2才はコメツブツメクサを奪い取る
耳鼻科の駐車場に車を停め、私は2才の娘を降ろす。
アスファルトから放たれる熱は夕方とは思えない暑さで、私はライトシェルジャケットを脱いで車の中に放り投げた。
娘の鼻詰まりが、なかなか治らない。
もっとちっちゃい頃は、垂れっぱなしのまま、何も気にせずおもちゃで遊んでいたな、などと思い出す。
けれどこの年頃にもなれば、流石に気になるのだろう。
遊ぶ手を止めては、
『はなー、はなー。』
と私を呼んだ。
診察を終えると、また新しい薬が一週間分。
耳鼻科を終え、薬局への通り道。
季節が夏に近付くにつれて、春、あんなに多様に咲いた野花も、姿を見せなくなりつつあった。
緑の草に埋もれてく。
植物としては、それがいつもの姿なのだろう。
しかし身勝手かな。
人はいちばん可愛らしい時を想うものなんだ。
それは別に、大人だけの話じゃない。
この子たちだって、もう花のないドウダンツツジには目を向けないから。
私はいつも必要以上に、子どもの感性を美しく見ない事にしている。
何に美を抱くのかは年齢の問題じゃないって思うんだ。
ふと、立ち止まる娘。
振り返り、しゃがみ込む。
少しだけ急かしたい気持ちが湧いたが、最近の私は、いつも神経質だった事を思い出した。
何も急ぐ事はないんだ。
私は気を取り直して、見守る事にした。
娘の視線の先には、ハルジオンの花。
いいじゃないか、寄り道くらい。
たまには好きにさせてあげよう。
私は娘の後ろに立ち、足元に目をやる。
すると、ハルジオンの向こう側に、小さく散りばめられたかのような、黄色い花が見えた。
あれは、何の花だろう?
私は花に向かってしゃがみ込み、スマートフォンのカメラを構える。
最近の私は、もうこの子たちよりも野花が好きなんじゃないかなと思って、少しだけ笑いたくなった。
すると横から娘が手を伸ばし、ハルジオンを手放したかと思えば、代わりにその黄色い花を摘んだ。
本当に、親の事を良く見ているものだ。
薬局のイスに座り、黄色い花を手でいじくる娘をだっこしながら、私は花の名前を調べてみた。
コメツブツメクサ。
何だその名前。
可愛いような、どこか抜けたような、なんとも直線的な名前をしていた。
米粒みたいな花だから、コメツブツメクサなのだろうか。
名前的に、シロツメクサの友達なのかな?
私がそんな事を考えてると、2才の娘が、
『はなー、はなー。』
と言う。
私は、教えてあげた。
『これはコメツブツメクサって言うんだってさ、可愛いね。』
と娘を見ると、見事な青っ鼻を垂らしていた。
ああ、その鼻ね…。
後でこの出来事をエッセイにしようと思ったけれど、あまりにもちゃんとオチが付きすぎてて嫌だったので、
(あんまり整ってない雑な内容にしよっと…。)
などと思いながら、帰り道を運転した。
ちなみに娘のコメツブツメクサはいつの間にか落としてしまったらしく、代わりに握られていたのはハルジオンだった。

お洋服とおんなじ色!
かわいいね。
