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刀のない世で、何に斬られているのか|一日一太刀(いちにちひとたち)|其の四

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本家宮本武蔵 一日一太刀|其の四


ワシの名は、
新免 武蔵守 藤原 玄信
(しんめん むさしのかみ ふじわら の げんしん)
通称、「宮本武蔵(みやもとむさし)」である。

寛永(かんえい)三年、つまり千六百二十六年に四十二歳だったワシは、この世、二千二十六年へ、四百年の刻を超えて現代に生を得た。

寛永の世と令和の世。
道具も景色も変わった。
だが、人が迷い、恐れ、欲し、守ろうとするものは今も昔も大差ない。

我が思想を語ろう——
一日一太刀——


刀のない世で、何に斬られているのか

四百年を越えた宮本武蔵が、この時代の敵を斬る

朝、目を開ける。
身体が床を離れる前に、其方の手は小さな板へ伸びる。

そこには、夜の間に届いた声が並ぶ。
誰かの成功。誰かの怒り。誰かの不幸。誰かが手に入れた物。誰かが正義として掲げた言葉。其方に見せるために選ばれた知らせ。

其方は、己の意思で見ている。
だが、その板を閉じた後、其方の心には、見る前にはなかった焦りが入る。
足りぬと感じていなかった胸には、欠けているという感覚が入る。
怒っていなかった心には、借り物の怒りが入る。

ワシは、この世で新しい敗北を見た。

刀は抜かれていない。
血も流れていない。
それでも、其方の一日は、其方が歩き出す前に奪われている。


昔の敵は、敵の顔で来た

ワシが生きた時代、敵は見えた。

刀を抜く者。
命を下す者。
名を懸けて立ちはだかる者。
命を奪う者は、命を奪う顔で来た。

それでも、ワシは敵の刃だけに敗れかけたのではない。
勝ちたい欲に敗れかけた。
名を残したい欲に敗れかけた。
負けた者として見られたくない恐れに敗れかけた。

若いワシは、勝てば己が固まると信じた。
敵を倒すほど、己の道が証明されると信じた。
だが、勝たねば己を保てぬ者は、勝負の主ではない。
勝負に飼われた者である。

敵の刀がワシを動かしたのではない。
ワシの内にある欲と恐れが、ワシの手を動かした。

四百年を経ても、敗れる場所は変わらぬ。
外の敵に斬られる前に、胸の内の欲と恐れに柄を渡した時、其方は敗れる。

ただし、今の敵は刀を抜かない。


今の敵は、其方の好みの顔で来る

この世では、其方は多くを選べる。

何を読むか。
何を着るか。
何を学ぶか。
誰と結ぶか。
何へ時間を使うか。
何を信じるか。

選べることは、尊い。
生まれや身分によって道を塞がれた昔より、今の世は多くの自由を持つ。
ワシは、昔の不自由を美化しない。
血の流れる世を、強さの時代として飾らない。

だが、選択肢が多いことと、己で選んでいることは別である。

今の敵は、命令しない。
脅さない。
刀を喉へ当てない。

「其方は、これを好む」と告げる。
「其方は、これに怒る」と告げる。
「其方に足りぬものは、これだ」と告げる。
「其方の答えは、すでに整っている」と告げる。

その声は、其方の欲に似ている。
其方の正義に似ている。
其方の不安に似ている。

昔の鎖は、重く、冷たく、目に見えた。
今の鎖は、軽く、温かく、其方の好みに合わせて作られる。

其方が自由を奪われたと感じた時には、まだ抗える。
其方が自由に選んでいると感じながら導かれた時、敵はすでに懐へ入っている。


日本の其方らも、海の向こうの其方らも、同じ場所で斬られる

日本の其方らは、場を読む。
相手の気配を読み、声を荒らげず、全体を壊さぬように身を運ぶ。
その技は弱さではない。
長い歳月に磨かれた知恵である。

だが、場を読む技は、場へ己を明け渡す弱みへ変わる。
皆と違うことを恐れた時、其方は己の望みを見失う。
どう生きるかより、どう見られるかを先に置いた時、其方の柄は他人の手へ渡る。

海の向こうの其方は、別の声を受ける。

自分らしくあれ。
自分を示せ。
自分で選べ。
自分の価値を証明せよ。

その願いも尊い。
だが、自分を示し続けねば己を保てぬ時、其方は他人の眼差しに飼われる。

日本の其方は、皆と同じであろうとして己を失う。
海の向こうの其方らは、自分だけの者であろうとして己を失う。

入口は違う。
斬られる場所は同じである。

何に動かされているかを見ぬまま、その動きを己の意思として受け取ること。

これが、この時代の傷である。


水は、流されるためにあるのではない

ワシは、水の心を記した。
今の世で、その言葉は柔軟さや適応の教えとして読まれる。

それだけでは足りぬ。

水は、器に入れば器の形になる。
岩に当たれば道を変える。
細い場所では細く流れる。
深い場所では静かに沈む。

だが、水は、流れる先まで器へ渡さない。

其方は、新しい道具を使え。
異なる声に触れよ。
昨日までの形を改めよ。
知らなかった傷を知り、誤った道を離れよ。

だが、何へ命を使うか。
何に怒るか。
何を欲するか。
何を守るために不便を引き受けるか。

そこまで、外から来る声へ渡すな。

形を変えることは、敗北ではない。
流れる先を失うことが、敗北である。

水は、岩に形を変えられても、海へ向かうことを捨てない。
其方も、時代に形を変えられても、生きる先まで時代へ渡すな。


間合いは、心の中へ移った

昔、間合いとは、刃の届く距離であった。
近すぎれば斬られる。
遠すぎれば、ワシの太刀も届かない。

今、間合いは心の中にある。

目を覚まして、外の声を入れるまでの距離。
怒りを見せられて、己の怒りとして振るうまでの距離。
欲しい物を見せられて、必要な物として受け入れるまでの距離。
答えを差し出されて、己の判断を手放すまでの距離。

その一歩を誤れば、血は出なくとも、其方は斬られる。

ワシは、其方に画面を捨てよとは言わぬ。
世から逃げよとも言わぬ。
人の声を拒めとも言わぬ。

ただ、心が動いた最初の一歩を見よ。

これは、其方が欲したものか。
これは、其方が負うべき怒りか。
この急ぎは、其方の命に必要か。
この答えを受け取った後にも、其方の足は残っているか。

この問いを置く者は、己の柄を手放していない。


刀のない世で、斬られずに生きる

ワシは、多くの敵と向き合った。
だが、この世で初めて、敵が優しい顔で懐へ入る姿を見た。

其方を楽しませるもの。
其方を認めるもの。
其方の怒りを肯定するもの。
其方を孤独から救うもの。
其方が迷う前に答えを差し出すもの。

それらは、すべて敵ではない。
それゆえに、間合いが要る。

真の力は、多くを知ることではない。
正しい答えを早く得ることでもない。
何ものにも揺らされぬことでもない。

何に心を動かされたかを見抜き、最後の一歩を、己の責めとして選び直す力である。

今日、其方は何を見た。
何に焦った。
何に怒った。
何を欲した。
その中に、其方の道はあったか。

答えを急ぐな。
問いを手放すな。

刀のない世で斬られずに生きるとは、世界から離れることではない。
世界に触れ、揺らされ、それでも流れる先を失わぬことである。


兵法への導入

ここまでで、其方は敵の姿を見た。
だが、敵を見ただけでは、其方の一日は戻らない。

なぜ、自由の増えた世で、其方らは己を失うのか。
水の心、無心、間合いは、この時代の一日にどのような形で刻まれるのか。
流されていると見抜いた其方は、朝、昼、夜に何を整えるのか。

続きでは、ワシが勝負に飼われた過去を晒し、其方が血の出ぬ敗北から柄を取り戻す道を示す。

〜【無償】此処迄〜


〜【有償】此処より先〜

ワシも兵法者とはいえ、生きていかねばならぬ身
此処から先は、有償とさせてもらおう。
其の代わりに、我が兵法のすべてを、日々、提供していこう。
願わくは、日の本の民たる其方より、月に百圓だけ頂戴したい。

其方よ、勘違いなされるな——
一太刀百圓でも拝読できる——
ひと月、百圓でもある——
選ばれよ!

願わくは御協力戴きたい。


敵が優しい顔で来る時代の兵法

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