お弁当を届けに行って、ため息を持ち帰った午後
私は人の顔を覚えるのが得意だ。
一度会って話した人なら、人混みの中でも「あ、○○さんいたね」と気づける。便利なようで、ときには困ったことにもなる。
今朝、せっかく夫に作ったお弁当を忘れて行かれてしまったので、子どもを連れて会社まで届けに行った。家から歩いて30分ほどの距離。
洗濯物を干して、授乳して、オムツを替えて、ルンバを起動して……気づいたら11時半を過ぎていた。まずい、昼休みに間に合わなくなる!
慌てて飛び出した格好といえば、世界的に有名な犬のTシャツにデニム。眉毛も描かず、髪も整えず、日焼け止めを塗って帽子を被っただけ。
できれば知り合いには会いたくないスタイルで、早足でベビーカーを押していた。
すると、向かいから会社の同期がベビーカーを押して歩いてきた。その横には赤ちゃんを抱いた彼女の夫もいるのが見えた。
「うわ、気づかれませんように…!」と心で念じたが、どうやら目が合ってしまったらしい。
諦めて、
「あ! ○○、久しぶりだね!」と声をかけると、
「わ〜、○○、気づかなかった〜」と彼女。
「う、うん、ちょっと、こんなだからね…」と帽子のつばをいじりながら、消え入るような声で返した。
赤ちゃんが産まれたんだね、とだけ言って、そそくさと立ち去る。
彼女は小花柄のシックなワンピースに揺れるピアス、髪もきれいにまとめていて、まさに「美人ママ」だった。
一方の私は……帽子のつばの下でため息をつきながら我が子の顔を見やる。すると、満面の笑みで見つめ返してくれた。
悔しいような、情けないような、なんともいえない気持ちが胸に広がった。
「次からは外出するとき、ちゃんとしよう」と心に誓う。
だから、帰り道は近所の団子屋さんに立ち寄り、みたらし団子と胡麻団子と大福を買ってしまった。
全部ひとりで食べた。甘くて、しょっぱくて、もちもちで。
ーーその味は、ため息を持ち帰った午後を、もちもちと甘くごまかしてくれた。
