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『AI時代の新しいシニョリッジ』なぜDXを進めるほど格差は広がるのか

AIは現代の米ドルかもしれない『AI時代の新しいシニョリッジ』

皆さん日々DXの話をし、AIの有効活用を考えています。

生産性向上。
業務効率化。
人手不足の解消。
属人化からの脱却。
AIを使った経営改善。

どれも間違ってはいません。

実際、多くの会社にとって、DXやAI活用は避けて通れないテーマになっています。
人が採れないことやベテランに業務が集中していること、Excel管理が限界に近づいている。
紙を使い、電話を使い、メールを打ち、手入力が現場を圧迫している。
こうした状況を考えれば、デジタル化を進めること自体は自然な流れです。

しかし、ここであまり語られない問いがあります。

DXによって生まれた利益は、最終的に誰の懐へ入るのでしょうか。
以前以下のリンクの記事を書かせていただきました。
そのために毎月支払う利用料、クラウド費用、AIツールの課金、システム利用料は、どこへ流れていくのでしょうか。

1944年ブレトン・ウッズ会議でドルは『世界のドル』になった

1944年のブレトン・ウッズ会議
この会議をきっかけに、ドルは世界経済の中心的な通貨になりました。
世界中の国がドルを必要とする構造が生まれ、ドルを発行する側と、ドルを使う側の間に大きな力の差が生まれました。

いま起きているAIやDXの流れも、単なる技術革新ではなく、新しい基軸通貨が生まれる過程なのではないか。
その仮説は少しずつ現実社会で「もしや・・・」と思う方も増えてきているのではないでしょうか。

この記事では、AI、DX、シニョリッジ、格差という一見バラバラに見えるテーマをつなげながら、これからの企業経営で本当に考えるべきことを整理していきます。

基軸通貨が生んだ最強の既得権益

まず、シニョリッジという言葉から整理します。

シニョリッジとは、
簡単に言えば「通貨を発行できることによって得られる利益」です。
たとえば、紙幣を印刷するコストが数十円だったとしても、その紙幣に1万円の価値があると認められれば、発行する側には大きな利益が生まれます。もちろん現代の通貨制度はそれほど単純ではありませんが、本質的には「みんなが必要とするものを発行できる側が強い」という構造があります。

MUROSAKIKEITA

ドルはその代表例です。

世界の貿易、金融、資源取引の多くはドルを前提に動いてきました。
多くの国や企業は、国際取引をするためにドルを必要とします。
ドルがなければ、石油も買いにくい。
貿易もしにくい。
国際金融にも参加しにくい。

つまり、世界中がドルを必要とする構造ができたわけです。
=投資家や金融業界でいう『ドル一強』時代の誕生。

ここで重要なのは、ドルを使う国と、ドルを発行する国が同じ立場ではないということです。

ドルを使う国は、ドルを得るために輸出をしたり、外貨を稼いだり、時には借り入れをしたりします。
一方で、ドルを発行できる国は、世界中からドル需要を受ける立場にあります。

これは単なる通貨の話ではありません。
「みんなが使わざるを得ない基盤を持っている側」と、「その基盤を使わなければならない側」の差です。

この差が、長い時間をかけて経済的な力の差になっていきます。

DXにもシニョリッジが存在する

ここで、話をDXに戻します。
多くの企業はいま、AIやデジタルツールを導入しようとしています。

  • ChatGPTを使う。

  • Microsoft Copilotを使う。

  • AWSやAzureに業務基盤を置く。

  • 会計ソフトをクラウド化する。

  • 営業管理ツールを導入する。

  • 予約、請求、在庫、勤怠、顧客管理をSaaSに移す。

あえてSaaSのことを思い返す

SaaSとは、インターネット経由で使う月額型のソフトウェアのことです。
昔のようにソフトを買い切るのではなく、毎月利用料を払って使い続ける形です。

この仕組みは、使う側にとって便利です。
初期費用を抑えられます。
導入しやすい。
アップデートも自動で行われます。
社内に専門のIT担当者がいなくても使えるものが増えています。

しかし、別の見方をするとどうでしょうか。

数百万、数千万の企業や個人が、毎月同じプラットフォームに利用料を支払う構造が生まれています。

それは本当に単なるソフトウェア利用料なのでしょうか。

見方を変えれば、新しい形の通貨発行権に近いものかもしれません。

無理やりそのように見せていると思うかもしれませんが、仕事をするために必要な基盤を特定の企業が握り、その基盤を使うために継続的な支払いが発生するからです。

昔は、会社の業務に必要なものは自社の中にありました。
帳簿、紙のファイル、Excel、電話、社員の頭の中のノウハウ。
もちろん非効率ではありましたが、少なくとも毎月外部の巨大プラットフォームに支払い続ける構造ではありませんでした。

ところが今は違います。

メールも、顧客管理も、請求も、会議も、資料作成も、広告運用も、採用も、データ保存も、AIによる文章作成も、どこかのプラットフォーム上で行われます。

仕事そのものが、外部の基盤の上に乗り始めています。

これが進めば進むほど、企業は便利になる一方で、基盤を持つ側への依存を深めていきます。

中小企業はDXやAIを買うために借金をする

この構造が最も重くのしかかるのは、中小企業です。

大企業であれば、DX投資に大きな予算を組むことができます。
専門部署もあります。導入後に自社向けにカスタマイズする余力もあります。ツールを使いこなす人材も採用できます。

しかし、中小企業はそうはいきません。

人手不足に苦しみながら、日々の業務を回し、そのうえでIT化やAI活用にも取り組まなければならない。
現場には余裕がなく、経営者自身も何から始めればよいかわからない。
けれど、世の中からは「DXを進めないと取り残される」と言われる。

その結果、十分な業務整理をしないまま、ツール導入に踏み切る会社が出てきます。

補助金を使う。
リースを組む。
借り入れをする。
毎月の利用料を増やす。
外部ベンダーに任せる。

そして気づくと、業務は少し便利になったものの、固定費が増えている。ここに、DX時代の厄介さがあります。

地主と小作人の関係になるバイアスに気づいていない

DXによって生産性が上がることはあります。
間違いなくあります。
問題は、その上がった生産性による利益が、どれだけ自社に残るかです。

業務効率が10%上がったとしても、その分だけツール利用料、クラウド費用、保守費用、外部委託費が増えていれば、会社の手元に残る利益は思ったほど増えません。

むしろ、業務の中心が外部サービスに移れば移るほど、自社でコントロールできる範囲は狭くなります。

昔でいえば、地主と小作人の関係に近いかもしれません。

土地を持つ側は、土地を貸すことで継続的な収益を得ます。
土地を借りる側は、そこで一生懸命働きます。
収穫量が増えても、地代が上がれば手元に残るものは限られます。

現代では、その土地がデジタル基盤になりました。

プラットフォーム企業が土地を持ち、利用企業がその上で仕事をします。

もちろん、プラットフォーム企業が悪いという話ではありません。便利なサービスを作り、維持し、改善している以上、対価を得るのは当然です。

ただし、利用する側は、自分たちがどの土地の上で商売をしているのかを理解しておく必要があります。

大企業(上場企業)を中小企業は真似てはいけない

大企業にとってDXは、単なる支出ではありません。
なぜなら、DXに必要なツールや基盤そのものを、大企業側が作っているケースが多いからです。

クラウドを提供する企業。
AIを提供する企業。
業務システムを販売する企業。
導入を支援するコンサルティング会社。
販売代理を行うパートナー企業。

DXという市場では、大企業が大企業に売り、大企業が大企業から買う構造が生まれています。

その他でよくあるケースはDXの受け皿になるグループ会社や関連会社を持っている点です。

たとえばトヨタシステムズは、トヨタおよびトヨタグループのデジタル化支援、レガシーシステムの刷新、データ活用などを進める会社として位置づけられています。
つまり、トヨタがDX投資をすれば、その一部は外部に出るだけでなく、グループ内のIT機能や人材強化にもつながります。

中小企業が外部ベンダーに払うと、そのお金は基本的に外へ流れます。
しかしトヨタの場合は、DX支出がグループ内の開発力、運用力、データ基盤、人材育成に還元されやすい。

これはかなり大きな違いです。

そこでは、支払ったお金が完全に外へ出ていくというより、大企業同士の経済圏の中で循環します。
販売奨励金、紹介料、共同販促費、パートナー契約、保守運用費など、名目はさまざまですが、DXを広げることで利益を得る側が存在します。

もちろん、これは不正という話ではありません。
むしろ、現代のIT業界では一般的な商流です。

しかし中小企業は、その循環の外側にいます。

中小企業がDXツールを導入する時、その支払いは多くの場合、自社の外へ出ていきます。クラウド費用も、AI利用料も、システム利用料も、導入支援費も、毎月の固定費として積み上がっていきます。

大企業はDX市場の中で「買う側」であると同時に「売る側」にもなれます。
しかし多くの中小企業は、ほとんどの場合「買う側」にしか立てません。

日本国内でも新しい既得権益が生まれる

ここまで読むと、「結局、アメリカの巨大IT企業が強いという話か」と感じるかもしれません。しかし、問題はそれだけではありません。

日本国内でも、同じ構造は必ず生まれます。

会計AI。
医療AI。
法務AI。
営業AI。
建設業向けAI。
製造業向けAI。
介護業界向けAI。
不動産業界向けAI。

それぞれの業界で、「これを使うのが当たり前」という標準ツールが生まれていきます。

最初は便利なツールとして導入されます。
次に、周囲の会社も使い始めます。
そのうち、取引先や業界団体も前提にし始めます。
最後には、それを使っていない会社のほうが不利になります。

こうなると、利用料は単なるコストではなくなります。

業界で事業を続けるための参加料になります。
税金のように、毎月払うことが前提になるのです。

ここでも、勝者はAIを使う会社ではありません。AIを使わせる会社です。

もちろん、すべての企業がプラットフォーム側に回れるわけではありません。多くの中小企業は、利用者側に立つことになります。

昔ならレジがなくてもザルにお釣りを用意しておけばレジシステムは済んでいた。
だが、今となれば電子マネーインフラやクレカなども含めお金を受け取るだけで非常に多くの経費を拠出する必要があります。

だからこそ重要なのは、「どのAIを使うか」だけではありません。

どの業務を外部基盤に乗せるのか。
どのデータを自社に残すのか。
どの判断を人間が持ち続けるのか。
どこまでを標準化し、どこを自社独自の強みにするのか。

この設計がないままDXを進めると、便利にはなりますが、会社の芯が少しずつ外に出ていきます。

AI時代の格差は所得格差ではない

AI時代の格差というと、多くの人は「AIを使える人」と「AIを使えない人」の差を想像します。
あるいは、AIを使って稼げる人と、仕事を奪われる人の差を思い浮かべるかもしれません。

もちろん、それも重要な論点です。
しかし、もっと大きな格差は別のところにあります。

それは、発行者と利用者の格差です。
ドルの世界では、ドルを発行する側と、ドルを必要とする側の間に大きな差がありました。

AI時代にも、同じような構造が生まれつつあります。

  • AIを提供する側。

  • AIを組み込んだ業務基盤を持つ側。

  • 業界標準となるデータや仕組みを握る側。

  • 企業活動の前提になるプラットフォームを運営する側。

これらの企業は、継続的な利用料を受け取ります。

一方で、AIを使う側の企業は、便利さと引き換えに、継続的な支払いと依存を受け入れることになります。
ここで大切なのは、AIやDXを否定することではありません。

むしろ逆です。

これからの企業経営において、AIやDXを避け続けることは現実的ではありません。
人手不足は続き現場の負担は増え続けるからです。
紙やExcelだけで業務を回すのも限界があります。

だからこそ、導入の前に考えるべきことがあります。

自社は何を楽にしたいのか。
何に時間を取られているのか。
どの業務が利益を生んでいるのか。
どの業務は思い切って手放してよいのか。
どの情報や判断は、自社の中に残すべきなのか。

ここを整理しないままAIを入れると、会社は「便利な利用者」にはなれても、「強い事業者」にはなれません。

DXで本当に必要なのは、ツール選びではなく業務構造の整理です

多くのDX失敗は、ツール選びの失敗に見えます。

使いにくかった。
現場に定着しなかった。
思ったほど効果が出なかった。
費用だけが増えた。
結局Excelに戻った。

しかし、実際にはツール以前の問題であることが多いです。

業務の流れが整理されていない。
誰が何を判断しているか見えていない。
例外対応が多すぎる。
現場ごとにやり方が違う。
そもそも何を改善すべきか決まっていない。

この状態でAIやシステムを入れても、混乱がデジタル化されるだけです。
これでは、本質的な改善にはなりません。

DXで本当に必要なのは、最新ツールを探すことではなく業務構造を見える化することです。
ここを整理してからでなければ、AIもDXも十分な効果を発揮しません。

AIを使う側に回るなら、使われ方を設計する必要がある

IT領域の企業以外、中小企業の多くはAIの発行者側にはなれないかもしれません。
しかし、だからといって無力ではありません。

大切なのは、AIやDXに使われるのではなく、自社の目的に合わせて使い方を設計することです。

すべてを外部ツールに任せる必要はありません。
すべてを自社開発する必要もありません。
大規模なシステム投資から始める必要もありません。

まずは小さく試すことです。

たとえば、問い合わせ対応の一部をAIで整理する。
営業日報を自動で要約する。
請求や見積の作成フローを見直す。
Excelで管理している情報を、必要な範囲だけデータ化する。
社内のよくある質問をAIで検索できるようにする。

こうした小さなPoCから始めることで、自社に本当に必要な仕組みが見えてきます。

PoCとは、本格導入の前に小さく試して効果を確認することです。
いきなり大きな投資をするのではなく、現場で使えるか、費用に見合うか、運用できるかを確かめる段階です。

特に非IT領域の企業では、この小さく試す進め方が重要です。
なぜなら、最初から正解のツールを選ぶことは難しいからです。

現場の業務は、外から見る以上に複雑です。ベテランの経験、暗黙の判断、取引先ごとの例外、昔からの慣習が絡み合っています。
だからこそ、ツールを入れる前に、現場を理解し、業務を整理し、何を残し、何を手放すかを一緒に考える伴走者が必要になります。

私たちは『AI革命』ではなく格差は広がるのを見ている可能性

AIやDXは、便利な道具です。
しかし、それは同時に、新しい経済構造でもあります。

誰が基盤を持つのか。
誰が利用料を払い続けるのか。
誰がデータを持つのか。
誰が業界標準を作るのか。
誰が発行者になり、誰が利用者になるのか。

この問いを抜きにしてDXを進めると、会社は便利になる一方で、長期的には自社の自由度を失っていく可能性があります。

AI時代の勝者は、AIを使う人ではありません。
AIを使わせる人です。

そして多くの企業は、気づいた時には利用者側に座っています。
だからこそ、悲観するのではなく、冷静に設計する必要があります。

自社にとって必要なDXとは何か。
外部に任せてよい業務は何か。
自社に残すべき判断やデータは何か。
どこから小さく始めれば、現場に無理なく定着するのか。

馬車馬テクノロジーズは、単にAIツールを導入する会社ではありません。

私が重視しているのは、業務構造の整理、現場理解、業務設計、そして導入後の定着です。

「何を導入するか」だけではなく、「何を残し、何を手放すか」を一緒に考えること。
人を増やす前に、業務の構造を見直すこと。
大きな投資の前に、小さく試して確かめること。

そこに、非IT領域の企業にとっての本当のDXの価値があると考えています。

私たちはAI革命を見ているのではないのかもしれません。
新しい格差を作る仕組みが生まれる瞬間を見ているのかもしれません。

そして気づいた時には、すでに利用者側に座っている。

だからこそ今、自社の業務を一度立ち止まって見直す意味があります。

AIやDXをどう進めればよいかわからない。
ツールを入れたが、現場に定着していない。
毎月のシステム費用が増えているのに、経営改善につながっている実感がない。
自社に合う形で、小さくPoCから始めたい。

そう感じている場合は、いきなり大きなシステムを入れる前に、まずは業務の整理から始めてみてください。

室﨑 敬太 【Linkedin】【E-mail】
馬車馬テクノロジーズ 業務執行社員/Chief Strategy Officer
その他DX関連の顧問を複数社請け負わせていただいております。

17歳で学生起業家として活動を開始し、事業の立ち上げと運営を経験。その後、ファーストリテイリンググループに入社。 三井住友海上火災保険株式会社にて法人営業やリスクマネジメントに従事し、金融・保険分野における専門性を確立。 独立後は室﨑総合保険/MKエージェンシーを創業。不動産会社との業務提携を経て役員に就任。 コロナ渦以降にAIやDX、プログラミングを学び現在は企業のDXおよびAX戦略の立案から実行までをリード。AI・LLMを活用した業務改革や新規事業開発を中心に、複数の企業において顧問として参画している。 国内上場企業から外資系企業まで、繊維、小売、自動車、金融、不動産、建設、サービスなど多岐にわたる業界での実務経験を有し、業界横断的な知見と実行力を兼ね備えたDXに強みを持つ。

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室崎 敬太 【AIテック企業役員×オーナー経営】 現在進行中の「気持ち良いDX」及び 就労支援プロジェクト、精神疾患罹患後の社会復帰事業に充てさせていただきます。