分配金が増えたのに、喜んでいないことがある|一時要因の見分け方
前回の記事で、決算資料は3つ見ればいいと書きました。稼ぐ力、借りる力、口数。
でも、この3つを全部見ても説明がつかない分配金の増え方が、ときどきあります。
稼ぎは横ばい。借入コストも変わらない。口数も増えていない。なのに分配金だけが上がっている。
この回は、そのときに疑うものの話です。
分配金が増える理由は、2種類ある
来期も続くものと、今回だけのもの。
同じ「増配」という言葉でも、この2つは意味が全く違います。
前者は、来年も同じ金額が入ってくる。後者は、来年は戻ります。
問題は、決算短信の表紙を見ても、どちらかは書いていないことです。表紙にあるのは金額だけ。
「今回だけ」の代表的な4つ
① 物件を売った利益
一番大きく動くのがこれです。
保有していた物件を、帳簿価額より高く売れば、その差額がその期の利益にのります。REITは利益のほぼ全部を配る仕組みなので、売却益が出れば分配金も跨ね上がります。
ただ、当たり前のことですが――
売った物件は、来期から賃料を生みません。
一時的に分配金が上がり、その後の稼ぐ力は少し下がる。これが同時に起きます。
なお、売却益をその期に全額配らず、内部に留めておいて後の期に使うという選択をする投資法人もあります。どちらにするかは開示に書いてあります。
② 費用が、たまたま少なかった期
修繕は毎期同じ額かかるわけではありません。大きな工事を次の期に回した、ということも起きます。
固定資産税にも特殊事情があります。新しく取得した物件は、取得した年には費用として計上されない扱いになることがあり、翌年から乗ってきます。つまり取得直後の期は、実力より利益が良く見えます。
③ 利益超過分配が増えた
決算短信には、「1口当たり分配金」の下に「うち利益超過分配金」という行があることがあります。
これは名前の通り、利益を超えて配っている分です。主な原資は減価償却費――帳簿上は費用だけれど、実際には現金が出ていかないものです。
これを増やせば、稼ぎが同じでも分配金は増えます。
※ これは良い悪いの話ではありません。建物の比重が高いセクターでは償却が大きく、実態の現金を返すことには相応の理由があります。問題なのは、内訳を知らないまま利回りだけで銘柄を並べることです。
④ 内部に留めていたものを取り崩した
過去に留保していたものを、分配金の安定のために今期に使う。これも実際に行われます。
悪いことではありません。むしろ「分配金をぶらつかせない」という意思表示です。ただし、原資は有限です。
見分け方は、2か所だけ
その1|決算説明資料の「分配金の増減要因」
多くの投資法人が、前期の分配金から今期の分配金までを、要因ごとに階段状に分解した図を載せています。
「賃料収入の増加で+○円、修繕費の減少で+○円、物件売却益で+○円」といった形です。
ここを見れば、増えた分の中身がそのまま分かります。推測する必要はありません。
その2|決算短信の「次期以降の予想」← こちらが決定的
もっと早い方法があります。
今期の分配金と、投資法人自身が出している次期予想を、並べて見る。
今期の増加が一時要因なら、投資法人は次期予想を、今期より低い水準で出しています。一番事情を知っている人たちが自分でそう書いているわけです。
逆に、今期の水準が次期以降も続く形で予想が出ているなら、その増加には続く根拠があると見ていいことになります。
誰かの見解を探すより、この2行を見比べる方が早いです。
じゃあ、「続く増え方」とは
逆側も書いておきます。次のものは、一度上がると基本的にその先も続きます。
契約更新時の賃料引上げ:新しい賃料が次期以降のベースになる
稼働率の改善:埋まった区画は毎期賃料を生む
借入コストの低下:借換え後の金利が残存期間すっと続く
物件の取得:新しい物件が毎期稼ぐ(ただし口数も増えていないか見る)
一番下の行にだけ注意があります。物件を買うときに新しい投資口を発行していることがあるので、分子だけでなく分母も見る必要があります。前回の記事の「分ける先を見る」はここにつながります。
まとめ
分配金が増えていたら、数字を見て喜ぶ前に一度だけ。
1. 決算説明資料の「分配金の増減要因」を見る
2. 決算短信の「次期予想」と並べる
この2つで、その増配が今回だけのものかどうかは、だいたい分かります。
そしてもう一つ。上の③で出てきた利益超過分配は、分配金利回りという数字そのものの見え方を変えます。ここは別の回で、もう少し深く書きます。
(→ 指標全体の見る順番は「J-REITの指標、結局どれを見ればいいのか」にまとめてあります)
毎月、実物の資料でやっています
この記事で書いたのは、増え方の見分け方だけです。
実際の資料を開くと、「このセクターだと、この項目はどう見るのか」が必ず出てきます。
メンバーシップでは、そこを実物でやっています。
指標ひとつ ―― その数字をそのまま受け取ると見誤るところを、一回に一つ
セクターを並べる ―― オフィス・物流・住宅・総合を並べて比べる
今月のREIT市況 ―― 指数・分配金利回り・長期金利を、つなげて読む
■ ご利用にあたって
本記事は、J-REITの開示資料の読み方を解説する教育目的のコンテンツです。特定の投資商品の売買を推奨するものではなく、投資助言・代理業に該当する助言を行うものではありません。
・本記事では特定の銘柄の数値を取り上げていません。会計処理・開示の形式は投資法人によって異なることがあります。実際の内容は、各投資法人が公表した適時開示・決算短信・資産運用報告をご確認ください。
・情報の正確性・完全性を保証するものではありません。
・投資判断はご自身の責任と判断において行ってください。本記事に基づく損失について、筆者は一切の責任を負いません。
・筆者は金融商品取引業者ではありません。
【保有の開示】筆者は複数のJ-REITを保有しています。
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