介護費用は平均では考えない ~ケアマネジャーが調査データを読み解く~
介護費用は本当に500万円なのか
介護費用はどれくらいになるのか。気になる方は多いと思います。
検索すると、『介護費用の総額は約500万円 』という記事を見かけます。
果たして、これは本当でしょうか。
今、介護費用が不安な方。
これから老後資金を考えたい方へ。
介護費用がどれくらいになるのか、5回シリーズで、目安をお話していきます。
ケース紹介 デイサービス週2回のご夫婦
私がケアマネジャーを担当しているご夫婦がいます。
夫婦が、それぞれ週2回のデイサービスと、手すりのレンタルをしています。
妻はデイサービスで、友人とのおしゃべりやカラオケが楽しみだそうです。腰を痛めて外に出られなくなったし、夫と家にいるとケンカしそうになる、と言われます。
では、もう1回増やしますか、と聞くと、週3回は高くなるから厳しいとおっしゃいます。
デイサービスは楽しい。
でも、ずっと続くと費用がかさんでくる。
だいぶ迷って、結局週2回のまま、デイサービスは増やさないことを決められました。

ちなみに1カ月の費用は
夫(要支援2)週2回のデイサービス(短時間運動)と手すりで約4,500円
妻(要介護2)週2回のデイサービス(夕方まで)約17,000円(昼食代含む)
夫婦で1カ月約21,500円です。
この金額をあなたはどう感じますか。
よく使われている介護費用の平均値と比べてどうなのか、見ていきます 。
「人によって違います」では終われない
介護費用はどれくらいになるのか。
答えは、
『人によって違います。』
です。
「そんなことは分かっている。そのうえで目安を知りたいんだ」と思われるでしょう。
でも、介護の道のりは本当に人によって違うのです。
10年以上介護が続くこともあれば、大きな病気や骨折で1、2年で介護が終わってしまうこともあります。
介護はいつまで続くのか、その時にならなければわからないのです。
だから、費用も人によって違います、としか言えないのですが。
しかしそこで終わらせては、専門職の名折れ。この介護費用シリーズでは、いくつかのモデルケースを提示します。
長くなるので、5回シリーズとなります。
第一回 介護の平均費用の罠
第二回 介護パターンごとの費用目安 前編
第三回 介護パターンごとの費用目安 後編
第四回 本当に準備しておくべきもの
第五回 番外編 介護負担を軽くする制度4つ

第一回 介護費用 平均の罠
介護費用で検索するとよく出てくるのが以下の数字です。
介護期間の平均 4年7カ月
介護費用の平均
一時的な費用 47万円
月々の費用 9.0万円
「在宅」5.2万円
「施設」13.8万円
「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」
でも、現場の実感とずれがあります。
これは本当なんだろうか、と感じたので、調査レポートを読んでみました。
平均値1 介護期間 平均4年7カ月
もちろん平均ですので、1年の方もいれば、10年の方もいます。それはわかるのですが。
25年以上高齢者介護の世界にいた実感として、介護期間はもう少し長いように感じてしまいます。
元々の質問は、どうだったんだろう。気になって調査票を読んでみました。
『介護を始めてからの期間はどのくらいですか。(どのくらいでしたか。)
(現在介護を行っている方は、介護を始めてからの経過期間をお答えください。)』
要するにこの調査結果には現在介護中、もっと言ってしまえば、いま介護が始まったばかりの方たちのデータも混ざっているのです。
つまり、4年7カ月は看取りまでの介護期間をそのまま表した数字とは言い切れません。
他に介護期間のデータがないか探してみましたが、わかりやすいものは見つけられませんでした。
平均値2 初期費用は、47万円
そんなにかかるだろうか、という違和感です。
調査の質問内容を確認すると、
『住宅改造や介護用ベッドの購入など一時的に掛かった費用のこれまでの合計額』
確かに。玄関やトイレなどに手すりを付けると一カ所数万円かかります。
介護用ベッドは高額です。買うと10万円から20万円以上。
しかし。
ケアマネジャーの私から見ると、手すりをつけるだけなら自己負担は数千円で済みます。
ベッドもレンタルで、1割負担なら月1,500円前後です。
(条件と上限があるので、ご注意ください)
では、なぜ47万円という数字になるのでしょうか。
調査票には自由記述がないので、何の費用なのかは分かりません。
推測ですが、
介護が始まるきっかけとなった、入院の費用が含まれている。
有料老人ホームの入居費が含まれている。高額な入居一時金に引っ張られて、平均値が高くなった。
大幅なリフォームを行った。
などでしょうか。

平均値3 介護費用の総額が約500万円
『介護費用の総額は約500万円 』という記事を見かけます。
しかし、「総額は〇〇円です」という記述は、元になっている調査の中にはありません。
この調査は、介護が「現在も継続している世帯」と「すでに終了した世帯」の回答が混在しています。
そのため、「総額」の質問はしていません。
それなのに約500万円という数字が出てくるのは、
初期費用47万円 +
月9万円×4年7カ月=495万円
合計542万円
こうした計算をもとに導き出された概算です
つまり、「約500万円」という数字は、調査そのものが示した数字ではなく、平均値を掛け合わせて導き出された概算です。
しかし、まだ介護中の方もいるのに、この平均の掛け算を鵜呑みにしてよいのでしょうか。
自宅で介護する費用の平均が月5万円。これは何となくわかります。
冒頭の、夫婦2人でデイサービスと手すりを利用して、月約21,500円。
それに比べると高いと思われるでしょうか。
身体が悪くなるにつれ、認知症が進むにつれ、デイサービスだけでなく、福祉用具、ショートステイなど介護保険のサービス利用は少しずつ増えていきます。
介護サービス以外にも、紙おむつやお弁当の配達、訪問診療なども加わります。
合わせると月5万円以上かかる方もいます。
そうすると平均は月5万円になるかもしれない、と思います。
一方、施設の費用は平均月13万円。
この数字を、自分に当てはめることはかなり危険です。
老後資金を計算するとき、これをもとにしておられる方を、時々お見かけするのですが。
施設の費用は、平均では語れません。
ある種の施設は資産と所得によって、きっぱりと費用が分かれるからです。
私の資産が〇〇円以上あり(なく)、
年金が〇〇円だから、
費用は〇〇円くらいと、分かれるのです。
施設費用は、平均ではなく、自分がどこに当てはまるかと、どのタイプの施設に入るか、で決まります。
平均ではなく、自分の介護を考える

では何を基準に考えるのか
こうやって見ていただいたように。
介護期間の平均 4年7カ月
介護費用の平均
一時的な費用 47万円
月々の費用 9.0万円
「在宅」5.2万円
「施設」13.8万円
この数字だけでは、介護費用は考えられません。
平均値は便利です。でも、自分が平均になる保証はありません。
老後に2000万円が必要だという金融庁のレポートが物議を醸したことがあります。 結局、家庭ごとに生活費は違うので、必要な額も違う、という流れに落ち着きました。
介護も同じです。
介護費用を決めるのは「平均」ではなく、「どんな介護の道を歩むか」です。
介護は短く終わることもあります。 でも、思ったより長くかかってお金が「足りなかった」が一番困ります。
介護の見通しを立てる時は、平均値ではなく『長期化した最悪の場合』を想定するべきです。
どんな介護の道筋を歩くのか、予想はできません。
介護の真っただ中にいると、自分の現在地も、その先も見えません。
けれど、どの介護の道筋にいくらかかるかを知っておくことには、意味があります。
なので、次回からその「介護の道筋」を、6つのパターンに分けて考えてみます。

次回予定
介護パターンごとの費用目安 前編
(FIREした、あるいは計画している方で、上記の平均を元にしている方を時々お見かけします。参考になれば幸いです)
