リック・デリンジャー オール・アメリカン・ボーイ / Rick Derringer All American Boy 1973
1973年ファースト・ソロ・アルバムはブルー・スカイ・レコードからリリース
CBSソニー・グループのブルース・レーベルであるブルー・スカイ・レコードが設立された。
設立初年度の1973年ファースト・ソロ・アルバム。
アルバム・ジャケットのビジュアルはブロンドのストレート・ロング・ヘアーを靡かせ、シルバーのジャンプ・スーツ。キャンディ・アップル・レッドの改造ストラト・キャスターというフォト・ジェニックを追求したショット。
背景も宇宙船からやって来た風に見えなくも無い。その宇宙からやって来たグラム・ロッカーなるものが赤いギターを武器に抱え、颯爽とロックを伝導しに来たなんて妄想気味に書くとちょっとヤバい。
どの楽器パートも精緻に分離よく音が録音出来るビル・シムジクにプロデュースを依頼。現在のリマスター音源で聴けば起用理由が尚一層理解出来る。
Track List
Rock n’ Roll, Hoochie Koo
Joy Ride - instrumental
Teenage Queen
Cheap Tequila
Uncomplicated
Hold
The Airport Giveth (The Airport Taketh Away) Teenage Love Affair
It's Raining
Time Warp - instrumental
Slide On Over Slinky
Jump, Jump, Jump
Rock n’ Roll, Hoochie Koo
現代では、アーティストの存在を飛び超えてロックのスタンダード・ナンバー(アンセム)であるオープニング・ナンバー。
イントロの骨太なタムから始まり、非常に分かりやすくてカッコいいギターのリフ、空ピッキングをシャカっと瞬間的に挿入し、E7#9th、通称ジミヘン・コードを半音ずらしで構成していく唯一無二のセンス。
そのイントロの素晴らしさから続いて、Aメロからサビの展開までも美しく簡潔。
「ロッケンロー、フーチークー」からの女性バック・コーラスがタイトルを追随する一連の流れ。。パーフェクト。
既出でウィンター兄弟で曲自体発表しているが、このアレンジのセルフ・リメイクをもって完全な最終バージョンとなった。まさに宇宙からの全人類への贈り物のナンバーだ。
Joy Ride - instrumental
アコースティック・ギターの開放弦がクリアかつ暖かみもキープしたサウンドのイントロ。右チャンネルからクリアなエレキのカッティングが入るが、1玄から6玄まで粒立ちの良い音が聴こえる。
ビルは、アメリカ空軍にソナー技術者として勤務した時代にはラジオ、テレビ周波数に関わる講座を勉学している。その後の音楽プロデューサーとしての実績を積み出世する。そして楽器演奏者では無い点が重要。
聴くことに専念している。
「リスナーとしてカッコよく骨太さを失わずクリアに聴かせるか」という全部盛りを客観的な知見と知識で、はっきり分かる短尺のインスト・ナンバーになっている。 とにかく前の曲同様非常に分かり易くて聴きやすい。 ※この曲のパーカッションは俳優でもあるジョー・ララが叩いている。 ジョー・ウォルシュ人脈からシムジクが呼び寄せたか?パーカッション最も良く聴こえる。
Teenage Queen
前曲からシームレスに続く。ここはリックのボーカルが真ん中に綺麗に収まっているのも分かるし、ギターではレズリー・スピーカーのような変形フェイザーと通常使用のフェイザーと2種類左右で混ぜて来るところがセンスとしてニクい。
前の曲の平坦に終わった高速ファンキー・インスト・ナンバーからのサビで高揚感のあるドラマティックな展開のある配置も素晴らしい。
Cheap Tequila
先行して同年3月にジョニー・ウィンターの「Still Alive and Well」から発送されているが、対比するとジョニーの方が割とアーバン・チックで新境地なアレンジ。
それに対してリックのバージョンは自らペダル・スティールを弾きジョニーと敢えて距離を置く。
直球のカントリー・ミュージックに対比的にドブロのスライドを挿入している。またこの双方の弦楽器のバランスが非常に良く聴こえる。
そしてカントリーに似つかわしく無いファンキーな女性コーラスを被せ、普通に聴かせてしまうアレンジ力も凄い。
Uncomplicated
ギターの波形多め、砕いた表現だと水溜りのようなイントロのフェイザー。この奇抜な波形セッティングを普通に聴かせるセンス。
ギターが数トラック重なって多めだ。その一方で生ピアノは絶妙で、うっすらした存在感を表出させたりと曲自体シンプルでやもすると凡庸になる危険性がありそうなところをシムジクの構成力で上手くまとめている。
Hold
AOR的バラードのナンバーが出て来た。これエドガー・ウィンターでもメローで先取りしたAOR的ナンバーはあるが、それでは無い。
でも何か既視感を感じないだろうか? 「呪われた夜」に出て来てもおかしくない端境期のイーグルスのサウンドだ。 弦楽器は平等に鳴らし、思いっ切りメローかつドラマティックに持っていく辺りもイーグルスっぽい。
The Airport Giveth (The Airport Taketh Away)
前の曲を踏襲したバラードをさらに連続させる。ストリングスを加えてドラマティックに持っていく展開などは後期のイーグルスだ。
イーグルスはこの作品からインスパイアされてる可能性が高い。
Teenage Love Affair
「Rock n’ Roll, Hoochie Koo」に次ぐライブのセットリストに必ず入れて欲しいナンバー。
フーチークーもそうだが、とことんパワフルにギターのボトムをガツンと普通かましたくなるのだが、ここでは一つの弦の弾く音のブライトさが出せる事。何て言うか弦が耳元に接近した感じに聴こえる。
それに伴って、さほど歪ませずにギターをしっかりとアタックさせたピッキングの音になっている。
歌のメロもこれ以上に無いキャッチーさだ。圧倒的分かり易さというのは正義だと再確認してくれるナンバー。
ギター・ソロでは声帯模写化するトーキング・モジュレーターを使っている。シムジク&ウォルシュ効果の一環と見た。使うタイミングが良過ぎる。
It's Raining
実際の雨のSEから被さるスティーヴィー・ワンダーばりのハーモニカがモロに本人だ。
前の曲と次曲のブリッジ的存在でコンパクトに収めている。 かなりメローなAORナンバー。シムジクの音のマジックで普通の流れの中一環として収まっている。
Time Warp - instrumental
一変して2曲目のインストと対比的だが、高速テンポでこちらも充分に高テンション&緊張感がある。
ストリングスが加わって一線交え、戦闘モードが高い。 それを土台で煽るボビー・コールドウェルのドラム。これもいい感じではあるが、本当こんなものでは無い。5割、せいぜいあって6割でポテンシャルはもっとあるドラマー。
Slide On Over Slinky
ようやくというかエドガー・ウィンター・グループで演奏していたようなファンキーにして泥臭く怪しいブルース・ロックのナンバーが出て来た。
ただ、スライド・ギターをメインで弾いているのでジョー・ウォルシュのナンバーにもモロ近い。と言うかジョニー・ウォルシュも参加情報があるのでこれ本人かも知れない。
バッキングでうっすら聞こえる波形の変化がワウペダルばりのシンセ・サイザーもピョンピョンいってて楽しく味わえる。エドガー・ウィンターが実際弾いており「Frankenstein 」のノウハウが活かされている。何もかもが音に整合性がありほど良くクロスオーバーしている。
Jump Jump Jump
エドガー・ウィンターとのライブでもこの曲は取り上げるが、アッパーでパワフルなナンバーが多い中セット・リストで存在感がある。
実際にここもエドガーがピアノを弾いており、旧知の分かり合った波長の良さがこういうテンポの曲ほど如実だ。
作中収録時間が1番長いナンバーを最後に置き、フェイドアウトによって終了の余韻をもたせてくれる。 メロディが分かり易くて聴き易いスロー・ナンバー。
まとめ
ビル・シムジクは楽器演奏者では無いプロデューサー シムジクはあらゆる弦楽器の鳴動や残響加減や周波数を理屈で分かっている節がある。
かつてアメリカ海軍にソナー技術者として勤務している。周波数や波形などそうした観点から細かいレベルの的確な音を出していたのだと思う。
ロック音楽で生ギター、生ピアノを綺麗に他の楽器と共存出来るシムジクのスキルは現時点での録音技術のトレンドに完全一致している。
シムジクを再度オファーするバンドは多いがイーグルスのプロデュースが最も有名だ。精緻に各楽器の1音を綺麗に録音し具現化するのもホテカルで生きているし、このアルバムでもすでに布石を打ち、イーグルスが見逃さなかったという図式を想像出来る。
ジョニー・ウィンター時代からの最強(最恐)ドラマーのボビー・コールドウェル
前年の1972年にキャプテン・ビヨンドを結成し、ジョン・ボーナムを意識し、それを力技で凌駕したかのようなアルバムを発表している。
その作品を聴いてから1曲目のフーチークーのタムや手数、全体のパワフルさは児戯に等しい。 全くもって「ワーク」でやってるなと分かっているが、それでも隠し切れない音の存在感や作品の躍動感の貢献など見逃せない箇所が多い。
実際この作品で本気を出したら作品が崩壊するので、ボビーも制作サイドも状況を冷静に理解している。
「頼むから7割以下に抑えてくれ」と。
ジョニー&エドガー・ウィンター兄弟の経験
ガッツでパワフルなジョニー、ポップでファンキーなエドガーの 2人のエッセンスを吸収し、本アルバムで
結合し、昇華された。
1975年でなく1973年にリリース出来た事が重要で良い意味で早過ぎた彼の代表作品。
終わり
