分自身を複数の独立した側面から捉えているほど、ひとつの側面が傷ついても、そのダメージが自己全体に広がりにくいと考えます。

ここで重要なのは「複数」であることだけでなく、それぞれの側面が互いに切り離されていることです。

たとえば「仕事」と「家族」と「趣味」という側面があっても、それらが頭の中で密接に結びついていると、ひとつのダメージが連鎖しやすくなります。

それに対して、

「自分にはいくつもの、それぞれ別々の顔がある」という状態の方が、心は折れにくい

仕事の自分。
親としての自分。
運動する自分。
文章を書く自分。
何かを応援する自分。

こうした複数の、互いに独立した側面があると、どこか一つがうまくいかなくても、別の側面が支えになります。

逆に、ひとつのチームや活動に自己を寄せすぎると、それがうまくいかないときに自分全体が揺らぎやすくなる。

となると、ひとつの対象だけに気持ちを預けすぎない方がよいときもあるということです。

その意味では、「推し」が複数あることには意味があるといえるかもしれません。

ただしそれも、それぞれの推しへの気持ちが別々の自分を支えているときに、はじめて緩衝材として機能するということです。


3.しかし、推したちは同じ週に全員負ける

ここで問題が起きます。

応援しているサッカーチームが負ける。
応援しているバスケチームも負ける。
応援している棋士も負ける。

理論上は全く関係のないそれぞれの推しなのに、現実には「全滅した週」が来ることがあります。

投資でいえば、リーマンショックのようなものです。
普段は別々に動いていた資産が、有事には一斉に下がる。
相関が急に高まる。

趣味も同じ構造になることがあります。

サッカー、バスケ、将棋。
一見するとバラバラに見えても、
どれも「他者の勝敗に感情を預ける趣味」だとすれば、構造は似ています。

もちろん、推したちが全員負けた「最悪の週」に見えても、実は自分自身のコンディションが落ちている週に、負けのダメージが増幅されているという側面もあるかもしれません。

体調が悪い。
仕事が詰まっている。
家のことで忙しい。
なんとなく気分が落ちている。

そういう週には、同じ負けでもいつもより深く刺さります。

つまり、「推しが全部負けたからつらい」のではなく、
「自分が落ちている週に、推しの負けが重なって見えた」
ということもある。

もちろん、推しの負けはつらいです。

でも、そのつらさは、趣味そのものだけでなく、自分のコンディションとも結びついています。

だから本当に大事なのは、趣味の数ではありません。

相関の低い趣味を組み合わせることです。


4.複数あればよい、では足りない

「趣味を複数持つ」と聞くと、単に数を増やすことを考えがちです。

サッカーを見る。
バスケを見る。
将棋を見る。
野球を見る。

たしかに、対象は増えています。

しかし、どれも「他者のパフォーマンスや勝敗に気持ちを乗せる趣味」だとすれば、精神的には似た構造を持っています。

もちろん、それが悪いわけではありません。

応援する楽しさ。
勝敗のドラマ。
ファン同士の一体感。
予測できない展開。

これらは、観戦型の趣味ならではの魅力です。
ただ、心の支えとして考えるなら、それだけに寄せすぎると少し危うい。

大事なのは、単に趣味を増やすことではなく、違う性質の趣味を持つことです。

  • 自分でコントロールできる趣味と、できない趣味。

  • 忙しくても少し関われる趣味と、時間をかけて育てる趣味。

  • 知識が外に広がる趣味と、閉じた世界に深く潜っていく趣味。

そうした違いを意識して組み合わせることで、趣味は精神的健康を支えるものになっていきます。

趣味は、単なる気晴らしではありません。

自分の心をどこに預けるのか。
どこで回復するのか。
どこで高揚するのか。
どこで安定するのか。

その配置を考えることでもあります。

では、どういう軸で趣味を組み合わせればよいのでしょうか

後編では、「趣味をポートフォリオとして組む」という視点から考えてみます。


参考文献

Linville, P. W. (1985). Self-complexity and affective extremity: Don't put all of your eggs in one cognitive basket. Social Cognition, 3(1), 94–120.

Linville, P. W. (1987). Self-complexity as a cognitive buffer against stress-related illness and depression. Journal of Personality and Social Psychology, 52(4), 663–676.

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