『四国お遍路物語④』「2日目にして計画崩壊」
午前3時。
人はこの時間、眠っている。
夢の中で、静かに朝を待っている。
——私は歩いていた。
誰もいない道。
音のない世界。
街灯だけが、やけに明るい。
なぜ歩いているのか、理由は曖昧だ。
ただ、行くと決めたから進んでいる。
正しいかどうかなんて、わからない。
意味があるかどうかも、どうでもいい。
それでも足は止まらない。
この時間、この感覚、この静けさ。
たぶんこれが、
「自分の人生を生きている」ということなんだと思う。
朝から口にしたのは、あまなつを三つだけ。
それ以外に、手に入るものは何もなかった。
コンビニも、スーパーも、この山には存在しない。
空腹というより、すでに“燃料切れ”だった。
12番札所、焼山寺の山門へ続く道は、想像以上に長く、重く、静かだった。
一歩踏み出すたびに、体の内側が空っぽになっていく。
そして、限界は突然やってきた。
足が止まり、視界が揺れ、
次の瞬間、体は地面に崩れ落ちた。
この先に、自販機があるのかすら分からない。
水があるのか、食べ物があるのか、
生き延びられるのかさえ、分からなかった。
本日の宿もない。
ただ一つ確かなのは、
ここで止まれば終わる、ということだけだった。

あまなつを1袋購入
2026.4.2
8番札所へ向かって。
到着、5時半。

桜満開だが薄暗い境内。
まだ誰もいない。
札だけ入れて、即移動。
滞在時間、数分。
もはや参拝というより、タイムアタックである。

——
今回のテーマはシンプル。
👉「33日で全部回れるのか?」
そのために必要なのは——
自分の体力を知ること。
人は1日何時間歩けるのか?
何キロで壊れるのか?
つまり今日は、
「自分の人体実験の日」である。

8番~9番札所
——
結果。
2日間で——
👉80,000歩。
……やりすぎである。

——
そして問題はもう一つ。
とにかく、道に迷う。
何度も迷う。
普通に迷う。
アプリ?ある。
地図?ある。
それでも迷う。
これはもう、才能である。



休憩所にて
——
歩きながら、いろいろ考えていた。
「本当に88ヶ所、全部回るのか?」
そもそもこの旅は、仏教の巡礼である。
だが私は、仏教徒ではない。
数珠なし。
経典なし。
朱印帳も特に欲しくない。
白装束は買った。
理由は——
なんとなく。
装備はそれなり、思想はフリースタイル。

——
初日に出会ったおじさまは言っていた。
「全部回りきることに意味がある」
たしかにそうかもしれない。
でも、絶対じゃない。
回らなくてもいい。

——
もう一つ同じおじさまの言葉。
「楽しみながら回る」
これは——絶対だ。
今この瞬間を楽しむ。
これが自分のルールであり、
唯一の正解である。

山道からの景色
——
17時50分、12番札所到着。
私は人生で初めて、
👉自販機で6本買いをした。
・コーンポタージュ ×3
・特濃ココア ×2
・マッチゼリー ×1
……死ぬかと思った。
——
目的地、12番札所。
焼山寺。
ここがヤバかった。
看板、めちゃくちゃ出てくる。
「あと〇km」
「焼山寺はこちら」
——いや、全然着かん。
体感、300回くらい看板見た。
たどり着かない系ダンジョンである。
——
そして登場するワード。
👉「おへんろころがし1/6」
……名前からして怖い。
実際、怖い。
私は一度やらかした。
やっと登った山道。
迷った。
そのまま、下った。
——終わりである。
気づいた時の絶望。
ただまあ、
「いい筋トレになったな」
で片付けるあたり、
だいぶ壊れてきている。

——
山道には、2〜30mおきにお地蔵さん。
最初はスルーしていた。
理由——多いから。
だが、道に迷って引き返したことで考えが変わる。
全部、手を合わせた。
一礼して、祈る。
意味があるか?
知らない。
でも、自分が納得する。
それでいい。
——
この旅で決めたことがある。
👉「どうせやるなら、ちゃんとやる」
自分ルールは守る。
一礼する。
手を清める。
札を入れる。
適当でもいいが、
やると決めたことはやる。
——
そしてついに、焼山寺到達。
……死にかけた。
充電ら死んでいる。
ここで気づく。
👉「これ、イージーゲームじゃない」
遅い。
気づくのが遅い。
——
さらに現実。
宿、取れない。
人、多いらしい。
結果——
また野宿。
——
23時、公園のベンチ。
寒い。
起きる。
寝袋、ない。
喉、痛い。
……風邪の予感しかしない。
——
ということで決断。
👉明日、休む。
そして計画を立て直す。
33日チャレンジ——
一旦、冷静になる。
現実もある。
農業の準備。
時間の制限。
👉2週間プランへ修正。
——
現在、深夜3時22分。
データは揃った。
体力、限界値、迷子率。
すべて踏まえて、明日から再設計する。
——
最後に。
お遍路、めちゃくちゃオススメです。
特に——
👉一人でやるのがいい。
自分の甘さも、強さも、全部出る。
あと、普通に体力つく。
3日歩けたら、だいぶ強い。
——
印象としては、
日本人は50代〜60代が多い。
ほぼリタイア勢。
若者は……ほぼ外国人。
たまに“決意固めに来た人”がいるくらい。
——
でも正直、
これはハマる。
景色がいい。
空気がいい。
しんどいけど、気持ちいい。
山、川、民家、そして桜。
今日見た標高950mの景色は、普通に感動した。
——
さて。
一旦休もう。
そしてまた、遊び直そう。
この人生というゲームを。
——
山道を登りながら、致命的なことに気づいてしまった。
——おそらく僕は、失敗を楽しんでいる。
待ち望んでいるわけではない。
だが、その失敗を通して、世界を見ること、自分を見ることを、どこかで楽しんでいる。
普通、人は失敗を恐れる。
できるだけ避けようとする。
実際、旅の計画を完璧に立てる人や、誰かと共に安全に進む人とも出会った。
それはそれで、ひとつの正解だと思う。
それでも僕は、一人にこだわった。
一人で考え、迷い、苦しみ、そして突破する。
その一連の過程そのものを、味わいたかったからだ。
端から見れば、お遍路の旅。
だが僕にとっては、これは“遊び”に近い。
失敗のない人生なんて、退屈だ。
そんな人生なら、いっそ終わってしまったほうがいいとさえ思ってしまう。
——だから僕は、今日も迷いながら、進んでいる。

+道中のお布施の御札として
