『真珠の耳飾りの少女』 美術紀行
「10秒の参拝に並ぶ人々」
2026年夏、
大阪中之島へ向かう私の足取りは、何だか妙に弾んでいました。
目的は14年ぶりに来日した、フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』に会いに行くためです。
「光の魔術師」と呼ばれるフェルメールは、17世紀オランダの画家で、
彼の描く柔和な光は本当に美しいんです。
今回来日する『真珠の耳飾りの少女』は、レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』と並ぶ「世界で最も有名な絵画」の一つでね、
その人気の高さから「北のモナ・リザ」とも称されています。
『少女』は、所蔵元であるオランダのマウリッツハイス美術館にとって最も重要な作品なので、
普段は「門外不出」、つまりめったに国外へ貸し出されることはないんです。
でも今回は、美術館のメンテナンス(改修工事)に伴う一時閉館によって、
大阪中之島美術館で奇跡的に開催されることになりました。
アクセス集中や混乱を防ぐため、全日程が「日時指定制(事前予約)」となっていてね、
落ち着いて鑑賞できるかとワクワクしながら館内に入ってみると……。
平日にも関わらず館内はひどく混雑していて、『少女』の展示室へも大行列ができていたんです。
私がすっかり肩を落としていると、後ろに並んでいた御婦人が声をかけてくださいました。
「お一人で来られてるの?」
「はい、私は絵を鑑賞する時は大抵一人なんです」
「私も一人の方が好き。自分のペースで鑑賞できますものね」
と言って、ホホホと笑顔で返してくださいました。
その後も彼女と他愛のないおしゃべりは続き、『少女』と対面するまでの待ち時間は、想像以上に楽しいものになりました。
そしてようやく、『少女』との対面する時がやって来た!
正面に立ち、鑑賞に浸ろうとしたまさにその瞬間

先ほどの御婦人が「ちょっとまだ!」と前に割り込んで視界を遮ったんです。
そして先ほどまでの和やかな様子とは打って変わり、彼女は怪訝そうな表情で私を見てるんですよ。
『少女』との鑑賞時間は、わずか10秒程度。
私は訳が分からないまま仕方なくその場を立ち去り、彼女に場所を譲ったんですが……。
その時ふと気づいたことがありました。
それは以前、奈良のとある寺院で行われた「秘仏特別開帳」の時、
私はこれとまったく同じ光景を目にしていたんです。
大行列に並び、やっと拝顔する順番が回ってきたら、手を合わせて拝み、すぐに次の人へ場所を譲る。
そう、この展覧会は「美術鑑賞」の場ではない。
一生に一度、世界的なご本尊を拝むという、まさに「宗教的な参拝」なんです!
しかし懲りもせず私は、
もう一度『少女』を参拝するため再び列の最後尾に並びました。
すると驚いたことに先ほどの御婦人がまた私の後ろにやってきて、
「本当に感動したわ」……と、
何事もなかったかのように、笑顔になって声をかけてきたんです。
戸惑いながらも私は、彼女に付き合って実に4回も一緒に『少女』を参拝する羽目になりました。
御婦人と別れて美術館を出た時、私は鑑賞者ではなく、すっかり『少女』の信者に成っててね、
美術館の方向に向き、そっと手を合わせて一礼してから、夜の中之島をあとにしました。
* 雅さんの『少女』参拝巡礼記・完 *

