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第2話 旅立ち 『ルミナ・パルス』


狩人のシン、薬師の娘ミカ、華奢だが力の強いカレン。



空が黒く染まった日、村は怪異に襲われた。
その夜、生き延びた村人たちは集まり、話し合った。

孤児院の院長--カレンの育ての父は、羊皮紙をめくった。

 「闇(ペルニキエス)が生まれ世界を包む時。
光(ルミナ)は、生きる者たちの心より立ち上がるであろう。
光は闇に奪われしものを、再び地上へと還す」

奪われしものを、再び地上へと還すなら、
失われた家族も蘇るのか……?
 
……死んだ者は大地に還る。
それが理だ。

それでも――心のどこかで。
三人とも、預言の言葉を忘れることはできなかった。

カレン父は言った。シンに、ミカに、カレンに。

「お前たちは、身軽に城塞都市を目指せ。
あそこなら、なにか情報が掴めるかもしれない。
私たちはここに留まり、動ける大人と共に別の道を探す。
……心配するな、子供たちは儂が守る」

「お姉ちゃん、僕たちもがんばるよ」

カレンは名残惜しそうに、孤児院の子供たちへ微笑み返した。

それからシンと目を合わせ、頷いた。

ミカは俯いていたが、二人の目を見て、小さく頷く。

戻らない者をよみがえらせる手がかりを求めて。
そして、この災いの正体を知るために。

三人は城塞都市へ向かうことを決めた。

翌朝--

空はまだ薄暗く、村には焦げた匂いが残っていた。

三人は、崩れた村の門の前にいた。

無事だった村人たちが、見送りに来ている。

彼らはなけなしの食料を持たせてくれた。

保存のため二度焼かれた麦パン。

布に包まれたわずかな塩。

そして、野営に使う古い毛布も。 

「でも、それは皆の…… 」

「持ってお行き。あの先生の娘を、空腹のまま送り出せないよ」 

診療所に通っていたお爺さんが、ミカに優しく言った。

カレンが深く頭を下げる。

「…… ありがとうございます。必ず、この子を守ります」

お爺さんが、短く頷いた。

シンは頭を下げ…… 。

村人たちに背を向けた。


都市へと続く古い道を進む。 

あまり人が通らないため、草が腰の高さまで茂っていた。

朝露が、靴と服の裾をびしょ濡れにする。

「二人とも、疲れていないか?」

シンが歩調を緩めた。

「歩くのが遅くてごめんね」

カレンが遅れかけていた歩調を早めようとした。

「いや……慣れない山道だ。 あの倒れた木まで行ったら休もう」 

シンは静かに答えた。

道すがら、古い小屋を見つけた。

小屋から少し下ったところに細い沢が流れていた。

上流には獣の死骸や、異形の痕跡など、異常は無いようだった。

「今日は歩くのはここまでにして、早めに野営の準備をしよう」

シンはカレンとミカを見た。

カレンが鍋いっぱいの水を運ぶ。

ミカが布を重ね、落ち葉や細かな土を濾していく。

乾いた木を折り火を起こすと、火種が小さく煙を上げて橙色に色づいた。

鍋で沸かした水を、夕食用と明日の飲み水に分ける。

夕食は、硬い麦パンを湯で煮崩したスープだった。
わずかな塩と、近くに生えていたアサツキ(ネギの仲間)が加えられている。

パチパチと火の爆ぜる音が、静かな夜に響いていた。

三人の口数は少ない。

シンは薪の位置を直し、カレンは空いた椀にスープを足す。
ミカは両手で椀を包んだまま、立ちのぼる湯気を見ていた。

誰も、村のことを口にしなかった。

それでも、温かい食事が喉を通るたび、冷えていた体は少しずつ解れていった。

夕食を終えて――
シンは小屋を出た。

森に入り、獲物の足跡や糞から「通り道」を読み取る。

携えていた罠を数箇所、手際よく仕掛けた。

翌朝。                                     

仕掛けておいた罠に、兎が一匹かかっていた。

シンは兎に、祈りを捧げた。

捌いた兎の火が通りやすい、前脚や肋骨まわり、それから肝と心臓は朝食用に。

残りの肉は焚火で焼き、携帯食用にした。 

その間に、カレンが沢へ水を汲みに行っていた。

火を起こして、兎肉と塩を鍋に入れる。

湯気が立ち、肉の匂いが広がった。

ミカは近くの草むらでニンニクガラシを摘んでいた。

葉を1枚、指先で揉んで 匂いを確かめる。

まだ茎が伸びていない、若い葉だ。

「…… この草は傷口に使う薬にもなるし、血の巡りをよくする。滋養もあるって、 父さんが言っていたな……」

ミカはそっと呟いて、それからシンとカレンの元に歩きだした。

ニンニクガラシのピリッとした風味が、野生のウサギ肉の臭みをやわらげた。

硬い麦パンも一緒に煮込んだスープは、とろりとして、すっきりとした味わいに仕上がった。

三人は鍋を囲み、スープを口に運んだ。 

カレンの顔が、ぱっとほころんだ。 

「…… 美味しいね!ミカ、すごいよ。お腹の奥がポカポカしてくる」

「いえ…… お肉はシンが獲って、煮てくれたのはカレンさんです」

ミカもほっとしたように、笑った。

この旅で見せた、初めての本当の笑顔だった。 

シンがミカの頭を手でぽんぽんと叩く。

「…… いい薬師(くすし)になれる」

シンの表情も、わずかに和らいでいた。 

小屋の隙間から朝の光が差し込んでいた。 

森はまだ、静かだった。

都市へ続く道は、まだ深い森の向こうへ伸びている。

それでも、昨日よりも少しだけ、歩き出せる気がした。



ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

第3話に続きます!


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