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AIで内製する会社と、外注に任せきる会社。数年後、何が違ってくるのか?

「それ、いつもの会社に頼んでおいて」
ホームページの更新、営業資料の作成、毎月の集計。
自社で手間をかけるより、専門の会社に任せたほうが早い。
経営者にとって、外注は時間を生み出す合理的な選択でした。
ただ、AI(人工知能)が仕事を担うようになると、この判断にもう一つの視点が必要になります。
その仕事を終えたあと、自社には何が残るのか、という視点です。
僕はこれから、AIを使って内製する会社と、仕事を外に任せきりにする会社の間に、経営の選択肢の差が広がっていくと考えています。
前回のレターで取り上げたChatGPT-6 Astraのリリースで、その動きは現実に始まっていると感じています。
内製する会社には、成果物に加えて「AIに仕事を任せる力」が蓄積するからです。
この力があれば、AIが進化したとき、新しくできることを自社の仕事に取り込みやすくなります。
ここでいう内製とは、AIを活用しながら、自社の人間が仕事の進め方を考え、成果物や業務の仕組みをつくり、改善できる状態を指します。
外部の専門家から教わることも、この内製化を進める方法の一つです。
問題になるのは、成果物だけを受け取り、仕事の進め方も改善の判断も、すべて外に預けてしまうことです。

内製すると、次にできることが増える

たとえば、ある卸売会社が、新商品の案内資料をつくる場面を考えてみます。
担当者がAIに商品情報を渡し、お客様に説明する文章をつくらせる。
最初に出てきた文章は、どこにでもありそうな説明かもしれません。
そこで「現場でどんな困りごとを解決するのか」「従来品と何が違うのか」を追加すると、伝わり方が変わる。
その過程で、担当者は気づきます。
AIに渡す情報の質が、出来上がる資料を左右するのだ、と。
次に別の商品を扱うときには、最初から必要な情報をそろえられます。
うまくいった指示を残しておけば、別の社員も使えます。
商品案内に使った情報を、問い合わせへの回答や、営業担当者向けの説明資料に応用することも考えられます。
一つの仕事を内製すると、次にAIへ任せられる仕事が見えてくる。
これが、内製によって得られる大きな収穫です。
もちろん、ただAIに文章をつくらせるだけで、会社に知見がたまるわけではありません。
何を渡すとうまくいったか、どこで間違えたか、何を人間が確認する必要があるか。
その経験を次の仕事で使うからこそ、社員のAI活用が会社の財産になります。
AIと一緒に働く経験が、人の学習につながることを示す研究もあります。
顧客対応の担当者5,172人を調べた研究では、AIの支援によって、1時間当たりの問題解決件数が平均15%増加しました。
経験の浅い担当者などで効果が大きく、研究者は学習を促す証拠も報告しています。
内製と外注の優劣を直接比較した研究ではありませんが、仕事をしながらAIの支援を受ける価値を考える材料になります。
研究論文「Generative AI at Work」

AIが働けるように、会社を組み直す

人に仕事を任せるとき、経営者は目的を伝え、必要な情報を渡し、判断できる範囲を決めます。
AIにも、同じような仕事の設計が必要です。
何を完成させてほしいのか。
どの資料を使うのか。
どこまで進めてよく、どの段階で人間に確認するのか。
それを具体的に決めると、AIを「労働力」として業務に組み込む道が開けます。
たとえば、問い合わせ内容を整理し、関連する商品情報を探し、回答案をつくるところまでをAIに任せる。
価格の特例や納期の約束、顧客への送信は人間が確認する。
このように分担すれば、社員は毎回ゼロから文章を書く負担を減らし、お客様への判断や対応に時間を使えます。
この方向を、マイクロソフトは2025年の働き方に関する報告で描いています。
人がAIの支援を受ける段階から、人とAIが一緒に働き、人が方向を決めてAIが一連の業務を進める段階へ移る、という見通しです。
そこで登場するAIエージェントとは、与えられた目的に沿って、必要な手順を進めるAIのことです。
すべての仕事を完全に任せられるという意味ではなく、人が確認や例外対応を担う形が示されています。
マイクロソフト「2025 Work Trend Index」
では、その働き手を受け入れる準備が、自社にできているでしょうか。
商品情報が社員それぞれのパソコンに分散している。
値引きの判断は社長の頭の中にしかない。
最新版の価格表がどれなのか、担当者に聞かなければわからない。
そんな状態では、AIに仕事を任せるたびに、人間が情報を探して説明することになります。
先ほどの卸売会社なら、商品情報をまとめ、価格表の最新版を明確にし、回答に必要な項目をそろえる。
そのうえで、AIが参照できるようにし、人間が確認する箇所を決める。
この準備が進むほど、AIに任せられる工程を増やしやすくなります。
マイクロソフトの共同創業者で元会長のビル・ゲイツは、2023年3月に発表した文章で、次のように述べています。
「産業全体がAIを中心に方向転換する。企業は、AIをどれだけうまく使うかによって差がつくことになる。」(筆者訳)
ビル・ゲイツ本人による「The Age of AI has begun」
僕はこの見通しを、中小企業の経営では「AIが働けるように、仕事の仕組みを組み直す必要がある」と受け止めています。
人間が毎回情報を探し、転記し、説明していた仕事を、どこからAIへ渡せるか。
そのために、何をそろえ、どの手順を変えるか。
日々の内製は、この再構築を小さく試す機会になります。
実際、マイクロソフトの2026年の報告でも、仕事の進め方を見直し、実務から得た知見を記録、共有して、組織の運営に組み込むことが提唱されています。
AIを使った経験を次の改善につなげる、という考え方です。
マイクロソフト「2026 Work Trend Index」

完成品だけを受け取ると、経験は外注先に残る

一方、外注先から完成品だけを受け取る会社では、この試行錯誤が社内で起きません。
資料が納品されれば、目の前の仕事は終わります。
しかし、AIがどこまでできたのか、何を人間が直したのか、自社で再利用できる部分はどこか。
その経験は、外注先に残ります。
外注先がAIの使い方を磨いていても、発注する会社が同じ速度で学べるとは限りません。
その結果、自社でできる範囲を見極められず、次の仕事も、その次の仕事も、以前と同じように外へ頼むことになります。
AIの進化によって選択肢が増えているのに、その選択肢に気づけない。
こうして、外注先への依存が続く可能性があります。

外注費を見直す視点

費用の面でも、見直す余地があります。
制作工程の一部をAIで短縮できても、外注費が自動的に安くなるとは限りません。
料金には、専門家の判断、品質の保証、保守や責任を引き受ける価値も含まれるからです。
その価値に納得して払うのであれば、外注は有効です。
ただ、自社でAIを使った経験がなければ、何にお金を払っているのかを確かめにくくなります。
以前は何時間もかかっていた定型作業が短縮されているのか。
同じ予算で、もっと多くの改善を頼めるのか。
一部を自社へ戻せるのか。
AIを学ぶことは、発注する側の判断力を上げることにもつながります。
内製にも、社員の時間や確認作業、仕組みを維持する費用がかかります。
担当者が本来の仕事を止めて何週間も取り組むのであれば、外注したほうが合理的な場合もあるでしょう。だからこそ、専門性の高い部分には外部の力を借りながら、日々使う知見と改善する力を社内に残す。
この方向を目指したいのです。
内製の価値は、経費の削減だけでは終わりません。
商品案内を自社で直せれば、お客様の反応を受けて改善できます。
よくある質問を整理できれば、問い合わせ対応の質をそろえられます。
見積もりの準備が早くなれば、同じ人数でも対応できる相談を増やせる可能性があります。
経営者が今から取り組むことは三つあります。

AIに、労力と時間と予算を割く

担当者を決め、試す業務を一つ選び、通常の勤務時間の中に取り組む時間を確保します。
たとえば、週に一度30分、繰り返し発生する資料づくりを見直すところからでも始められます。
利用料だけでなく、資料の整理や、結果を確認する時間も含めて予算を考えます。
「忙しい仕事の合間に、誰かがやっておいて」では、試行錯誤を続ける余裕が生まれません。

AIを、学び続ける

新しい名前や機能を覚えることに加えて、自社の同じ仕事を実際に試してみます。
以前できなかったことができるようになったか、確認の手間は減ったか。
その変化を確かめ、うまくいった指示や失敗を社内で共有します。
経営者自身も触れていれば、社員の提案や外注先の説明を、自分の経験に照らして判断できます。

最初は、社内資料の下書きなど、間違いを見つけやすく、修正できる仕事が候補になります。
作成から確認までの総時間と品質を比べ、効果があれば手順を残して広げます。
顧客への送信や契約、支払いに関わる部分には、人間が確認する段階を設けます。
任せる範囲を明確にしながら、自社で扱える仕事を増やしていくのです。
数年後の差は、こうした小さな取り組みの積み重ねから生まれると、僕は考えています。
自社の仕事を知り、AIの得意不得意を確かめ、必要な情報と手順を整えてきた会社には、新しいAIを活用する土台があります。
その土台があれば、進化の恩恵を受けるたびに、次の改善へ進みやすくなります。
今週つくる商品案内や、毎月繰り返している集計表。
その一つを、社内でAIと一緒につくってみる。
そこで得た気づきを残し、次の担当者が使えるようにする。
その一回の仕事から、自社でAIに任せられる仕事を増やしていく。
これからの内製には、会社の未来の働き手を受け入れる準備、という意味があるのだと思います。

中小企業AI経営協会
村越 慎司

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