E092 The Kinks/You Really Got Me
1964年夏、ビートルズやローリング・ストーンズらが席巻したブリティッシュ・インベイジョンの渦中で、ザ・キンクスはこれまでになかった骨太なロックを叩きつけた。起伏あるブルージーなギターリフと、ダンサブルながら荒々しいリズム隊が一体となったこの曲は、瞬く間に英国チャート1位を獲得し、全米でも7位に達するセンセーショナルな大ヒットとなった。未曾有の音の衝撃に、聴き手はアドレナリン全開となり、「恋に本当に夢中だ!」というストレートな歌詞と絡み合うギターの咆哮が五感を揺さぶる。
1964年リリースのUK盤シングル・ジャケット。ブルーとベージュの幾何学模様が特徴的で、当時のポップアート的要素も感じさせるデザインだ。
ザ・キンクスがこの曲で見せたのは、単なるポップ・ソングの枠を超えたロックの原石だった。鋭く切り込むようなギターの歪みと、泥臭いダンスビートは、それまでの「きれいにまとめたポップ・サウンド」への挑戦であり、後のハードロックやパンク・ムーブメントの礎となった。当時の音楽シーンに衝撃を与えたこのトラックは、レイ・デイヴィスによる若者の純粋な情熱をかき鳴らす傑作として、今なおロック史に燦然と輝いている。
基本情報
作詞/作曲:レイ・デイヴィス (Ray Davies)(ザ・キンクスのリード・シンガー兼リズム・ギタリスト)
編曲:ザ・キンクス(レイ・デイヴィスらバンド・メンバー)
プロデューサー:シェル・タルミー (Shel Talmy)(ピート・タウンゼントやザ・フーも手がけた英国人プロデューサー)
発売日:1964年8月4日(UK)(米国盤は同年9月)
レコード会社:Pye Records(英国)、Reprise Records(米国)
収録スタジオ:IBCスタジオ(ロンドン)
参加ミュージシャン
レイ・デイヴィス(リード・ヴォーカル、リズム・ギター)、
デイヴ・デイヴィス(リード・ギター、バッキング・ヴォーカル)、
ピート・クエイフ(ベース、バッキング・ヴォーカル)、
ミッキー・エイボリー(タンバリン)。
さらにレコーディングではセッション・ミュージシャンとしてボビー・グラハム(ドラム)、アーサー・グリーンスレイド(ピアノ)が参加している。
チャート状況
「You Really Got Me」は発売直後、英国シングルチャートで1位を獲得し、2週連続で首位を維持した。米国ビルボードHot 100でも最高7位とブレイクし、その他カナダ4位、アイルランド6位、オーストラリア2位など、主要国で軒並みヒットを記録した。年末時点で全米年間79位にも入るロングセールスとなり、その後の累計では英国盤だけでプラチナ認定(60万枚相当)を達成している。本曲の成功はザ・キンクスを世界的な人気バンドへと押し上げ、レイのソングライターとしての地位を確固たるものにした。
特にアメリカでは「ブリティッシュ・インヴェイジョン」を象徴する楽曲として注目された。また、この曲はローリングストーン誌による「史上最高の500曲」にもランクインしており、その歴史的重要性が認められている。
曲の発想源は、レイが学校のダンスパーティーで出会った1人の少女だった。レイ自身によれば、そのとき素敵な女性を見つけたが、振り向くとすでに彼女はいなくて「彼女は本当に俺を燃え上がらせたんだ(You really got me)」と感じたという。当初レイはジャズ風やブギウギ調にアレンジしようとしており、後の証言ではリード・ベリーやビッグ・ビル・ブルーンジーのようなブルース・ナンバーにしたかったと語っている。ところがデイヴは「もっと強烈なギターでぶち抜こう」と考え、荒削りなロック・サウンドを実現する。
「You Really Got Me」は、パワーコード(完全5度とオクターブからなる簡潔なコード)を駆使したヒット曲として知られています。この手法は後のハードロックやパンクロックにおいて重要な要素となりました。デイヴ・デイヴィスがリードギターで弾いたメインリフは、E5(EとB)とA5(AとE)を往復するだけのシンプルなパワーコード。当時のロック/リズム&ブルースはまだ7thやメジャー/マイナーの和音を多用していたけど、ここでは余計な3度を省いた“骨格だけの響き”が前面に出てる。このミニマルな響きが「荒々しい攻撃性」を強調し、のちのハードロック、パンク、ヘヴィメタルに直結していった。
レコーディング初回は遅めのテンポでリバーブのかかった演奏だったが、レイが「やりすぎだ。もっとひとつのトラックで生の音にしよう」とこだわり、再録音を要求した。当時所属レーベルのPyeは、2枚のシングルがいずれもチャートに届かず契約解除の瀬戸際だったため、バンドには成功が必須だった。プロデューサーのタルミーは自らスタジオ費用を負担する覚悟で臨み、キンクス側が望む形で徹底的に再構築。レイらはマネージャーから借りた200ポンドを手に再スタジオ入りし、最終的な爆音バージョンを完成させた。
特筆すべきは、デイヴ・デイヴィスによるギター音のオーヴァードライブ効果の発明的使用だ。彼は小型アンプのスピーカーコーンをカミソリで切り裂き、もう一台のアンプにその歪んだ音を入力することで独特の「ザクザク音」を得たという。デイヴ本人は「ドラッグなんかより、これこそが青春の痛烈な快楽だ」と語るほどで、1970年代のパンク/ヘヴィメタル世代に大きな影響を与える原動力となった。
なお、当時のキンクスのイメージ写真やシングル・ジャケットには、アートデコ調の幾何学パターンが用いられ、ポップアート的な斬新さも漂わせている
ザ・キンクスは1963年、北ロンドン・マズウェルヒル出身のレイとデイヴの兄弟によって結成された。結成当初は「ザ・レイ・デイヴィス・カルテット」と称し、ロックンロールやジャズ、スキッフルの影響を強く受けた演奏を行っていた。その後ドラマーが交代する中でグループ名を「ザ・キンクス」と改め、ロンドンのクラブシーンで経験を積んだ。1964年初頭にはプロデューサーのシェル・タルミーの目に留まり、ピーレコードとの契約を獲得する。しかしロング・トール・サリーや「You Still Want Me」といった初のシングル2枚はほとんど無視され、レーベルから「次で当たらなければ契約を切る」と迫られる危機に瀕した。その瀬戸際で生まれたのが「You Really Got Me」であり、この一曲でキンクスは一躍ブリティッシュ・インベイジョンを代表する先鋭的グループとして名を馳せた。以後、同作の成功を足掛かりにアルバム『Kinks』を発表し、ロック界の最前線で独自のキャリアを歩んでいくことになる。
発表当時、この楽曲は「荒々しくもポップ」「ストリート魂が迸る」といった肯定的評価を獲得した。特にデイヴの粗削りなギターサウンドは評論家を仰天させ、のちに『オールミュージック』誌のデニス・サリヴァンは「ハードロックやヘヴィメタルの兵器庫における設計図(ブループリント)のような曲」と評している。一方で、シンプルすぎる歌詞表現を指摘する意見もあり得る。実際、タイトルフレーズの連呼による単純な構成だが、その反復はむしろ原始的な激情を際立たせる効果を生んでいる。当時のロックがまだ背景にポップな飾りをまとっていたことを考えれば、本曲のダイレクトすぎる直球表現はまさに革新的であり、「ポップの虚飾を吹き飛ばす鮮烈さを持っている」と現在に至るまで高く評価されている。
現在は、リフや歪みの熱量が評価軸とされると同時に、「やりすぎではないか」という声もある。しかしその点でもバンド内では肯定派が強く、レイ自身もこのレコーディングを振り返り「スタジオを出たとき、自分は最高の作品を作ったと確信した」と語り、以来「こんな曲は二度と作れない」と公言するほどだ。評価の高まりは数字にも表れており、1999年にはグラミー殿堂入りを果たし、ローリングストーン誌の歴代名曲ランキングやBBCの世代別投票などでも上位にランクインしている。楽曲の最初に刻まれた痛烈な“歪み”は、発表から半世紀を経た今日でもロック・ミュージックの叙情に消えない余韻を残し続けている。
この楽曲は1978年にVan Halenによってカバーされ、新たな世代にも広まりまった。Van Halen版もBillboard Hot 100で36位を記録し、「You Really Got Me」の普遍的な魅力を証明した
「You Really Got Me」は、その生まれた1960年代中期においてロックの地殻変動を予感させる一曲だった。硬質なパワー・コードとサビの絶叫、揺るぎないビートは、やがてパンクやメタルへとつながる「力強さ」という共通言語をロックにもたらした。以降、何度もカヴァーされ、多くのアーティストが“青春の叫び”として引用し続けていることが示すように、音楽史に与えた影響は計り知れない。メロディと歌詞は稚拙でも、「聴く者の心をガツンとつかむ衝撃」は永遠不滅だ。聴き手は本作に、60年代のストリートで培った瑞々しい感情と、その背後にある社会の熱気を感じ取り、自らを解放する一瞬を体験するだろう
