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【時事考察】松屋のうまトマハンバーグ定食980円に「高っ!」と戸惑いつつ、冷静になると食券買って5分ちょっとでこの美味しさが食べられるって普通に妥当な値段設定なんじゃないかと思った話

 松屋のうまトマハンバーグ定食がレギュラーメニューになった。バキ童チャンネルで土岡さんの"うまトマ"愛が繰り返しネタにされてきたので、まんまと影響されて食べてきたけれど、たしかにめちゃくちゃ美味しいんだよね。これまでレギュラーじゃなかったのが不思議なぐらいだ。

 とはいえ、かつては600円前後で提供されていたにもかかわらず、税込980円という強気な値上げには正直、

「高過ぎる……」

と、誰もが思ったことだろう。だいたい松屋と言えば2000年代のデフレ時代の低価格競争を代表するチェーン店であり、ゆとり世代のわたし的には280円で牛丼が食べられるのに600円のうまトマハンバーグ定食ですら当時は贅沢品に感じたものだ。

 それがいまや牛丼も460円、カレーに至っては780円というから驚きである。物価の上昇を象徴している事例として納得できる反面、その先頭をまさか松屋が駆けていくとは想像だにしなかった。

 なにせ、2000年代の牛丼大手チェーン点同士は扱っている商品の類似性の高さから、値上げをすればライバルに客を取られるという恐怖で地獄のような低価格スパイラルに陥っていた。

 そんな中、松屋はシュクメルリなど馴染みのない国の聞いたことない料理を定期的にヒットさせ、よそと比較が成り立たない領域を目指すことで着実に客単価を上げてきた。実際、シュクメルリの相場をわたしたちは知らないし、他で食べられるお店も知らない。シュクメルリを食べたいとなったら800円でも、900円でも、1,000円でも払ってしまう。結果、2025年1月のリバイバル販売では1,100円になっていた。

 気づけば、そうやって松屋で1,000円近く使うことは当たり前になっていた。故に、うまトマハンバーグ定食の980円も実は特別高くはない。あくまでデフレ時代の思い出に引きずられているだけ。要は時は流れたってことなのだ。

 そんなわけでレギュラー化したうまトマハンバーグ定食を食べるため松屋に行ってきた。なにも考えずランチタイムの渋谷店に向かったのだが、案の定、あふれんばかりに混んでいた。

 渋谷駅前の再開発でオープンしたサクラステージに入っている店舗はマイカリー食堂も併設していて、老若男女国籍を問わず、大いに賑わっていた。テイクアウトの人だったり、ウーバーイーツの人だったりが外でわんさか待機していて、まるでお祭り騒ぎだった。

 とはいえ、食券を購入してからの流れは早く、五分ちょっとで番号が呼ばれた。ぶっちゃけ、長期戦を覚悟していたのでビックリだった。でも、言われてみれば混んでいるけど回転が早く、店内も店外も次から次へと人が入れ替わっていた。

 ちなみに注文したのはうまトマハンバーグ定食のチーズトッピングに豚汁をつけたもの。別々で頼むより70円安いと書いてあったけど、1350円なのでわたしとしては十分に高い。ただ、しょっちゅう来るわけじゃないし、たまにはいいだろうと奮発してしまった。

 もちろん、美味しい。ニンニクの効いたトマトソースは酸味があって塩味を引き立てる。

 うまトマハンバーグは一般的にしょっぱいと言われがちだけど、成分表を見ると食塩量は味噌汁も含めて6.2g(チーズをつけると+1g)と意外に少ない。これは旨味の相乗効果というやつ。トマトのグルタミン酸とグアニン酸、クエン酸は減塩メニューを作るときに重宝するほど塩味を感じやすくしてくれる。そこに炒めた玉ねぎとニンニクというグルタミン酸の爆弾を加えているのだ。理論上、最強レベルで美味しいに決まっている。

 そんなソースが牛肉の脂とタンパク質に絡みつき、温かいご飯という完璧な炭水化物と口の中で混ざり合うわけで、そりゃ至福ですよね。

 ところで、豚汁に関しては野菜を摂りたくて注文したが、松屋の豚汁って、これだけで専門店をやっていいほど完璧じゃない?

 根菜もゴロゴロ入っているし、ラードで熱々が維持されるし、冬場はこれが食べたくて松屋に行くこともあるぐらい好き。

 以前は七味唐辛子をドバーッとかけられるのが嬉しかったんだよなぁ。陳皮が多めに入っているのか、辛さよりも香り重視の配合にセンスが光っていた。黒七味を推していたこともあったけど、松屋の場合、普通の七味がすでにスペシャルだった。

 そんな風に松屋の魅力を堪能しつつ、一旦、冷静に考えてみると、食券買って5分ちょっとでこの美味しさが食べられるって、普通に妥当な値段設定なんじゃないかと思えてきた。

 デフレの頃、全国チェーンは冷え込む需要を掘り起こすべく、薄利多売を目指さざるを得なかった。そのせいで、少しでも安く、少しでも早くが当然のように目指されてきた。滞在時間と金額は比例するという認識が共有されていたこともあり、ファストフードはワンコイン以下が常識となっていた。

 しかし、世の中の状況が変わり、コスパとタイパが重視されるようになってみれば、商品をパパッと提供できることって、とんでもない付加価値だ。むしろ、早く食べられるものほど高くなって然るべき。時間の節約につながるのだから。

 だいたい提供時間を短くするためには様々な企業努力が求められる。メニュー開発からシステム開発、人材教育に至るまで相当なコストがかかっていると推測される。ならば、それらの諸経費は販売価格に反映されるべきで、うまトマハンバーグ定食980円に誰が文句を言えようか。

 理屈はともかく、むかし、600円ぐらいで食えたものを1,000円にして、こんだけ流行らせられるのマジでヤバい。これを機に松屋、高いけど確実に美味しい料理が素早く食べられる新しいチェーン店スタイルを確立する気がする。それは日本の外食産業における革命となるのは間違いない。

 かつて、すかいらーくもSガストで同様のチャレンジを20年近く続けていた。一人客のカウンター利用を想定し、滞在時間30分以内で客単価1,000円超を目指し、「クイックレストラン」というキャッチコピーで各地で店舗展開していた。しかし、高い飯はゆっくり食べたいというイメージの前にあえなく敗れ、2020年7月、コロナ禍ど真ん中で全店舗閉店となってしまった。

 結局、「クイックレストラン」は撞着語法に過ぎず、生ける屍や小さな巨人よろしく、概念上の存在でしかなかったのかと寂しくなったものである。それがまさか、松屋によって実現される日がやってこようとは。想像だにしなかった。

 とはいえ、このことを賞賛する怖さも重々承知している。なぜなら、松屋がそうやって付加価値を創出できたのは大企業だから。個人の飲食店で同じような工夫ができるわけはない。他の飲食チェーンも松屋のように付加価値の創出に成功し、軒並み定価を上げることに成功したとき、個人の飲食店が戦う術は安さだけになってしまう。

 持つものが有利なのは資本主義の基本法則。持たざるものは敗れて静かに散っていくか、M&Aで吸収合併されるだけ。吉野家ホールディングスが有名ラーメン店を猛烈な勢いで買収し、ラーメンチェーンの世界展開で外貨獲得に乗り出していることは日本で暮らす日本人として無論ありがたい。でも、どこかで庶民向け飲食店のバリエーションが減るんじゃないかといくばくかの不安も覚える。

 実際、老舗のお店はご趣旨の高齢化、人手不足、材料費高騰などの煽りを受けて、着実にその数を減らしている。その一方で松屋などの大手チェーンが尖ったチャレンジで業績を大幅に改善させていることは偶然ではないのだろう。

 基本的に商売はリスクをとらなきゃ始まらない。ただし、インフレが進むとリスクも大きくなっていくので、賭けに出られる会社が限られてくる。こうして格差が広がっていく。

 そのことを象徴するように980円となったうまトマハンバーグは各地で売り切れ続出となっているそうだ。

 需要と供給の均衡が価格を決定するというアダム・スミスの経済理論の基本に則れば、やはり、うまトマハンバーグ980円は高くなかった。理屈としても納得している。それでもやはり、わたしの中には980円を高いと感じる自分もいる。

 このズレは今後、どんどん大きくなっていくのだろう。いまはまだ耐えられる程度ではあるが、10年後、仮にうまトマハンバーグが2,000円を超えたとして、同じような反応ができる自信はどこにもない。




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