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『七人なのに、部屋は六つしかない』          第1話 雪山の招待状

山荘に着いて最初に気づいたのは。

部屋が一つ足りないことだった。

招待された人間は七人。

用意されていた客室は六つ。

そして、その夜。

一人が殺された。

問題は。

殺された男の部屋が。

最初から存在していなかったことだった。


十二月二十七日。

午後四時二十分。

雪は、予報より三時間早く降り始めた。

「本当にここで合ってるんですか?」

助手席の北村沙耶が言った。

運転していた私は、カーナビを確認した。

「住所はここで終わってる」

「でも、何もないですよ」

確かに。

目の前には、雪に覆われた細い山道しかなかった。

左右には杉林。

携帯電話は圏外。

カーナビには、

『目的地周辺です。案内を終了します』

と表示されている。

「降りよう」

「え?」

「歩けば見つかるかもしれない」

私たちは車を降りた。

雪はすでに靴を半分ほど埋めるほど積もっていた。

二百メートルほど歩いたところで。

木々の隙間から建物が見えた。

三階建て。

灰色の外壁。

急勾配の屋根。

雪が屋根全体を覆っている。

門の横には。

古びた金属板。

そこには。

冬鷺館

と刻まれていた。

「ここですね」

沙耶が言った。

私は招待状を取り出した。

住所は一致している。

間違いない。


七通の招待状

三週間前。

私の事務所に、一通の封筒が届いた。

差出人。

白河源一郎。

全国にホテルや商業施設を所有する大富豪だった。

私がその名前を知っていたのは。

十二年前の事件があったからだ。

白河源一郎の長男。

白河亮介。

当時二十六歳。

自宅マンションから転落して死亡。

警察は自殺と判断した。

しかし。

私は、その結論に納得していなかった。

事故現場には、いくつかの不自然な点があったからだ。

そして。

その事件から十二年が経った今。

白河源一郎から。

突然。

私に招待状が届いた。


便箋には。

短くこう書かれていた。

榊冬馬様

十二月二十七日。

冬鷺館へお越しください。

十二年前の事件について。

あなたに話しておきたいことがあります。

七人が揃ったとき、すべてをお話しします。

最後に。

一行。

この招待については、他言しないでください。

私は断らなかった。

そして。

一人で来るつもりだった。

だが。

助手の沙耶が。

「面白そうですね」

と言って。

勝手についてきた。

結果的に。

それが間違いだったのかどうか。

この時点では。

まだ分からなかった。


六本の鍵

玄関を開けると。

暖かい空気が流れてきた。

暖房はすでについている。

照明もついていた。

なのに。

人の気配がない。

「誰かいませんか?」

沙耶が声を上げた。

返事はない。

広いロビー。

正面には階段。

その横に。

六本の鍵が並んでいた。

101。

102。

103。

201。

202。

203。

沙耶が数える。

「六本ですね」

「そうだな」

「招待されたのは七人でしたよね」

「そう書いてあった」

「じゃあ……一人は?」

私は答えなかった。

この時点では。

白河源一郎本人の部屋が別にあるのだと思った。

だから。

客室が六つでも。

不思議ではない。

そう考えていた。


七人の客

午後四時四十三分。

最初の客が到着した。

「榊さんですか?」

五十代の男。

黒いコート。

銀縁眼鏡。

「はい」

「九条です」

九条孝臣。

白河家の顧問弁護士。

十二年前。

白河亮介の死について。

「事件性はありません」

そう説明していた人物だった。

続いて。

白河源一郎の次女。

白河絵里。

三十四歳。

亮介の妹。

次に。

医師の藤堂雅人

そして。

元刑事の宮坂徹

宮坂は。

十二年前の亮介の事件を担当した刑事だった。

これで。

私。

沙耶。

九条。

絵里。

藤堂。

宮坂。

六人。

午後五時十四分。

最後の男が到着した。

赤いSUVから降りてきた男。

四十代。

黒い髪。

無精髭。

男はロビーへ入ると。

宮坂の顔を見て。

笑った。

「久しぶりですね」

宮坂の表情が固まる。

「……三宅」

男は頷いた。

三宅浩一。

宮坂は。

低い声で言った。

「お前が、なぜここにいる」

三宅は答えなかった。

ただ。

「招待されたからですよ」

とだけ言った。

これで。

七人。


白河源一郎がいない

七人揃った。

それなのに。

招待した本人がいない。

午後五時三十分。

館内を探した。

一階。

食堂。

厨房。

書斎。

浴室。

二階。

客室六部屋。

三階には。

一つだけ。

鍵の掛かった部屋があった。

「白河さんは?」

絵里が言う。

誰も答えられない。

電話は繋がらない。

携帯電話は圏外。

そして。

午後六時。

外は完全な吹雪になった。

帰ろうにも。

来た道は。

すでに雪で埋まり始めている。

三宅が窓の外を見た。

「今夜は帰れませんね」

宮坂が言った。

「朝まで待つしかない」

そのとき。

私は壁の鍵を見た。

101。

102。

103。

201。

202。

203。

やはり。

六本しかない。


部屋割り

「どうします?」

沙耶が私を見る。

私は少し考えた。

「俺たちは202」

「はい」

九条は101。

藤堂は102。

宮坂は103。

絵里は201。

三宅は203。

これで。

全員の寝る場所が決まった。

そのとき。

三宅が笑った。

「七人いるのに六部屋」

「一部屋に二人です」

私が言う。

「そうじゃない」

三宅は鍵を見た。

「俺が気になるのは」

少し間を置く。

なぜ七人来ることを知っていて、六部屋しか用意してないのかってことですよ

誰も答えなかった。


十二年前の写真

午後七時。

食堂に料理が並んだ。

ローストビーフ。

スープ。

サラダ。

パン。

ワイン。

誰が用意したのか分からない。

それなのに。

料理は温かかった。

そして。

七つの席。

それぞれの前に。

一枚の写真が置かれていた。

私は写真を手に取った。

十二年前のもの。

白河亮介の部屋。

中央に亮介。

その周囲に。

数人の男女。

私は写真を見て。

すぐに気づいた。

「この女性は誰ですか?」

写真の端。

一人の女性が写っている。

二十代前半。

長い黒髪。

白い服。

亮介の隣で笑っている。

絵里の顔色が変わった。

藤堂が写真を伏せる。

九条は。

何も言わない。

宮坂も。

黙っている。

三宅だけが。

写真を見て笑った。

「懐かしいですね」

私は三宅を見る。

「知っているんですか?」

「ええ」

「この女性は?」

三宅は答えない。

代わりに。

私へ質問した。

「榊さん」

「はい」

「十二年前の事件について。

警察発表以外に。

どこまで知っています?」

「ほとんど知りません」

「なら」

三宅は写真を指差した。

「この写真に写っている人数を数えてください」

私は数えた。

一。

二。

三。

四。

五。

六。

亮介を含めて。

六人。

三宅が言う。

「おかしいと思いません?」

「何がです?」

「十二年前の事件の夜」

三宅は笑った。

「警察が確認したのは」

「この中の五人だけです」

私は写真を見た。

「では、この女性は?」

三宅は。

ゆっくり首を横に振った。

「それが問題なんですよ」


白河源一郎からの放送

午後七時十三分。

突然。

館内のスピーカーから。

ノイズが流れた。

ザザッ。

全員が顔を上げる。

そして。

男の声。

『皆さん』

絵里が立ち上がった。

「お父さん?」

白河源一郎の声だった。

『七名全員が揃いました』

『まず』

『ここへ集まっていただいたことに感謝します』

絵里が叫ぶ。

「どこにいるの!?」

返事はない。

録音らしい。

『十二年前』

『私の息子、亮介が死亡しました』

『警察は自殺と判断しました』

『しかし』

少し間。

『あれは殺人です』

誰も動かなかった。

『私は』

『犯人を知っています』

絵里が口元を押さえる。

『ただし』

『皆さんに犯人を探していただく必要はありません』

私は眉をひそめた。

『なぜなら』

『犯人は』

『この中にいるからです』

空気が凍った。

『今夜』

『一人が死にます』

三宅が立ち上がった。

「ふざけるな」

『そして』

『その死について』

『警察を呼ばないでください』

放送が切れた。


最初の死

午後八時二十二分。

三宅がいなくなった。

食堂にいたのは。

私。

沙耶。

九条。

絵里。

藤堂。

宮坂。

六人。

三宅だけがいない。

「部屋じゃないですか?」

沙耶が言った。

私たちは二階へ向かった。

203号室。

ノック。

返事なし。

宮坂がドアノブを回す。

開かない。

鍵が掛かっている。

「壊すぞ」

宮坂が言った。

全員が少し離れる。

一度。

二度。

三度。

ドンッ。

ドアが開いた。

ベッドの上。

三宅浩一。

胸に。

ナイフが刺さっていた。

死んでいる。

絵里が悲鳴を上げた。

私は部屋を見回した。

窓は閉まっている。

鍵も掛かっている。

ドアは。

内側からチェーンが掛かっていた。

完全な密室。

しかし。

私は。

別のものを見つけた。

机の上。

三宅の財布。

時計。

招待状。

そして。

一本の鍵。

古い金属製の鍵。

私は手に取った。

刻印。

204

沙耶が言った。

「204?」

私は廊下へ出た。

壁に並んでいる鍵を見る。

101。

102。

103。

201。

202。

203。

六本。

204はない。

三宅の部屋も。

203。

なのに。

なぜ。

204の鍵が。

死体のそばにある?


そして、もう一つ

そのとき。

館内のスピーカーが。

再び鳴った。

ザザッ。

『一人目ですね』

全員が凍りついた。

『三宅浩一さん』

『彼は七人の招待客ではありません』

「何?」

九条が声を上げる。

『したがって』

『七人のうち』

『まだ一人も死んでいません』

私は。

死体を見た。

意味が分からない。

三宅が招待客ではない?

なら。

七人とは誰だ。

『そして』

白河の声が続く。

『明日の朝六時まで』

『この館から出ることはできません』

『もう一つ』

『皆さんの中には』

一拍。

『招待状を持っていない人間がいます』

私は。

隣にいる沙耶を見た。

沙耶は。

何も言わなかった。

私は聞いた。

「沙耶」

「……はい」

「招待状を見せてくれ」

彼女は。

ゆっくりバッグを開けた。

そして。

しばらく探したあと。

顔を上げた。

「ありません」

「どういうことだ?」

「分かりません」

沙耶の声が震える。

「私……」

その瞬間。

三宅の死体がある部屋から。

何かが落ちる音がした。

カラン。

全員が振り返る。

床に。

小さな金属製の札。

拾い上げる。

そこには。

数字が刻まれていた。

7

私は。

それを見ながら。

一つの可能性を考え始めていた。

この館にいる人数を。

もう一度。

最初から数え直さなければならない。

なぜなら。

私たちは。

「七人いる」

と思い込んでいるだけなのかもしれない。

第1話 終


次回予告

第2話「招待されていない女」

七人のはずだった。

しかし。

そのうち一人は招待状を持っていない。

そして。

殺された三宅は。

「七人の招待客ではない」と告げられた。

では。

白河源一郎が本当に招待した七人とは誰なのか。

存在しない204号室。

十二年前の写真。

そして。

写真に写っていた謎の女性。

すべての謎が。

少しずつ。

一つの答えへ向かい始める。

第2話では、最初の「嘘」が明らかになる。

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