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生物たちは、どう会話しているのか第20話 カラスは声を出さずに相手へ伝えられるのか

生物たちは、どう会話しているのか

第20話 カラスは声を出さずに相手へ伝えられるのか

一羽のワタリガラスが、小さな枝をくちばしにくわえている。

食べるためではない。

巣を作るためでもない。

近くにいる仲間へ向けて、その枝を持ち上げる。

相手が見ていなければ、見える位置へ動く。

相手が振り向くと、枝を見せたり、差し出したりする。

人間の子どもが、見つけた物を誰かへ見せる行動によく似ている。

カラスの仲間は、鳴き声だけでなく、視線や体の向き、物を使った身振りによっても情報を伝えている可能性がある。

声を出さない会話は、人間だけのものではないのだろうか。

1. カラスは多くの声を使う

カラスの鳴き声は、単純な「カア」という一種類だけではない。

警戒するときの声。

仲間を呼ぶ声。

食べ物に関係する声。

争いのときに出す声。

親子が交わす声。

種類や状況によって、さまざまな音を使い分けている。

声には、発信者の個体差や興奮の程度が表れることもある。

さらにカラスは、ほかの鳥や動物の声、人工的な音をまねることがある。

しかし、彼らのコミュニケーションは音だけではない。

相手の姿を見る。

相手がどこを向いているか確かめる。

自分の体や物を動かす。

視覚による信号も、社会生活の中で重要な役割を持っている。

2. 身振りとは何か

動物が体を動かしたからといって、そのすべてが身振りになるわけではない。

歩く。

羽を整える。

食べ物をくわえる。

こうした行動は、相手へ何かを伝えるためではなくても起こる。

コミュニケーションとしての身振りを考えるときには、いくつかの点が重要になる。

特定の相手へ向けられているか。

相手が見ているかどうかによって、行動を変えるか。

身振りの後に、相手の反応を待つか。

反応がなければ、繰り返したり別の方法を使ったりするか。

こうした特徴があれば、その動きは偶然ではなく、相手へ働きかけるために使われている可能性が高くなる。

3. 物を見せるワタリガラス

カラス科の中でも、ワタリガラスは高い認知能力を持つことで知られている。

野外観察では、ワタリガラスが小枝や小石、苔などをくちばしにくわえ、特定の仲間へ見せる行動が報告されている。

物そのものに、すぐ役立つ目的があるとは限らない。

食べ物でもない。

巣作りに使う場面でもない。

それでも一羽は物を持ち、相手の注意を引こうとする。

相手が近づいたり、同じ物へ関心を向けたりすると、その後に互いのくちばしを触れ合わせたり、一緒に物を扱ったりすることがある。

物を見せる行動が、仲間との交流を始めるきっかけになっている可能性がある。

4. 差し出すこともある

ワタリガラスは、物を見せるだけでなく、相手へ差し出すような行動をすることがある。

くちばしにくわえた物を、相手の前へ持っていく。

相手が受け取れる位置に置く。

相手が反応すると、交流が始まる。

これは人間が誰かへ物を渡す行動に似ている。

ただし、人間の贈り物と同じ意味だと断定することはできない。

「これをあなたにあげます」と考えているのか。

一緒に遊ぼうとしているのか。

相手との関係を確かめているのか。

目的は一つではないかもしれない。

それでも、物を使って特定の相手の行動を引き出している点は重要である。

5. 相手が見ているかを確かめる

視覚的な身振りは、相手が見ていなければ伝わらない。

ワタリガラスが本当に物を見せようとしているなら、相手の注意の向きを確かめる必要がある。

観察では、物を見せる行動は、近くに相手がいるときに起こりやすい。

また、無関係な方向ではなく、特定の個体へ向けて行われる。

相手が反応すれば、その後の行動も変化する。

こうした特徴は、ワタリガラスがただ物をくわえて動き回っているのではなく、相手の注意を引くために行動している可能性を示している。

ただし、人間のように「相手の心の中には、まだこの情報がない」と考えているかどうかまでは分からない。

注意の向きを読むことと、相手の知識を理解することは、同じではないからだ。

6. 視線の先を追う

カラス科の鳥は、ほかの個体が見ている方向へ視線を向けることがある。

仲間が突然空を見る。

すると自分も空を見る。

仲間が地面の一点へ注意を向ける。

自分もその方向を確かめる。

視線を追えば、食べ物や危険を早く見つけられる。

しかし、単に頭の向きをまねるだけではない可能性もある。

見ている相手と対象物の位置関係を読み取り、自分の場所からは見えない対象を確認するために移動する行動も研究されている。

相手の視線は、声を出さなくても、

「あそこに何かがある」

と知らせる信号になるのである。

7. 食べ物を隠すときにも相手を見る

カラス科の鳥は、食べ物を後で使うために隠すことがある。

しかし、ほかの個体に見られていれば、後から盗まれるかもしれない。

そこで、周囲に誰がいるのかを確認する。

ほかの個体から見えにくい場所を選ぶ。

見られた食べ物を、後で別の場所へ移す。

相手が立ち去るまで待つ。

こうした行動から、カラスは他者の視線に敏感だと考えられている。

自分が見ているものだけでなく、自分が相手からどう見られているかも行動に影響する。

見られている。

見られていない。

その違いを利用できなければ、視覚による複雑なやり取りは成立しにくい。

8. 身振りは関係を作るためにも使われる

人間の身振りは、物の場所を教えるためだけに使われるわけではない。

面白い物を見つけて、誰かと一緒に見る。

贈り物を差し出す。

手を振って挨拶する。

情報を渡すだけでなく、相手との関係を作る働きがある。

ワタリガラスが物を見せたり差し出したりする行動も、親しい関係を築くことに関係している可能性がある。

特に若い個体どうしや、将来つがいになる可能性のある相手との間で、こうしたやり取りが観察される。

物の価値そのものよりも、

誰が誰へ見せたのか。

相手がどう反応したのか。

その後にどのような交流が続いたのか。

そこに重要な意味があるのかもしれない。

9. 人間の指さしと同じなのか

人間の子どもは、言葉を十分に話せるようになる前から指さしをする。

欲しい物を取ってもらうために指す。

面白い物を誰かと共有するために指す。

指の先には、相手の注意を同じ対象へ向ける働きがある。

ワタリガラスの「物を見せる」「物を差し出す」という行動は、指さしと似た働きを持つ可能性がある。

しかし、人間の指さしと完全に同じだとは限らない。

人間は、遠くの物、過去の出来事、想像上の対象についても身振りや言葉で示せる。

ワタリガラスの身振りは、目の前にある物や、今そこにいる相手との関係に強く結びついている。

似ている部分を認めながら、違いも残しておく必要がある。

10. 会話は声だけではない

一羽のワタリガラスが、枝をくわえて仲間へ近づく。

相手の前で枝を持ち上げる。

相手が見れば、少し待つ。

相手が近づけば、二羽の交流が始まる。

そこでは、一声も発せられていないかもしれない。

それでも、一羽の行動がもう一羽の注意を変え、次の行動を引き出している。

相手を見る。

見られていることを知る。

同じ物へ注意を向ける。

その物を通じて、関係を結ぶ。

会話とは、必ずしも言葉を並べることではない。

誰かの注意へ働きかけ、その反応を受けて自分の行動を変えることも、会話の一つの形である。

私たちは、動物の声を聞こうとする。

しかし彼らを理解するには、静かに交わされる視線や身振りにも目を向けなければならない。

声のない場所にも、確かなやり取りは存在しているのである。

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