ビンテージギターとマーラボを巡る冒険
ギタリストが最終的に辿り着くと言われる聖地(別名:沼地)。ビンテージギター。
図らずも時を同じくして1969年製のES-335を手にした2人のギターフリークがその魅力と、ビンテージを模したマーフィーラボについて熱く語ります。
Ⅰ. 同じ工場、同じ年、違う道

キッド(新魂小僧) ビンテージのES-335を買われたそうですね。おめでとうございます!実は自分も最近購入しました。同級生の1969年生まれです。
おぱよしぃ(Xで知り合ったギター仲間) え、もしかして下田雄人さんのYouTubeに出てた個体ですか?
キッド そうです!下田さんに無理言って、選定に付き合ってもらいました。おぱよしぃさんのはビグスビー付ですよね。使いこなせたらかっこいい。
おぱよしぃ いつかツーショット撮れるといいですね。ただ、ビグスビーへの憧れは完全に消えると思います。不便すぎて(笑)。
キッド そうなんですね(笑)。ルックスは抜群にかっこいいのに。でもナローネック、めちゃくちゃ弾きやすくないですか?
おぱよしぃ 弾きやすいです!ネックコンディションもかなり良くて、今まで所有したギターの中でもトップレベルに弦高が攻められる。いい意味で、ビンテージのイメージがひっくり返りました。
キッド わかります。購入前は、ビンテージというと気難しくて、弦高が高くて、繊細な取り扱いが必要で——というイメージがあった。でも実際に家で弾くと、驚くほど普通に弾ける。
おぱよしぃ 「普通に弾ける」って、ビンテージに対して最高の褒め言葉かもしれないですね。
Ⅱ. マーフィーラボの前で立ち止まった日

キッド 購入前、マーフィーラボ(以下マーラボ)も候補でした。ジャパンリミテッドの1964、Tea Burstを試奏したんです。個体差かもしれませんが、今まで弾いたマーラボの中で一番弾きやすかった。音も好きでした。
おぱよしぃ あれ、正確には「Iced Tea」じゃなくて、ただの「Tea Burst」なんですよね。アイスティーのような透明感はなくて、茶色と黄色の2トーンという感じ。メイプルもわざとプレーンに見えるように仕上げてあります。
キッド 杢目をあえて消しているということですか?なるほど。ギブソンって時々妙なところに拘りますよね——でも結局、そのシンプルさと色味が自分の求めるアイスティーじゃないと感じました。それで見送りました。
おぱよしぃ 僕はそのMurphy Lab Tea Burstを買いました。しばらくメインで弾いて、セッションにも持っていって。でも、最終的にリフィニッシュまでしました。
キッド マーラボをリフィニッシュ!?
おぱよしぃ 冷静に考えると本当に謎の行動なんですが(笑)。でも、高い勉強料を払ったからこそ体感できたことがあるんです。
キッド ぜひ聞かせてください!
Ⅲ. 「ウソ感」——精神の問題
おぱよしぃ マーラボは、お店で見ると質感含めてかっこいいんですよ。ウェザーチェックが入って、金属が曇っていて、おお、これはビンテージだ、と一瞬思う。でも買って家に持ち帰ると、萎える。
キッド 何に萎えるんですか。
おぱよしぃ まず樹脂パーツがピカピカなこと。トラスロッドカバー、ピックガード、エスカッション、ノブ——このあたりは全て手を入れないとウソ臭い。ナットも白すぎるし、インレイもプラスチッキー。金属パーツはエッチング液でニッケルを腐食させているだけで、使用感が全くない。摩耗じゃなくて化学反応なんです。
キッド 塗装はリアルなのに、パーツが新品。
おぱよしぃ そう。逆にウェザーチェックのほうがウソっぽく見えてくる。顔だけ老けて手が赤ちゃん——人間なら一発でバレる。ギターも同じです。
キッド マーラボの塗料はわざと劣化しやすい素材を使っているという話もありますね。環境変化でパキッとチェックが入るような設計で、将来的なエイジングがどうなるかは未知数です。
おぱよしぃ プレーンのTea Burstというのにも違和感がありました。だからCherryへのリフィニッシュとエイジドを工房にお願いしたんです。それだけでめちゃくちゃお金がかかりました。でも結局、ウソ感は消えなかった。ビンテージに手を出さざるを得なくなった。
キッド 音の問題というより——
おぱよしぃ 精神面の問題です。完全に(笑)。
Ⅳ. 鳴りすぎるギター
キッド 精神面は理解できます。では音の方は? リフィニッシュで変わりましたか。
おぱよしぃ まず「鳴り」という言葉を定義させてください。ここで言う"鳴り"は、生音が大きいとか、アンプを通して良い音がするとか、そういう意味じゃない。弦振動がボディやネックに伝わり、それがまた弦にフィードバックされる——その共振のループ全体を指しています。
キッド 了解しました。
おぱよしぃ マーラボの純正塗装は異常に硬質で薄い。打痕を作るとニセモノのようなヒビが入るくらいの硬さです。この塗膜が弦の振動を効率的にボディに伝えて、ボディの振動を効率的に弦に返す。たとえば3弦を鳴らすと、振動がボディを経由して弦に戻ってきて、弾いていない他の弦まで共振させるんです。
キッド 鳴りが良すぎて、ノイズになる。
おぱよしぃ そういうことです。サステインや倍音の面から言えば本質的には優れたギターなんでしょうが、常に弾いていない弦のミュートに強く意識を置かないといけない。名手なら武器にできるんでしょうけど、僕にはとても弾きこなせなかった。
Ⅴ. リフィニッシュの先にあったもの
キッド リフィニッシュ後、その鳴りはどう変わりました?
おぱよしぃ シンラッカーで仕上げてもらって、部分的にエイジドで塗装を剥がしもしたので、条件的にはビンテージに近づいたはずなんです。でも新しい塗装は新しい塗装で。乾燥後の硬度というか膜強度というか——あえて言うなら、"知ってる感じ"の普通のギターの鳴り方になりました。
キッド 「普通のギターの鳴り方」。
おぱよしぃ どこかコンプ感があって、まとまりがあって、ボディやネックから弦への過度なフィードバックがない。ミュートを気にしなくていいから弾きやすかった。ただ、マーラボのようなギターの方がギタリストとしては鍛えられるな、とも思いました。
キッド アンプを通した音は?
おぱよしぃ 音色そのものにはそれほど変化はなかったんです。弾き手にしかわからないシビアさが変わった、という感じです。伝わりにくくてスミマセン(笑)。
キッド いや、すごくわかります。
Ⅵ. 鳴りすぎる問題はアコギにもある
おぱよしぃ フルアコでも似た経験がありまして。CollingsのCL Jazzにずっと憧れていたんです。ハンドカービングのスプルース単板トップ、フローティングPU、コントロール類も全てフローティングのピックガード上。生音もめちゃくちゃ大きい。
キッド 最上級のフルアコですよね。
おぱよしぃ ついに都内に在庫が入って試奏しに行ったら、あまりの弾きにくさに憧れが崩れ落ちました。プレーン弦を弾いた振動が低音弦を共振させて、そこからハウリングし始めたんです(笑)。こんなじゃじゃ馬、セッションに持ち出せるワケないと。
キッド 実は、CL Jazz持ってました(笑)。
おぱよしぃ え!
キッド 良いギターですが、甘い音じゃなくて、ジャキッとしてますよね。プロが弾くとトロけるような極上サウンドなのに、自分では歯が立ちませんでした(笑)。
おぱよしぃ 本当に難しいギターですよね。工芸品としては最高峰の一本だと思いますが……。
キッド アコギだとさらに顕著です。スギタケンジさんという日本最高峰のルシアーのアコギを持っていたんですが、爪が弦に当たるたびに食器にナイフが当たるような硬質な音がして。弾きこなせず、手放しました。
おぱよしぃ 鳴りすぎた。
キッド そうです。いろいろ試行錯誤して、最終的にMaton(メイトン)に落ち着きました。ガッチリ作ってあって、プラグイン前提。生音が小さい、鳴らないアコギです。でもそれが自分には合っていた。
おぱよしぃ "鳴り"って言葉も難しいですよね。僕の定義で言えば、鳴らない方がむしろ弾きやすい。正直、マーラボより中国製の激厚ポリ塗装レスポールタイプの方が、ナチュラルなコンプ感もあるし音のまとまりもあるし弾きやすい。
Ⅶ. 謎のコンプ感——ビンテージの手触り
おぱよしぃ そこで本題なんですが——1969年製の335は、どちらかと言えばその"知ってる感じ"の普通寄りです(笑)。
キッド 57年前のビンテージを評して「普通」って、すごい言葉ですね(笑)。
おぱよしぃ 家の環境で弾くとめちゃくちゃハイが弱くないですか? おそらくオリジナルのポットの抵抗値が落ちてハイ落ちしてるんだと思うんですが・・・
キッド 自分の個体も現行品と比べるとかなりマイルドです。エレキというよりアコギみたいな。店員さんは「ハイ落ちではなくピックアップや個体の特徴」だと言っていました。下田さんに相談したら「セッティングでどうにでもなる、絶対抜ける」と。それで購入を決めました。
おぱよしぃ なるほど。
キッド ビンテージには謎のコンプ感がありますよね。雄人さんは「良いビンテージに共通する特徴」だと言ってました。ダイナミクスはあるのに、どう弾いてもまとまる。
おぱよしぃ わかります。正直、マーラボを買ってすぐの頃はあまりの扱いにくさに後悔しましたから。あのじゃじゃ馬を経験した後だからこそ、この「普通」のありがたみが骨身に沁みる。
Ⅷ. ビンテージとエフェクターの方程式
おぱよしぃ ただ、この「普通」はアンプのセッティングを根本から変えますね。今まではトレブル下げ目、ミッド・ロー上げでウォームな音を作っていたんですが、1969はむしろ今まで敬遠していた、ややドンシャリ気味で線の細いデラリバあたりと相性がいい。Trebleアゲアゲです(笑)。
キッド まだセッションには持ち出してないんですが、わかる気がします。耳あたりが良すぎて、パンチを足す方向の音作りになりそう。
おぱよしぃ 一昨日セッションに持っていったんですが、アン直ならかなりいい音なのに、Jan Rayを踏むと全然抜けなくなってしまって。エフェクターも根本から考え直さないといけないなと。
キッド 自分もマルチで多重エフェクターをかけたらモコモコになりました。Fenderアンプにそのまま繋ぐのが正解だと思います。
おぱよしぃ どのみちエフェクターいくつも繋げて弾くようなギターでもないですし。ビンテージのTS-9を一つだけ持ち歩くのがカッコいいんじゃないか——でもTSじゃ抜けないだろうなぁ(笑)。
キッド これから研究ですね。
おぱよしぃ 今、ナイロンサドルをブラスに変えようか検討中です。どのみちナイロンは摩耗して溝がめり込んでるんで、オリジナルは保管してブラスを試してみます。
キッド ブラスでどう変わるか、楽しみですね。
おぱよしぃ ブリッジはいつでも戻せますからね。ものは試しに。テールピースは買った時からBigsbyだったので音の変化はわかりませんが、「ハイが出る」とよく言われてるのにハイ出てないので、個体の個性にはパーツの理屈も勝てないみたいです(笑)。
キッド 自分はマイルド志向なので、ブランコ+ナイロンサドルのまま行きます。ソロギターやネオソウル用としては、耳障りなハイがない方がむしろ好都合なので。
Ⅸ. それでもマーフィーラボには敬意がある
おぱよしぃ ただ——マーラボの電装系は本当に素晴らしい。正直、1969にそのままCustombucker(underwound)とポット類を全部移植したかったくらいです。
キッド わかります。お金があればマーラボも欲しかった(笑)。
おぱよしぃ 扱いにくいほどのダイナミクスレンジ、全帯域が素直に出ていて、あれはほとんどシングルコイルでしたね。ストラトを弾いてるような感覚(笑)。常にトーンを5〜7まで絞って運用していたので、フロント1発でやれるくらいには余裕がありました。翻って1969年製——とてもモコモコしているのでトーンノブ15くらいまで欲しい(笑)。
キッド (笑)。真逆のセッティングになる。
おぱよしぃ マーラボではセンターもリアもほとんど不要だったのに、1969では2V2Tをフル活用しないといけない。同じES-335の形をしていても、全く違うギターなんですよ。
キッド ビンテージの335はリアの音も良いですよね。カールトンは甘いイメージだけど、ほぼリアだし。
おぱよしぃ カールトンのも68〜69ですもんね。今までフロントしか使ってこなかったんで、2V2Tの扱いが本当に苦手です(笑)。各年代の弾き比べはしてないですが、このギターがこの音なら、プレイヤーとしてそれに順応するまでです。むしろ今まであまり使ってこなかったリアを上手く活かしていこうと思います。
Ⅹ. 天文学的な59バーストは「普通」なのか
おぱよしぃ 先ほど、「良いビンテージはコンプ感がある」と言われましたね。いわゆるビンテージギターの魅力とは、マーラボのような塗面の状態でありダイナミクスやミスタッチに敏感な繊細さだと思っていました。だからある意味、ちょっと"逃げ"て今の鳴らない個体を選んだつもりでした。まさか、それこそがビンテージの本質だとは。
キッド ビンテージが「普通に弾ける」のは、長年かけて木と塗装と金属が安定した結果でしょうか。
おぱよしぃ 天文学的な価格の59バーストや59〜64の335も、意外と普通のギターのような鳴り方なのかもしれない。
キッド だとしたら——数千万円の59バーストを弾いた人が感動するのは、「すごい音」じゃなくて「すごく自然な音」だということになる。
おぱよしぃ 面白いですよね。ビンテージの価値って、特別であることじゃなくて、普通であること。57年かけて辿り着いた「普通」は、新品では絶対に到達できない場所にある。もちろん暴れる個体もあるでしょうし、そこに魅力を感じる方もいるでしょうが。
Ⅺ. 二人の結論
おぱよしぃ まぁ、こんな話に興味ある人はあまりいないでしょうから……まわりから見たら同じギターをコロコロ変えてる変人ですよね。僕は僕なりに、ずっといろんな葛藤と戦った結果なんですが。
キッド その葛藤が全部、今の一本に辿り着くための道だった。
おぱよしぃ マーラボを買って、弾き込んで、リフィニッシュして、エイジドをかけて、金をかけて、それでもウソ感が消えなくて、ビンテージに手を出した。遠回りにもほどがある。でもその遠回りがなかったら、この1969の「普通さ」のありがたみはわからなかった。
キッド 自分はマーラボと1969年製を弾き比べて、1969を選びました。39mmのナローネックが手に吸い付いた。57年の琥珀色のラッカーが、自然光の中で内側から光っていた。マーラボの塗装は表面で光る。1969の塗装は奥から光る。
おぱよしぃ 表面で光るか、奥から光るか。それ、すごくわかります。
キッド 音の問題じゃなかった。
おぱよしぃ 精神の問題でもなかった。
キッド 時間の問題だった。
おぱよしぃ 57年の夏と冬がラッカーの分子を変えて、木を乾かして、金属を鈍く磨いた。それは再現できないんです。
キッド マーフィーラボは「時間のシミュレーション」で、僕らの1969は——
おぱよしぃ 時間そのもの。だから面白いんですね、ビンテージは。
あとがき

ビンテージかマーラボかーーーー
そんな悩みを抱えているギターフリークのあなた。大好きです。悩んでいる時間は最高に楽しいです。たくさん弾き比べて、違いを体感してください。
Murphy Labは素晴らしいギターです。保証があります。ビンテージに比べると、状態が安定していて、品質のバラつきも少ないです。スタジオミュージシャンに支持されるのには確かな理由があります。
でも、もし楽器店で、数十年前のギターを手に取った時——ネックの曲線が手のひらに溶けるように馴染み、ウェザーチェックの走り方に計算では生まれない美しさを見つけ、弦を鳴らした瞬間に「知ってる」と感じたなら。
その直感を信じてください。
それは、あなたの手が、本物の時間を見分けた瞬間かもしれません。
Fin.
