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『七人なのに、部屋は六つしかない』 最終話 七人なのに、部屋は六つしかない

私は。

十二年前。

冬鷺館にいた。

その事実を思い出した瞬間。

頭の中で。

何かが崩れた。

取材記者として。

事件の外側にいた。

そう思っていた。

だが。

違った。

私は。

最初から。

事件の中にいた。


写真を撮ったのは誰か

三階の監視室。

モニターには。

十二年前の写真。

その下。

撮影:榊冬馬

「違う」

私は呟いた。

「三宅が撮ったはずだ」

沙耶が私を見る。

「第1話のとき、三宅さん本人がそう言いました」

そうだ。

三宅は言った。

「撮ったのが俺だから」

では。

どちらが嘘なのか。

三宅。

それとも。

この記録。

私は写真を見る。

七人。

白河亮介。

白河絵里。

藤堂雅人。

九条孝臣。

宮坂徹。

宮坂彰。

北村真奈美。

そして。

カメラの向こうに。

私。

八人目。

なら。

三宅は。

どこにいた?

私は。

ようやく。

一つの違和感に気づいた。

「三宅は」

声に出す。

「写真を撮ってない」

沙耶が言う。

「でも、本人が」

「嘘をついた」

「なぜ?」

「自分が十二年前ここにいたと思わせるためだ」

宮坂が顔を上げた。

「違う」

「何が?」

「三宅は」

少し間。

「十二年前、ここに来ていない」

全員が宮坂を見る。

「三宅と会ったのは」

宮坂が言った。

「事件のあとだ」

私は息を止めた。

つまり。

三宅は。

最初から。

十二年前のメンバーではなかった。

なのに。

今回。

自分から。

十二年前を知っているように振る舞った。


三宅の正体

「三宅は何者なんです?」

沙耶が聞く。

宮坂が答えた。

「私立探偵だ」

「探偵?」

「白河源一郎に雇われていた」

私は。

203号室で見つけた。

三宅の招待状を思い出す。

六人が揃ったとき、あなたの役目が始まります。

あれは。

客としての招待状ではなかった。

仕事の指示書だった。

「何を調べていた?」

宮坂は答えない。

九条が代わりに言った。

「我々です」

「我々?」

「十二年前の事件関係者」

白河源一郎は。

十二年前から。

誰かが嘘をついていることを。

疑っていた。

だから。

三宅を雇った。

そして。

今回。

冬鷺館へ呼んだ。

招待客ではない。

監視役。

調査役。

だから。

部屋がなかった。

三宅の部屋は。

最初から。

用意されていなかった。

203号室に入ったのは。

空いていたからにすぎない。

では。

204号室の鍵は。

何のためだった?

その答えも。

すでに出ている。

204号室は。

客室ではない。

十二年前の事件資料を保管した。

隠し部屋だった。


三宅は誰に殺されたのか

私は。

三宅の死について。

もう一度考える。

密室。

胸のナイフ。

少ない血。

濡れた靴。

小さい足跡。

そして。

死後に刺された可能性。

「三宅は」

私は言った。

「203号室で殺されてない」

「じゃあどこで?」

沙耶が聞く。

「外だ」

三宅のSUV。

後部座席。

二人分の濡れた跡。

小さい足跡。

三宅は。

誰かを車に乗せていた。

その人物に。

車の中で殺された。

そして。

死体を203号室まで運ばれた。

ただし。

犯人が一人で成人男性を。

二階まで運ぶのは難しい。

「だから」

私は。

モニターを見る。

「誰かが手伝った」

館にいる誰か。

つまり。

三宅殺しには。

最低二人関わっている。


招待客No.7

監視モニター。

一階食堂。

そこに映った女。

招待客No.7。

私は。

ようやく。

その名前を口にした。

「白河美紀」

絵里が震えた。

沙耶が聞く。

「誰です?」

私は答えた。

「白河源一郎の妻」

「でも」

九条が言った。

「美紀さんは十二年前に死亡している」

その通り。

白河亮介が死んだ。

その三日後。

白河美紀も。

自宅で死亡した。

死因。

睡眠薬の過剰摂取。

自殺。

当時。

私は取材した。

だから。

顔を覚えていた。

だが。

モニターに映った女性は。

若すぎる。

十二年経っているはずなのに。

むしろ。

昔の写真と変わらない。

そして。

私は気づいた。

「本人じゃない」

「え?」

「映像だ」

監視カメラの映像ではない。

録画。

過去の映像を。

現在の監視映像に。

重ねている。

「白河源一郎は」

私は言った。

「最初から俺たちを騙してる」

七人全員が揃った。

そう思わせるために。


白河源一郎のゲーム

三階の中央モニター。

突然。

画面が切り替わった。

白河源一郎。

椅子に座っている。

現在の映像。

老人。

「やっと」

白河が言った。

「ここまで来ましたか」

絵里が叫ぶ。

「お父さん!」

今度は録音ではない。

「どこにいるの!」

白河は。

笑った。

「この館にはいない」

全員が息を呑む。

「最初から?」

「最初からです」

つまり。

白河は。

遠隔で。

館を監視していた。

そして。

映像。

音声。

ロック。

すべて。

操作していた。

「何のために?」

私が聞く。

白河は。

少し黙る。

「十二年前の真実を」

「全員に思い出させるためです」


十二年前の第三の死者

「三人目は誰だ」

私は聞いた。

白河の表情が変わる。

「知りたいですか」

「そのために来た」

白河は。

ゆっくり頷いた。

「三人目は」

画面に。

名前が表示される。

北村真奈美

沙耶が。

息を止めた。

「母が……?」

「はい」

「でも」

沙耶の声が震える。

「母は行方不明って」

「そうです」

白河が言う。

「死体が見つからなかったから」

私は。

言葉を失った。

十二年前。

宮坂彰。

白河亮介。

北村真奈美。

三人が死んだ。

「どうやって?」

沙耶が聞く。

白河は。

答えなかった。

代わりに。

九条を見る。

「九条さん」

九条の顔から。

血の気が引いた。


十二年前の本当の出来事

「あなたが話してください」

白河が言う。

九条は。

長く黙った。

そして。

ようやく。

口を開く。

「彰さんが」

「階段から落ちた」

「その後」

「亮介さんが」

「全部警察に話すと言った」

「白河先生は」

「止めようとした」

「でも」

「亮介さんは聞かなかった」

九条の声が震える。

「真奈美さんも」

「証言すると言った」

だから。

白河源一郎は。

二人を止めた。

だが。

白河は言う。

「違う」

九条を見る。

「私は止めていない」

九条の顔が。

固まる。

白河が続けた。

「あなたが止めた」

全員が。

九条を見る。


犯人

十二年前。

九条は。

白河家の顧問弁護士だった。

会社の不正が明るみに出れば。

白河開発は終わる。

自分の立場も終わる。

だから。

亮介から帳簿を奪おうとした。

揉み合い。

亮介は。

マンションのベランダから転落。

事故。

しかし。

その場にいた真奈美が。

見ていた。

九条は。

真奈美を追った。

そして。

殺した。

遺体は。

処分。

行方不明として扱われた。

「嘘よ」

絵里が言う。

「お父さんが隠したんでしょ」

白河は頷く。

「隠した」

「なぜ?」

「会社を守るためです」

白河は。

九条の殺人を知っていた。

だが。

公にすれば。

帳簿も。

彰の死も。

すべて明るみに出る。

だから。

隠した。

十二年間。


では三宅を殺したのは?

九条が。

後ろへ下がる。

「私は三宅を殺していない」

私は。

九条を見る。

「本当に?」

「本当だ」

確かに。

三宅は。

今回殺された。

十二年前とは別の事件。

白河が言う。

「三宅を殺した人物は」

「私にも分かりません」

私は眉を寄せる。

「何?」

「それだけは」

「今回の予定になかった」

つまり。

三宅殺しは。

本物の殺人。

白河の仕掛けではない。

私は。

全員を見る。

九条。

絵里。

藤堂。

宮坂。

沙耶。

私。

六人。

この中に。

三宅を殺した犯人がいる。


204号室の意味

そのとき。

沙耶が言った。

「榊さん」

「何?」

「タイトル」

「え?」

「七人なのに、部屋は六つしかない」

私は。

彼女を見る。

沙耶は続けた。

「最初から」

「部屋が一つ足りなかったんじゃない」

私は。

六本の鍵を思い出す。

101。

102。

103。

201。

202。

203。

「違う」

「何が?」

「六部屋で合ってた」

招待客は。

最初から。

六人だった。

榊。

九条。

絵里。

藤堂。

宮坂。

そして。

もう一人。

白河源一郎が招待した人物。

それが。

三宅ではない。

沙耶でもない。

では。

誰だ。

私は。

招待状を思い出す。

七人が揃ったとき。

招待客が七人とは。

一度も書いていない。

七人が揃ったとき。

ただそれだけ。

つまり。

六人の招待客と。

招待主。

白河源一郎。

合わせて。

七人。

私は。

最初から。

文章を読み違えていた。


七人とは誰だったのか

「招待されたのは六人」

私は言った。

「白河さん」

モニターを見る。

「あなたを含めて七人だった」

白河は。

笑った。

「ようやく気づきましたね」

だから。

部屋は六つ。

正しかった。

部屋が一つ足りないのではない。

私たちが。

勝手に。

招待客が七人だと思い込んだ。

そして。

三宅。

沙耶。

予定外の二人が加わった。

だから。

人数がおかしくなった。


六人目の招待客

私は。

五通の招待状を思い出す。

榊。

九条。

絵里。

藤堂。

宮坂。

五人。

では。

六人目。

白河が言う。

「榊さん」

「はい」

「あなたは」

「誰の招待状を持ってきました?」

一瞬。

意味が分からなかった。

「俺のです」

「本当に?」

私は。

ポケットから。

封筒を取り出す。

宛名。

榊冬馬様

間違いない。

だが。

白河が言う。

「中を見てください」

便箋。

読む。

そして。

気づく。

最初に読んだとき。

私は。

宛名しか見ていなかった。

本文。

最後。

署名。

白河源一郎

その下。

薄く。

もう一行。

代理人 三宅浩一

私は。

息を止めた。

三宅は。

私の招待状を届けた人物。

そして。

六人目の招待客は。

三宅本人。

だから。

彼には。

客室がある。

203。

では。

なぜ。

白河は。

「三宅は七人の招待客ではない」

と言った?

答え。

そもそも。

七人の招待客など存在しない。

六人しかいない。

白河は。

嘘をついていなかった。


最後の犯人

だが。

まだ。

三宅殺しが残っている。

私は。

三宅の車。

小さい足跡。

二人分の濡れた跡。

そして。

沙耶を見る。

「沙耶」

彼女が。

顔を上げる。

「三宅と一緒に来たのか?」

全員が。

沙耶を見る。

「違います」

「じゃあ」

「どうして君の靴と同じ大きさの跡が」

沙耶は。

答えない。

私は。

続ける。

「君は」

「三宅を知っていた」

沈黙。

「母親を探していた」

「三宅は」

「十二年前の事件を調べていた」

「接触していて当然だ」

沙耶の目から。

涙が落ちる。

「殺すつもりはなかった」

全員が凍りついた。


三宅殺しの真相

沙耶は。

三宅から。

母親が死んでいる可能性を。

事前に聞かされていた。

さらに。

九条が。

関わっている可能性も。

知っていた。

だから。

三宅に頼んだ。

冬鷺館へ連れて行ってほしい。

三宅は断った。

しかし。

沙耶は。

勝手に榊についてきた。

館へ到着したあと。

三宅と外で会った。

そして。

口論。

三宅は。

「まだ真相を話すな」

と言った。

沙耶は。

「母のことを知りたい」

と言った。

揉み合い。

三宅は。

車内で。

首を圧迫され。

死亡。

事故だった。

沙耶は。

パニックになった。

そして。

一人では運べなかった。

「誰が手伝った?」

私は聞く。

沙耶が。

宮坂を見る。

宮坂が。

目を閉じた。


二人目

宮坂は。

沙耶を見つけた。

死んだ三宅。

泣いている沙耶。

そして。

十二年前。

自分の弟が死んだ夜を。

思い出した。

だから。

また。

死を隠した。

三宅の遺体を203へ運ぶ。

死後。

ナイフを刺す。

密室に見せる。

十二年前と同じ。

「なぜ?」

私は聞く。

宮坂が答える。

「守りたかった」

「誰を?」

「沙耶を」

十二年前。

自分は。

弟を守れなかった。

だから。

今度は。

誰かを守ろうとした。

間違った方法で。


朝六時

午前五時五十八分。

すべてが。

終わった。

白河は。

警察へ連絡した。

三宅の死。

十二年前の事件。

彰。

亮介。

真奈美。

すべて。

話すと言った。

九条は。

何も言わなかった。

沙耶は。

椅子に座ったまま。

泣いていた。

宮坂は。

彼女の隣にいた。

午前六時。

玄関のロックが。

解除された。

吹雪も。

弱まっている。

私は。

外へ出る。

振り返る。

冬鷺館。

六つの客室。

最初から。

何もおかしくなかった。

おかしかったのは。

私たちの数え方だった。


七人なのに、部屋は六つしかない

私は。

招待状を。

もう一度読む。

七人が揃ったとき。

たった。

それだけ。

誰も。

「七人を招待した」

とは。

言っていない。

私は。

勝手に。

そう読んだ。

そして。

その思い込みを。

最後まで。

疑わなかった。

本格ミステリーで。

最も危険なのは。

難しいトリックではない。

最初に。

自然に受け入れてしまった。

一つの前提。

それを。

疑わないことだ。

冬鷺館には。

六つの部屋しかなかった。

なぜなら。

招待客も、最初から六人しかいなかったから。

七人目は。

招待主。

白河源一郎。

そして。

その七人が。

実際に。

同じ館へ揃うことは。

最後まで。

一度もなかった。

私は。

少し笑った。

白河は。

最初から。

そのつもりだったのだろう。

真実を。

誰かに教えるのではなく。

気づかせるために。


『七人なのに、部屋は六つしかない』

七人。

六部屋。

204号室。

十二年前の写真。

消された死者。

招待されていない女。

そして。

最初から。

一度も存在しなかった。

「七人の招待客」

もし。

第1話を。

もう一度読むなら。

最初の招待状だけを。

見直してみてください。

そこには。

一度も。

「七人を招待した」

とは。

書かれていません。

騙したのは。

犯人ではない。

作者でもない。

最初に。

意味を決めてしまった。

読者自身です。

――完

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