『七人なのに、部屋は六つしかない』 第2話 招待されていない女
死体のそばに落ちていた金属札には。
「7」
と刻まれていた。
そして。
館内に響いた白河源一郎の声。
「三宅浩一さんは、七人の招待客ではありません」
私は。
廊下に立っている人間を数えた。
私。
北村沙耶。
九条孝臣。
白河絵里。
藤堂雅人。
宮坂徹。
六人。
203号室で死んでいる三宅を含めれば。
七人。
しかし。
白河の言葉が正しいなら。
三宅は数に入らない。
なら。
本当の七人目は、どこにいる?
招待状を確認する
午後八時三十分。
「全員、食堂へ戻りましょう」
私は言った。
絵里が反発した。
「三宅さんをあのままにするの?」
「今は触らない方がいい」
「警察は?」
宮坂が窓を見る。
「呼べん」
携帯電話は圏外。
固定電話もない。
外は吹雪。
来た道も雪で埋まっている。
少なくとも。
朝までは。
私たちだけで対処するしかない。
食堂へ戻る。
私はテーブルに。
自分の招待状を置いた。
「全員、出してください」
九条が眉を寄せる。
「何のために?」
「白河さんは『招待状を持っていない人間がいる』と言った」
私は沙耶を見る。
「誰が本当に招待されたのか確認します」
最初に。
九条が出した。
次に藤堂。
宮坂。
絵里。
そして私。
五通。
すべて。
同じ白い封筒。
同じ紙。
同じ文章。
ただし。
宛名だけが違う。
榊冬馬。
九条孝臣。
白河絵里。
藤堂雅人。
宮坂徹。
五人。
沙耶の前には。
何もない。
「沙耶」
「……はい」
「本当に持ってないんだな」
「最初からありません」
「最初から?」
私は眉を寄せた。
「さっきは『分かりません』と言っただろ」
沙耶は黙った。
「どういうことだ」
「私は」
沙耶は。
ゆっくり息を吐いた。
「招待されてません」
六人目ではなかった
「何だって?」
宮坂が立ち上がった。
沙耶は私を見る。
「榊さんの招待状を見ました」
「いつ?」
「事務所で」
確かに。
招待状は机の上に置いていた。
「冬鷺館って名前が気になって」
「だから勝手についてきた?」
「はい」
私は額を押さえた。
そうだった。
私は最初から。
沙耶を同行者として招待されたわけではない。
彼女が。
自分からついてきただけだ。
しかし。
私は大きな勘違いをしていた。
館に到着した人間を。
そのまま。
招待客として数えていた。
「つまり」
藤堂が言った。
「北村さんも三宅さんも、招待客ではない」
「そうなります」
九条が五通の招待状を見る。
「では、ここにいる本当の招待客は五人だけだ」
榊。
九条。
絵里。
藤堂。
宮坂。
五人。
白河は。
七人が揃った
と言った。
あと二人。
どこにいる?
三宅の招待状
「待て」
宮坂が言った。
「三宅の机に招待状があっただろ」
私は思い出した。
203号室。
三宅の財布。
時計。
そして。
招待状。
「確認しましょう」
全員で203号室へ戻った。
三宅は。
先ほどと同じ姿勢で死んでいる。
私は机の上にあった封筒を取った。
表面。
宛名。
三宅浩一様
「あるじゃない」
絵里が言った。
「やっぱり招待されてたんじゃない?」
私は封筒を開いた。
便箋。
文章を読む。
そして。
すぐに違和感に気づいた。
私の招待状には。
こう書かれていた。
七人が揃ったとき、すべてをお話しします。
三宅の招待状。
そこには。
こう書かれていた。
六人が揃ったとき、あなたの役目が始まります。
「違う」
私は呟いた。
「何が?」
「文章が違う」
全員が集まる。
さらに。
最後の一文。
204の鍵を必ず持参してください。
誰も声を出さなかった。
私は。
机に置かれていた。
204号室の鍵を見る。
三宅は。
この館で鍵を受け取ったのではない。
最初から持ってきた。
三宅の役目
「役目って何よ」
絵里が言う。
誰にも分からない。
私は三宅の上着を調べた。
ポケット。
ハンカチ。
車の鍵。
小銭。
そして。
内ポケット。
紙が一枚入っていた。
折り畳まれた。
古い紙。
開く。
それは。
冬鷺館の平面図だった。
一階。
食堂。
厨房。
書斎。
二階。
101。
102。
103。
201。
202。
203。
そして。
三階。
一つの大きな部屋。
その横。
細い廊下。
さらに。
図面の端に。
小さな部屋が描かれている。
番号。
204
「あるじゃない」
沙耶が言った。
「204号室」
だが。
二階を確認したとき。
そんな部屋はなかった。
図面を見る。
203号室の奥。
壁の向こう。
そこに。
204号室がある。
存在しない部屋
午後九時。
私たちは203号室へ戻った。
壁を調べる。
ベッド。
棚。
絵画。
クローゼット。
そして。
クローゼットの奥。
宮坂が壁を叩いた。
コン。
コン。
次。
ゴン。
音が違う。
「空洞だ」
宮坂が言った。
クローゼットを動かす。
背面。
壁に。
小さな鍵穴があった。
私は。
204と刻まれた鍵を差し込んだ。
回す。
カチッ。
壁の一部が。
ゆっくり開いた。
その向こう。
暗闇。
沙耶が。
スマートフォンのライトをつけた。
狭い通路。
三メートルほど先に。
ドア。
そこに。
金属製の数字。
204
「本当にあった……」
絵里が呟いた。
私はドアノブを握る。
開いた。
部屋の中。
ベッドはない。
窓もない。
代わりに。
壁一面。
写真。
新聞記事。
資料。
十二年前の事件に関するものだった。
そして。
中央の机。
一枚の写真。
食堂に置かれていたものと。
同じ写真。
ただし。
こちらは。
切り取られていなかった。
写真には七人いた
「……待って」
沙耶が言った。
食堂にあった写真。
写っていたのは六人。
亮介。
絵里。
藤堂。
九条。
宮坂。
謎の女性。
しかし。
204号室にあった写真には。
もう一人。
写っていた。
写真の右端。
途中で切り取られていた部分。
そこに。
若い男が立っている。
私は。
その顔を見た。
そして。
隣を見る。
宮坂。
「この人……」
十二年前の写真。
若い男。
現在は。
髪が白くなっている。
だが。
間違いない。
宮坂徹。
沙耶が言った。
「でも」
「何だ?」
「食堂の写真にも宮坂さん、写ってましたよね」
私は。
もう一度写真を見る。
その通りだった。
食堂の写真。
亮介の左側。
宮坂。
そして。
完全版の写真。
右端にも。
宮坂。
同じ写真の中に。
宮坂徹が二人いる。
双子
全員が。
宮坂を見る。
宮坂は。
しばらく黙っていた。
そして。
椅子に座った。
「弟だ」
「弟?」
「双子だった」
私は初めて聞いた。
「名前は?」
「宮坂彰」
「今は?」
宮坂は答えない。
「宮坂さん」
「死んだ」
「いつ?」
宮坂は。
写真を見る。
「十二年前だ」
空気が変わった。
「亮介さんと同じ日に?」
宮坂は頷いた。
私は。
新聞記者だった。
白河亮介死亡事件について。
当時。
かなり調べた。
だが。
同じ日に。
宮坂という男が死んだ記録など。
知らない。
「どうして報道されていない?」
宮坂は。
答えなかった。
代わりに。
九条が言った。
「存在しなかったことになったからです」
全員が。
九条を見る。
「どういう意味です?」
九条は。
目を閉じた。
「十二年前」
「この館にいたのは」
「白河亮介だけではありません」
私は写真を見る。
七人。
「この写真は」
九条が言った。
「事件の前日に撮られたものです」
「どこで?」
「ここです」
沙耶が息を呑んだ。
「冬鷺館?」
「はい」
つまり。
十二年前。
この七人は。
同じ館にいた。
そして。
翌日。
亮介が死亡。
さらに。
宮坂の双子の弟。
彰も死亡。
なのに。
彰の死は。
記録から消された。
謎の女性
私は。
写真の女性を指差した。
「この人は?」
また。
沈黙。
今度は。
絵里が答えた。
「真奈美」
「名字は?」
絵里の唇が震えた。
「北村」
私は。
隣にいる沙耶を見る。
沙耶も。
動かなかった。
「もう一度」
私は言った。
「名前を」
絵里は。
沙耶を見ながら答えた。
「北村真奈美」
同じ名字。
私は沙耶を見る。
「知ってるのか?」
返事がない。
「沙耶」
彼女は。
写真から目を離さなかった。
そして。
小さな声で言った。
「母です」
招待されていない女
誰も。
言葉を発しなかった。
写真の女性。
北村真奈美。
沙耶の母親。
「どういうことだ」
私は聞いた。
「母親が十二年前ここにいたことを知っていたのか?」
「知ってました」
「じゃあ」
私は沙耶を見る。
「冬鷺館が気になったからついてきたって話は?」
沙耶は。
目を伏せた。
「嘘です」
第一の嘘。
最初から。
彼女は。
この館を知っていた。
「なぜ来た?」
沙耶は答える。
「母を探すためです」
「探す?」
私は写真を見る。
「今どこにいる?」
沙耶は。
少し間を置いた。
そして。
言った。
「十二年前から」
「行方不明です」
七人目
その瞬間。
204号室のスピーカーから。
ノイズが流れた。
ザザッ。
全員が顔を上げる。
白河源一郎の声。
『204号室へ到達しましたね』
録音。
『では』
『二つ目の質問です』
『十二年前』
『この館から』
『生きて帰った人間は何人だったでしょうか』
私は写真を見る。
七人。
白河亮介。
死亡。
宮坂彰。
死亡。
北村真奈美。
行方不明。
残る四人。
絵里。
藤堂。
九条。
宮坂徹。
『答えは』
白河の声。
『五人です』
私は眉を寄せた。
おかしい。
亮介。
彰。
二人が死んだなら。
七人中。
生存者は五人。
数字だけなら合う。
だが。
真奈美が行方不明なら。
生きて帰ったとは限らない。
そのとき。
沙耶が呟いた。
「じゃあ」
「何?」
「母は」
顔を上げる。
「生きて帰ったってことですよね」
その通りだ。
白河が。
事実を言っているなら。
北村真奈美は。
十二年前。
この館を生きて出ている。
なのに。
その後。
行方不明になった。
『そして』
白河の声が続く。
『現在』
『十二年前と同じ七人が』
一拍。
『再び冬鷺館に揃っています』
私は。
息を止めた。
同じ七人?
あり得ない。
亮介は死んでいる。
彰も死んでいる。
『もちろん』
『同じ人間という意味ではありません』
『同じ』
ノイズ。
『役割を持つ七人です』
そして。
最後。
『七人目は』
ブツッ。
音声が切れた。
「何だよ」
宮坂がスピーカーを見る。
そのとき。
沙耶が。
机の下を見た。
「榊さん」
「どうした?」
指を差す。
床。
机の影。
白い封筒が落ちている。
拾う。
封筒には。
名前。
北村沙耶様
沙耶の顔が青ざめる。
「私の……」
開封する。
中には。
一枚の便箋。
たった二行。
北村沙耶様
あなたは招待していません。
そして。
その下。
赤い文字。
あなたが来ることは、十二年前から決まっていました。
私は。
何度も読み返した。
招待していない。
でも。
来ることは分かっていた。
では。
白河源一郎は。
何を知っている?
そのとき。
封筒から。
もう一枚。
小さな紙が落ちた。
古い新聞記事。
十二年前。
白河亮介死亡事件。
記事の隅。
小さな写真。
事件を取材する。
若い新聞記者。
私は。
その顔を見た。
自分だった。
だが。
写真の裏には。
誰かの字で。
こう書かれていた。
「六人目――榊冬馬」
私は。
手を止めた。
六人目。
なら。
七人目は。
誰だ。
その瞬間。
204号室の奥。
壁の向こうから。
音がした。
コン。
全員が。
振り返る。
コン。
コン。
誰かが。
壁を叩いている。
宮坂がライトを向ける。
204号室の一番奥。
図面にはない。
もう一つの扉。
その向こうから。
声がした。
かすかな。
女の声。
「……沙耶」
沙耶の顔から。
血の気が引いた。
「お母さん……?」
十二年間。
行方不明だった。
北村真奈美の声だった。
第2話 終
次回
第3話「十二年前、死んだのは二人ではない」
204号室の奥から聞こえた。
北村真奈美の声。
しかし。
扉の向こうで見つかったものは。
沙耶が想像していたものとは。
まったく違っていた。
十二年前の二つの死。
消された一人。
二人いる宮坂。
そして。
「六人目――榊冬馬」
主人公自身も。
事件の外側にいた人間ではなかった。
さらに。
三宅が密室で殺された方法が明らかになったとき。
最大の前提が崩れ始める。
冬鷺館で起きている事件は、本当に「十二年前の復讐」なのか。
