AIは電力を大量消費する。それでも世界がAIを必要とする。 データセンター・気候変動・エネルギー問題を『AI』はどう変えるのか ―
AIの電力を大量VSエネルギー問題を解決するAI
「AIは便利だけれど、その裏で大量の電力を消費している。」
生成AIの普及に伴い、世界は言うか言わまいか迷っている事実
私自身、サスティナブルなDXを提唱し、『気持ちいいDX』なるものを進言してきました。
そんな中での矛盾。
それはAI自体が気候変動やエネルギー問題の解決を支援する技術でもあるということです。
つまり「AIは『問題』であると同時に『解決策』でもある」ということです。
私はこの対極のような話を
「自動車はガソリンを消費しCO2を排出します。
しかし自動車があるから物流が効率化されていて、社会全体では大きな価値を生み出していますよね」とも言います。
しかし、
「医療で用いられるメスは身体を切りますが、その切開する理由は身体を傷つけることではなく、病気を治すことです。」
というと、過度なAI使用も問題ないと聞こえる気がします。
そこで知り合いのドクターにその話をすると、
「医療で使われるメスは、確かに人の身体を切開する道具だ。
しかし、優れた外科医は必要最小限の切開で術野を確保し、患者への負担や傷跡をできるだけ小さくすることを目指すはずだ。」
と、とても腑に落ちる助言をいただきました。
AIも同じです。
大量に使えば価値が高まるわけではありません。
必要な場面で、必要なだけ活用し、社会全体のエネルギー効率や業務効率を改善することに、本当の価値があります。
AIを活用して、どのように社会全体の意思決定を改善し、持続可能な未来につなげるか。
その視点こそが、これからのDXには求められます。
AIが力を発揮するのは「複雑系」の課題
気候変動や電力システム、都市インフラは、多くの要素が相互に影響し合う複雑系(Complex Systems)と呼ばれる分野です。
気温が変われば電力需要が変化する
風速が変われば風力発電量が変化する
電力需要が変われば市場価格も変動する
異常気象が発生すれば送電設備にも影響が及ぶ
このように、一つの変化が別の変化を引き起こし、全体が連鎖的に動いていきます。
人間の経験や勘だけで、この複雑な関係をリアルタイムで判断することには限界があります。
AIは、膨大なデータを高速に分析し、それぞれの要素の関係性を学習することで、将来の状態を予測し、より精度の高い意思決定を支援できます。
つまりAIの価値は、「作業を自動化すること」だけではなく、「複雑な社会を理解する力」にあるのです。
AIの本質は「データ駆動型意思決定」のフォロー
AIというと、「人の仕事を代替する技術」というイメージを持たれることがあります。しかし、本質はそこではありません。
AIが得意なのは、膨大なデータを分析し、客観的な根拠をもとに判断を支援するデータ駆動型意思決定(Data-driven Decision Making)です。
例えば風力発電では、発電量は風の強さによって大きく変わります。
これまでは経験や気象予報をもとに運用していた部分も、AIを活用することで、数時間先から数日先までの風速や発電量を高い精度で予測できるようになっています。
その結果、どの程度の電力を供給できるか、不足分をどの発電方法で補い、電力需給をどうやって最適化するかといった判断を、より迅速かつ正確に行えるようになります。
AIは、人間の判断を置き換えるのではなく、判断の質を高めるためのパートナーなのです。
システム全体を最適化するという考え方
ここで重要になるのが、システム最適化(System Optimization)という考え方です。個々の設備だけを効率化しても、社会全体として最適になるとは限りません。
発電
送電
蓄電池
消費電力
再生可能エネルギー
電力市場
これらはすべてつながっています。
AIは、それぞれを個別に見るのではなく、システム全体を俯瞰しながら最適な運用を導き出します。
結果として、
電力ロスの削減
発電コストの低減
CO₂排出量の抑制
安定供給
を同時に目指せる可能性があります。
これは、まさにDXが目指す「全体最適」の考え方そのものです。
デジタルツインが未来のインフラを支える
近年、DX分野で注目されているのがデジタルツイン(Digital Twin)です。
これは、現実世界の設備や都市、送電網などをデジタル空間に再現し、その中でシミュレーションを行う技術です。
「大型台風が上陸したら送電網はどうなるか」
「この地域に太陽光発電を増やしたら電力供給はどう変わるか」
といったシナリオを、実際に設備へ影響が出る前に検証できます。
そこへAIを組み合わせることで、将来起こり得るリスクや課題を事前に予測し、より精度の高い政策立案や設備投資が可能になります。
AIは防災・レジリエンス向上にも貢献する
近年は豪雨や大型台風、猛暑など、異常気象が頻発しています。
その結果として発生する停電やインフラ被害も深刻化しています。
AIは、過去の気象データや設備情報を分析することで、
停電リスク
被害が発生しやすい地域
復旧に必要な時間
などを予測する研究にも活用されています。
ここで重要になるのがレジリエンス(Resilience)という考え方です。
*レジリエンスとは、「災害や障害が発生しても、社会や組織が迅速に回復する力」を意味します。
AIは災害を防ぐことはできませんが、災害への備えを強化し、被害を最小限に抑え、復旧を早めるための重要な支援技術となります。
なぜDXやAIは進まないのか
ここまで読むと、「こんなにメリットがあるなら、もっとAI導入が進んでもいいのではないか」と思うかもしれません。
実際私もDXコンサルの現場を見ていて、多くの企業や自治体でAIの導入が思うように進んでいません。
その背景には、行動経済学や経営学で説明される要因があります。
一つが現在バイアス(Present Bias)です。
これは、人は将来得られる大きな利益よりも、目の前のコストや負担を優先してしまう心理です。
「AIは必要だと思う。でも今は忙しい。」「来年度に考えよう。」
こうした判断が積み重なり、DXが先送りされるケースは少なくありません。
さらに、情報の非対称性(Information Asymmetry)も大きな課題だと私は日々感じています。
AIやDXは専門性が高いため、経営者とベンダーの間で知識量に差が生まれやすくなります。
その結果、「本当に自社に必要なのか分からない」「提案されたシステムをそのまま導入してしまう」といった状況が起こりやすくなります。
また、経営学ではイノベーションのジレンマという考え方があります。
既存事業が順調な企業ほど、新しい技術への転換が遅れ、市場の変化に対応しづらくなる現象です。これは決して大企業だけの話ではありません。
中小企業でも、「今のやり方で何とか回っている」という安心感が、変革のタイミングを逃す要因になることがあります。
AIは使う人が増えるほど価値が高まる
AIにはネットワーク効果(Network Effects)という特徴もあります。
利用者が増え、データが蓄積されるほど、AIはより多くのパターンを学習し、予測精度や利便性が向上していきます。
ただし、これは単に利用者数が増えればよいという話ではありません。
入力するデータの品質や、業務フローに沿った運用設計が伴ってこそ、その価値は最大化されます。
だからこそ、AI導入ではシステム選び以上に、「どのような業務課題を解決したいのか」を明確にすることが重要なのです。
AIを持続可能に運用するという視点
AIは気候変動対策を支える一方で、AI自身も大量の電力を消費します。
そのため、世界ではデータセンターの省エネルギー化や、再生可能エネルギーの活用、高効率なAIモデルの開発が進められています。
ここで欠かせないのが持続可能性(Sustainability)という考え方です。
AIは導入することが目的ではありません。
AIをどのように運用すれば、環境負荷を抑えながら、企業や地域社会に価値を生み出せるのか。
その視点が、これからのDXには不可欠です。
DXは「AI導入」ではなく、「意思決定の質」を高める
AIやDXという言葉を聞くと、多くの人は最新技術やシステムを思い浮かべます。しかし、本当に重要なのは技術ではありません。
大切なのは、現場の課題を正しく整理し、人がより良い意思決定を行える仕組みをつくることです。
私、室崎敬太がDX支援で重視しているのも、この考え方です。
AIを導入することを目的にするのではなく、業務の流れや現場の負担、運用のしやすさまで含めて設計する。
そして、小さく始めて検証を重ねながら、無理なく定着させていくことを大切にしています。
AIは、これからの社会に欠かせない技術です。
しかし、その価値は最新技術そのものではなく、人と社会のより良い意思決定を支えることにあります。
もし、自社のDXやAI活用について「何から始めればよいか分からない」と感じているのであれば、まずはシステム選定ではなく、業務の棚卸しや課題の整理から始めてみてください。
外部の視点を取り入れながら、経営と現場の両方を見据えて進めることが、持続可能で成果につながるDXへの第一歩になります。
参考資料
International Energy Agency(IEA)「Energy and AI」
経済産業省「GX・エネルギー政策関連資料」
IPA(情報処理推進機構)DX推進指標
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)評価報告書
OECD「Artificial Intelligence and the Environment」
室﨑 敬太 【Linkedin】【E-mail】
馬車馬テクノロジーズ 業務執行社員/Chief Strategy Officer
その他DX関連の顧問を複数社請け負わせていただいております。
17歳で学生起業家として活動を開始し、事業の立ち上げと運営を経験。その後、ファーストリテイリンググループに入社。 三井住友海上火災保険株式会社にて法人営業やリスクマネジメントに従事し、金融・保険分野における専門性を確立。 独立後は室﨑総合保険/MKエージェンシーを創業。不動産会社との業務提携を経て役員に就任。 コロナ渦以降にAIやDX、プログラミングを学び現在は企業のDXおよびAX戦略の立案から実行までをリード。AI・LLMを活用した業務改革や新規事業開発を中心に、複数の企業において顧問として参画している。 国内上場企業から外資系企業まで、繊維、小売、自動車、金融、不動産、建設、サービスなど多岐にわたる業界での実務経験を有し、業界横断的な知見と実行力を兼ね備えたDXに強みを持つ。
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現在進行中の「気持ち良いDX」及び
就労支援プロジェクト、精神疾患罹患後の社会復帰事業に充てさせていただきます。