AIを導入しても社員が使わないのはなぜか?反発・反抗・無視が起きる心理と、人事評価まで含めたDX定着の進め方
AI導入しても使わない社員の反発・反抗・無視への対処法
昨日出版ご報告した本でも触れていますが、
「会社で生成AIを導入したのに、一部の社員しか使っていない」
「研修まで実施したのに、以前と同じやり方を続けている」
「業務で使うよう伝えても、明らかに無視する社員がいる」
DXを進めていると、この問題にはかなりの確率でぶつかります。
経営側からすると、「会社が費用を負担して環境まで用意したのだから、使えばいいではないか」と感じるかもしれません。
特に、AIを使えば30分かかっていた作業が10分になるような場面では、使わない社員の行動は非合理的に見えます。
しかし、人間は必ずしも「便利だから使う」「会社に言われたから使う」という動き方をするわけではありません。
そこには、心理的な抵抗、仕事を失うことへの不安、自分の能力を否定された感覚、AIへの不信、単純なスキル不足、現在の業務とのミスマッチなど、複数の要因があります。
一方で、だからといって会社がいつまでも「使いたくない人は使わなくてもいい」としてしまえば、DXは進みません。
そもそも私の立場上そう言えないことも多々あります。
ではどうすればいいのか。
必要なのは、社員の反発をすべて心理問題として優しく受け止めることでも、逆に「従わないなら評価を下げる」と最初から締め付けることでもありません。
なぜ使わないのかを切り分け、会社として必要な業務行動を明確にし、そのうえで教育・業務設計・人事評価まで一貫させることが重要です。
AIを使わない社員を、最初から「抵抗勢力」にしない
まず整理したいのは、「AIを使わない」という同じ行動でも、原因は同じではないということです。
たとえば、
「操作方法がわからない人」
「AIの回答を信用していない人」
「自分の仕事がAIに奪われると思っている人」
「会社から強制されること自体に反発している人」
では、対策がまったく異なります。
情報技術の受容を説明する代表的研究であるUTAUT(Unified Theory of Acceptance and Use of Technology:技術受容・利用の統合理論)では、人が新しいITを利用するかどうかには、「使えば仕事の役に立つと思えるか」「使うことが難しくないか」「周囲から利用を期待されているか」「利用するための環境や支援があるか」といった要素が関係すると整理されています。
2026年に1,224人の就業者を対象として発表された職場でのAI利用に関する研究でも、AIを「役に立つ」と感じることやAIへの信頼が、AIに対する感情的な態度を介して利用意向に関係していました。
つまり、「機能を説明したから使うはず」というほど単純ではありません。
DXで重要なのは、社員を「使う人・使わない人」に二分する前に、使わない理由を診断することです。
「会社から強制された」が反発を強くする
ここで知っておきたい心理学の概念が、心理的リアクタンスです。
心理的リアクタンスとは、自分の選択の自由を奪われたと感じたとき、その自由を取り戻そうとして反発する心理反応を指します。
「明日から全員これを使ってください」
「今後、AIを使わない仕事の仕方は認めません」
このような伝え方は、経営側では単なる業務方針の説明でも、
社員側には「今までのやり方を否定された」「自分で判断する余地がなくなった」と受け取られることがあります。
強制的なテクノロジー導入を扱った研究では、
利用を強制されたと感じることが自由への脅威として認識され、否定的感情を生み、利用意向を低下させることが示されています。
これは、「社員の好きにさせるべき」という意味ではありません。
ポイントは、決定権と参加感は別物だということです。
会社としてAIを導入することは経営判断として決めても構いません。
「どの業務に使うのか」
「どの場面では人が判断するのか」
「どうすれば現場で使いやすいのか」
については、社員を設計に参加させる余地があります。
組織変革に関する研究でも、変革への参加やコミュニケーション、経営への信頼、公正さなどが抵抗と関係することが報告されています。
変化への抵抗は、単なる性格の問題ではなく、本人の特性と組織側の状況の双方から生まれます。
『AIが自分の仕事や価値を奪う』という不安も無視しない
AI導入では、通常のシステム変更とは少し違う反発も起きます。
「この仕事をAIができるようになったら、自分はいらなくなるのではないか」
「20年間身につけてきた経験を、会社はAIに置き換えるつもりなのか」
「AIを使える若い社員のほうが評価されるのではないか」
こうした不安です。
これもAIやDXの領域だから不安になるし、不安にさせるということがあると思います。
私の顧問先やセミナーなどでよく使う例えは
野球で言えばピッチングマシンを導入したらバッティングピッチャーが不要になるか、というお話です。
AI導入は、ピッチングマシンを入れたらバッティングピッチャーが不要になるのか
ピッチングマシンがあれば、一定の速度、一定のコースで、何球でも繰り返し投げることができます。
では、ピッチングマシンを導入した瞬間に、バッティングピッチャーは不要になるのかというと実際には、そう単純ではありません。
ピッチングマシンが得意なのは、同じ条件を安定して繰り返すことです。
一方で、人が投げるからこそできる練習もあります。
打者の状態を見ながら球速を変えたりコースを変えたり、間を変える。
実戦に近い緊張感をつくる。その日の課題に合わせて声をかける。
こうした仕事は、単純に「ボールを投げる」という作業だけを見ていてはわかりません。
それはAIも同じです。
文章の下書き、データ整理、要約、情報検索、定型的な問い合わせ対応など、一定のルールで繰り返す仕事はAIが得意になってきました。
しかし、顧客の表情を読み取ること、現場の空気を感じること、例外に対応すること、部下を育てること、責任を持って最終判断することまで、すべてAIに置き換えればよいわけではありません。
つまり、AI導入によって問われるのは、「この人が必要か、不要か」ではなく、「人がやるべき仕事は何か」ということです。
ピッチングマシンに延々と同じ球を投げさせればよい仕事を、人間が一日中やり続ける必要はありません。
その代わり、人はより実戦的な練習、選手への指導、課題分析、チームづくりに時間を使えるようになります。
ですから、社員に対しても「AIを使わないと仕事がなくなる」と伝えるのではなく、「ピッチングマシンが入ったからこそ、あなたにはもっと人にしかできない役割を担ってほしい」と伝えるほうが、AI導入の意図ははるかに伝わりやすくなります。
「心理的契約」に影響するAI導入の障壁
AI抵抗に関する2024年の統合レビューでは、社員のAIへの抵抗について、恐れ、自己効力感の不足、AIへの反感など複数の側面が整理されています。
そして対策として、AIへのアクセスを容易にすること、人間をAIで置き換えるのではなく人間とAIを補完関係として設計すること、AI利用の正当性や目的を組織として説明することなどが示されています。
さらにAI導入は、「心理的契約」に影響する可能性もあります。
*心理的契約とは、正式な雇用契約とは別に、社員が「会社は自分をこう扱ってくれるだろう」と認識している暗黙の期待関係です。AI導入と社員の信頼・エンゲージメントを扱った研究では、AI導入によってこの関係が変化する可能性が示されています。
ですから、「AIで仕事を効率化します」とだけ説明しても不十分な場合があります。
会社側は、
「AIでなくしたいのは人ではなく、転記作業です」
「AIに最終判断をさせるのではなく、社員が判断するための下準備を短くします」
「空いた時間を顧客対応や現場改善に使いたいと考えています」
というように、AI導入後に人の仕事がどう変わるのかまで説明する必要があります。
AIは一度間違えただけで信用を失いやすい
もう一つ興味深いのが、アルゴリズム嫌悪(Algorithm Aversion)です。
これは、AIやアルゴリズムが一度間違える場面を見ると、人間が必要以上にその仕組みを避けるようになる現象です。
Dietvorstらの研究では、人はアルゴリズムの誤りを見ると、場合によっては人間より正確なアルゴリズムであっても利用を避ける傾向が確認されています。
一方、その後の研究では、アルゴリズムの予測を利用者がわずかでも修正できるようにすると、利用されやすくなることが示されました。
重要なのは、完全にAI任せにするのではなく、人間側にある程度のコントロールを残すことです。
これは生成AI導入でも非常に重要です。
最初にAIが間違った回答を出した社員が、「ほら、やっぱりAIは使えない」となるのは珍しくありません。
「AIを信用してください」と説得するよりも、
「AIは80点の下書きを作る道具です」
「最終確認は人が行います」
「この業務ではAIを使いますが、この判断は人が行います」
と役割分担を決めたほうが現実的です。
AIを使いすぎないことも、AI活用の重要な設計です。
それでも明らかに反発・反抗・無視する社員はどうするのか
ここまで説明すると、「では、社員が拒否すれば会社は何もできないのか」と思われるかもしれませんが、もちろん、そうではありません。
会社が業務として必要なツールを決め、合理的な教育を行い、利用環境も整え、セキュリティルールも明確にしたうえで、対象業務について利用することを明確に指示しているにもかかわらず、正当な理由なく繰り返し無視するのであれば、それは「AIが苦手」という問題だけではありません。
業務プロセスを守るか、組織として決定した改善活動に参加するかという人事マネジメントの問題になります。
ただし、ここで「AIを何回使ったか」をそのまま評価指標にするのはおすすめしません。
週20回使えば高評価という制度にすれば、意味のない質問をAIに入力する社員が増えるだけです。
評価すべきなのはAIそのものではなく、AI導入によって会社が求めている業務行動です。
指定された業務プロセスを守れること
会社が承認したAIを適切に利用できること
AIの出力を検証できること
情報管理ルールを守れること
業務改善に参加すること
新しい業務方法を学ぶことなどです。
言い換えれば、
「ChatGPTを使ったか」を評価するのではなく、「会社が求める新しい仕事の進め方に適応できているか」を評価するということです。
人事評価にDX・AI活用を入れるなら、順番が重要です
私は、人事評価とDXを完全に切り離す必要はないと考えています。
むしろ会社が本気で業務を変えるのであれば、「従来の仕事を守った人」と「新しい仕事の仕組みを作った人」が同じ評価では、変革に協力した社員が報われません。
IPAの最新「DX動向2026」でも、DX人材について評価基準を設定している企業や必要スキルを把握している企業ほど、人材不足感が低い傾向が示されています。
その一方、2025年度調査ではDX人材について「評価基準はない」と回答した企業が76.1%でした。
さらに、AIの影響を踏まえて「内容が変わる業務の把握」「人材に必要なスキルの把握」「新たに必要な人材像の把握」などにすでに着手している企業は、まだ少数です。
AI導入効果を高く実感している企業ほど、業務変化や必要スキルの把握に取り組んでいる傾向も確認されています。
つまり、AIツールだけ導入し、人材要件や評価制度を昔のままにすること自体が制度上の矛盾なのです。
ただし、順番を間違えてはいけません。
業務を定義し、必要なAI活用を決め、教育し、一定の習熟期間を設ける。
本人との面談でできない理由を確認する。
支援してもなお業務上必要な行動を継続的に拒否する状態を確認する。
「業務改善への参加」「業務標準の遵守」「変化への適応」「必要スキルの習得」などの観点から人事評価に反映させる。
いきなり「AIを使わなければ減点」ではありません。
「罰」から始めると、公正さへの不信が生まれる
人事制度を考えるうえでは、組織的公正という考え方も重要です。
組織的公正とは、結果だけでなく、「どのような手続きで決められたか」「十分な説明があったか」「人として丁寧に扱われたか」まで含めて、社員が会社を公平だと感じるかという概念です。
183研究をまとめたメタ分析では、分配の公正さ、手続きの公正さ、対人関係上の公正さ、情報提供の公正さが、職務満足、組織コミットメント、離脱行動、パフォーマンスなど複数の組織行動と関係していました。
別の190研究・約6万4千人を対象としたメタ分析でも、特に手続き的公正がパフォーマンスや反生産的行動、組織への信頼などと関係することが報告されています。
だからこそ、経営側が「AIを使わない人は今後評価しません」と突然宣言するのは危険です。
社員側から見れば、「昨日まで求められていなかった能力で、今日から給料を決められる」という話になる可能性があります。
必要なのは、評価制度を罰として使うことではなく、会社が今後必要とする能力と仕事の進め方を明示することです。
法律上も、人事評価制度の変更は慎重に進める必要がある
人事評価への反映を考える場合、労務上の整理も必要です。
新しい評価項目を設けること自体が直ちに違法になるわけではありませんが、評価制度の変更が賃金、等級、昇格などの労働条件に実質的な不利益を与える場合には注意が必要です。
労働契約法では、使用者が就業規則を一方的に変更して労働条件を不利益に変更することは原則としてできず、就業規則による変更については、労働者が受ける不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、労働組合等との交渉状況などを踏まえた合理性と周知が求められています。
つまり、AI利用を人事評価や処遇に結びつける場合には、就業規則、賃金規程、人事評価規程との整合性を確認し、必要に応じて社会保険労務士や弁護士など専門家の確認を取ることをお勧めします。
特に「AIを使わない=懲戒」という短絡的な制度設計は避けたほうがよいでしょう。
AIを利用する必要性、対象業務、教育機会、本人が利用できない合理的事情、安全性などを確認したうえで判断する必要があります。
室崎敬太はいつも「導入→教育→業務標準→評価」
DXコンサルとして現場に入る場合、私は最初から社員の評価制度を変更するところからは始めません。
最初に確認するのは、「そもそも、このAIは本当に現場の仕事を楽にするのか」ということです。
経営側では便利に見えても、現場ではAIへの入力、結果確認、別システムへの転記が増え、むしろ仕事が増えているケースがあります。
その状態で「使わない社員」を評価しても、問題は解決しません。
まず対象業務を一つか二つに絞り、小さく試します。
議事録作成、社内文書の下書き、問い合わせ回答案、Excel作業の補助など、効果を確認しやすい業務から始めます。
そのうえで、現場と一緒に使い方を調整し、「この仕事ではAIを使う」「ここでは人間が確認する」「この情報は入力しない」という業務ルールにします。
経済産業省・総務省のAI事業者ガイドラインでも「人間中心」が共通指針として置かれ、AIリテラシーの向上、人材育成、安全安心なAI利用環境の整備などが示されています。
人を置き去りにしないことと、変化を求めないことは同じではありません。
十分に説明し、教育し、現場の意見も聞き、使える環境まで整える。
そこまで会社側が責任を果たしたうえで、業務として必要な変化への参加を求める。
それでも正当な理由なく継続的に拒否するのであれば、人事評価を含めたマネジメントの対象にしてよいと私は考えています。
AI導入で最も変えるべきなのは、社員ではなく「仕事の仕組み」
会社独自でAI導入やDX推進をして失敗すると、
「社員のITリテラシーが低い」
「ベテランが反対する」
「若手しかAIを使わない」と、人の問題にされがちです。
AIを導入しただけで業務フローが変わっていない
人事評価が変わっていない
管理職が使っていない
使う時間が与えられていない
効果が説明されていない
実際はこういう状態であることが多いです。
2026年のIPA調査でも、日本企業ではAI導入が広がっている一方、活用は業務効率化・迅速化が中心で、企業変革への展開はまだ限定的だと整理されています。
AI導入はツールの問題ではありません。
業務設計、人材育成、組織心理、マネジメント、人事制度まで含めた経営の問題です。
そして、AIを使わない社員が現れたときこそ、その会社のDX設計にどこか無理がないかを見る機会でもあります。
会社側の設計に問題があれば直す。
社員側にスキル不足があれば教育する。
心理的不安があれば説明する。
それでも必要な業務上の変化を拒否するのであれば、評価制度によって「会社が求める行動」を明確にする。
この順番が重要です。
DXは、大きなシステムを入れるところから始める必要はありません。
まず、「どの仕事を変えたいのか」「誰が困っているのか」「AIを使ったほうがよい仕事と、人がやったほうがよい仕事はどこか」を整理するところから始めれば十分です。
AIを使うこと自体を目的にせず、人の負担、心理的な抵抗、現場の流れ、情報管理、評価制度、そして運用を続けられるかまで見る。
そこまで設計して初めて、AIは会社に定着します。
自社だけでは「社員の問題なのか、業務設計の問題なのか、人事制度の問題なのか」を切り分けにくい場合には、外部の視点を入れて一度業務を棚卸しすることも有効です。
私はDXコンサルタントとして、経営と現場の間に入り、AI導入だけではなく、業務整理、運用設計、人材育成、評価の考え方まで含めた無理のないDXを支援しています。
AIを導入したものの現場で使われていない、社員の反発が強い、どこまで人事評価に反映すべきかわからない、といった段階でも構いません。
まずは「なぜ定着しないのか」を一緒に整理するところから始めることができます。
参考資料
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Dietvorst, B. J., Simmons, J. P., Massey, C., “Overcoming Algorithm Aversion: People Will Use Imperfect Algorithms If They Can (Even Slightly) Modify Them”, Management Science.
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Cohen-Charash, Y. & Spector, P. E.(2001), “The Role of Justice in Organizations: A Meta-Analysis”, Organizational Behavior and Human Decision Processes.
情報処理推進機構(IPA)「DX動向2026―広がるAI導入、DXは変われるか」2026年7月。
経済産業省・総務省「AI事業者ガイドライン」。
厚生労働省「労働契約」労働契約法
室崎 敬太 【Linkedin】【E-mail】
馬車馬テクノロジーズ 業務執行社員/Chief Strategy Officer
その他DX関連の顧問を複数社請け負わせていただいております。
17歳で学生起業家として活動を開始し、事業の立ち上げと運営を経験。その後、ファーストリテイリンググループに入社。 三井住友海上火災保険株式会社にて法人営業やリスクマネジメントに従事し、金融・保険分野における専門性を確立。 独立後は室﨑総合保険/MKエージェンシーを創業。不動産会社との業務提携を経て役員に就任。 コロナ渦以降にAIやDX、プログラミングを学び現在は企業のDXおよびAX戦略の立案から実行までをリード。AI・LLMを活用した業務改革や新規事業開発を中心に、複数の企業において顧問として参画している。 国内上場企業から外資系企業まで、繊維、小売、自動車、金融、不動産、建設、サービスなど多岐にわたる業界での実務経験を有し、業界横断的な知見と実行力を兼ね備えたDXに強みを持つ。
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現在進行中の「気持ち良いDX」及び
就労支援プロジェクト、精神疾患罹患後の社会復帰事業に充てさせていただきます。