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【クラシック音楽】「火刑台上のジャンヌ・ダルク」

―神の啓示を受けたジャンヌの行いは昇華されて、神の御元へと召された―

線香花火が肌に落ちて
 線香花火をしていて、ふと火の玉が、足の上に落ちた。
「うわぁぁ~、水かけてぇ!」
私は叫んでいた。お盆で家に来ていた従兄が、汲んであったバケツの水を私の足にかけてくれて、私はやっと落ち着けた。
 ほんの足の甲の一点に、線香花火の火の玉が落ちただけでも大騒ぎなのに、火炙りの刑での身体の負担とは、如何程のものなのだろうか―〈火刑台上のジャンヌ・ダルク〉この曲名を目にして、先ずそう思ったのだった。

オネゲルの立ち位置
 作曲者は、オネゲルである。20世紀フランスの作曲家で、〈パシフィック231〉がよく知られている。これは蒸気機関車が駅を発車してから、次の駅に到着するまで、走り続ける間の情景を表している作品である。半世紀前には、冨田勲がシンセサイザーで編曲している。私は、冨田勲の編曲版を、10代の時に大好きでよく聴いていた。
 「冨田勲の原曲の作曲家、オネゲルの作品ならば」
私は、〈火刑台上のジャンヌ・ダルク〉に期待を寄せた。そして、私の期待に十二分に応えている作品だった。

アルバムの紹介
劇的オラトリオ〈火刑台上のジャンヌ・ダルク〉
作曲 オネゲル
指揮 小澤征爾
ソプラノ歌手 マリー=クロード・ヴァラン
演奏 フランス国立管弦楽団
1991年リリース

世俗的な曲想
 この曲は、純粋な宗教音楽では無く、宗教的な題材を扱った、世俗的音楽といえる。
 ルネサンス期やバロック期の宗教曲の様に、美しく整った曲ではない。世俗の垢にまみれた様な、感情的な声楽や管弦楽、台詞朗読が様々に交差して、うたい上げている曲である。
 19歳の神を敬愛して止まない少女が、祖国フランスのために立ち上がり、軍隊を率いて勝利を治める。しかし、腹黒い大人達の手によって、敵国イギリスに引き渡されてしまう。宗教裁判で、ジヤンヌは、自らの過ちを認めれば命は助けると言われる。しかし、ジャンヌは「神に導かれた」自らの行動を肯定して譲らず、魔女の烙印を押されて火刑に処された。
 後半には、「聖カトリーヌ」らの神聖なる声部が表れる。しかし、裁判の有様や政治家の裏切りの場面は、不条理にして尊厳を欠いている。そんな曲を貫いているジャンヌの"語り"は、全編を通して感情的である。

ベルク作曲〈ヴォツェック〉とは
 同様に、尊厳無き世界観を表している声楽曲(オペラ)に、ベルクの〈ヴォツェック〉が挙がる。ヴォツェックは、貧困の中で上官や医師にいい様に扱われ、人体実験のモルモットにされる。妻にも裏切られて心を病んでゆき、最期は、不条理な死を遂げる。父と母が亡くなっても、それを理解出来ない幼い息子は、一人"馬" に乗ってストリートで遊ぶシーンで、幕が閉じる。
そんなオペラ〈ヴォツェック〉もまた、尊敬を欠いた不条理な世界を表現している。

主題と曲想 近代の二作品の共通点
 後期ロマン派の作曲家・マーラー以降、シェーンベルクの後継に位置するのがベルクである。また、オネゲルも20世紀の作曲家で、音楽史の上では新しい年代の作曲家だ。〈火刑台上のジャンヌ・ダルク〉は、1935年に作曲されている。
 私は、〈火刑台上のジャンヌ・ダルク〉と〈ヴォツェック〉の主題に近似性がある上、更に曲想の近いことに共通性を見い出せる。整然とした美しさとは対極の、世俗的で感情的な表現世界である。
 そして私は、いずれの曲共大好きで、殊に現在は、〈火刑台上のジャンヌ・ダルク〉を每日欠かさずに聴いている。

オンデ・マルトノの効果
 〈火刑台上のジャンヌ・ダルク〉曲中の特長として、「オンデ・マルトノ」の起用がある。初期のシンセサイザーで、1920年頃に登場した。火刑の炎の様子が、オンデ・マルトノによって表されている。管弦楽の音の質感とは、根本から異なるオンデ・マルトノの音色は、炎の表現手段として、誠に的を得ていると思う。
 無慈悲な迄に焰が燃え盛る分けではなく、時折、効果音的に使われていることに、好感をもてる。

死際よりも生き様の回想
 この曲は、ジャンヌ・ダルクが火刑台に縛られるところから始まるが、炎に焚かれる苦しみがえがかれる箇所は、最終景の第11景である。
ジャンヌのこれ迄の人生。
神を信じて敬愛する生き方
神の啓示を受けて、フランスの軍隊を率いてイギリスに勝利したこと。
世俗にいる周囲の大人達の、腹黒い汚さ。
大半は、そういったことが表現されて、回想の形で曲は進行してゆく。

 私は、この二ヶ月間、毎日この曲を聴き続け、オネゲルの表現世界に魅入られ心に刻んだ。

昇華される魂
 その曲名には思わず身構えてしまうが、火焰に焚かれて苦しみ抜く様な、趣味の悪い表現とは違う。
 世俗にいた身の上のジャンヌの魂は、昇華してゆく。聖カトリーヌ、聖マルグリットらに導かれ、神のいらっしゃる天へと、魂は召される。神に召されたジャンヌの、行いは昇華されて、命を終わりを遂げる。

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