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広島・尾道の空き家100棟を動かしたNPOと、古民家宿になる条件

空き家の数が900万戸を超えた。

総務省の令和5年住宅・土地統計調査によれば、2023年時点の空き家率は13.8%。過去最高を更新した数字で、8軒に1軒以上が「誰も住んでいない家」という時代になった。前回調査(2018年)からさらに51万戸増えている。

この状況を前に、さまざまな活用策が試みられている。解体して更地にする。自治体の空き家バンクに登録して移住者を探す。補助金で改修して事業者を呼び込む。そのなかで「空き家をゲストハウスにする」という選択肢は、空き家対策と観光振興を同時に狙える手法として、この10年ほどで全国に広がってきた。

問題は、どんな条件が揃ったときに成立するかだ。公開情報から尾道・丹波篠山・大阪の事例を追うと、その構造が見えてくる。

25年間、誰も住んでいなかった建物


広島県尾道市。斜面に密集した古い町並みで知られるこのまちで、2007年にNPO法人「尾道空き家再生プロジェクト」が立ち上がった。代表を務めるのは豊田雅子氏。デザイナーとして働いた後に尾道へ移住し、NPOを設立した。

活動の原点になったのは「尾道ガウディハウス」と呼ばれる物件だ。旧和泉家別邸として建てられたこの建物は、取得した時点ですでに25年間放置されていた。中川政七商店が公開しているインタビュー記事によれば、豊田氏はこの物件を自費で購入し、仲間と手を動かして修繕を始めた。

補助金を前提にせず、行政の許可を待たず、まず動く。

その姿勢が、活動の骨格になった。設立から17年が経った現在、NPO直接関与の再生件数は20棟。空き家バンクを経由した成約は100棟超。登録物件数は140棟、利用登録者は1,000人を超えた。2021年度には地域再生大賞を受賞し、全国の視察先になっている。

築100年の梁を商品にした


このNPOが手がけるゲストハウスは2施設ある。

「あなごのねどこ」(2012年開業)は、明治時代の長屋が前身だ。間口が狭く奥行きが長い「うなぎの寝床」型の建物を、ドミトリーと和室に改修した。1階にはカフェも設けられている。宿泊料金は素泊まり最安で1人約4,400円から(価格比較サイト掲載ベース)。「みはらし亭」(2016年開業)は大正時代の別荘が前身で、登録有形文化財でもある。坂の上から町並みを一望できるロケーションを生かし、より高い価格帯での設定だ。

2施設の共通点は、建物の「古さ」を欠点ではなく商品として扱っている点にある。築100年超の梁、土壁、狭い間口——建築基準の観点からは改修コストの塊だが、「普通のホテルでは決して体験できない空間」として捉え直せば、希少性になる。

「古い建物は資産価値が低い」という前提を、この事例は逆手にとっている。

宿が閉まるとき


古民家ゲストハウスが廃業するとき、理由には特徴的なパターンがある。

オーナーが体調を崩す。育児で手が回らなくなる。後継者が現れない。個人や夫婦2人で回す小規模な宿は、こうした個人的な事情が即座に閉業につながる構造を持っている。業界全体の廃業率の詳細データは公開情報からは確認できていないが、継続性の脆弱さは複数の専門家が指摘してきた問題だ。

尾道NPOが法人格を持つ組織として動き続けている意義はここにある。一人の人間の事情で全体が止まらない体制。採用・業務分担・意思決定が組織として機能することで、長期継続の基盤ができる。

「補助金があれば個人でも始められる」という話をよく聞く。その通りだが、補助金が尽きた後に何が残るかの設計が、継続性を決める。

稼働率30%という設計


兵庫県丹波篠山市の「集落丸山」は、別の角度からこの問題を照らす。

2009年、一般社団法人ノオト(代表理事:金野幸雄氏)とNPO法人集落丸山がLLP(有限責任事業組合)を組成して始めた農村宿泊事業だ。全12世帯のうち7世帯が空き家だった集落で、空き家3棟を一棟貸しの宿泊施設として再生した。

日経ビジネスの報道によれば、年間来訪者数は800人、年間売上は2,200万円。だが特徴的なのは、運営側が稼働率を意図的に約30%に抑えていることだ。農繁期などに住民の受け入れ体力を確保するためだという。

住民はほぼ全員が調理・案内・農作業体験等の宿の運営に参加する。この「住民の日常参加」こそが体験価値の核だ。稼働率を上げれば売上は伸びる。とはいえ、住民の負担が増えれば「本物の農村生活」という商品の質が落ちる。稼がないことが、商品を守っている。

「もっと稼げるのに稼がない」という設計は、観光地化によって住民の生活が壊れていった多くの事例と明確に対照をなしている。

あなたの地元では、観光開発が住民の日常と摩擦を起こしていますか?

規制が変わった2018年


古民家ゲストハウスへの新規参入が加速した転換点として、2018年の旅館業法改正を見逃せない。

200㎡未満の木造建物に求められていた耐火構造要件の一部が緩和され、改修コストが下がった。DBJと日本経済研究所が2024年4月に公開したレポートによれば、複数の古民家をフロント棟・宿泊棟・食堂棟等に分けてまち全体をホテル化する「分散型エリア開発」の累積件数は、2023年時点で40件を超えている。

この法改正と連動して、インバウンド需要を狙った高付加価値型の古民家宿泊事業が急拡大した。株式会社ファンバウンドが大阪・奈良を中心に展開する「今昔荘」はその象徴だ。2024年10月時点で11施設(さらに6施設が開発進行中)。同社のプレスリリースによれば、2024年8〜9月実績で予約の約90%が海外ゲストで、アメリカからの来訪が最多だった。

価格帯は1人1万5,000円〜2万円以上が多く、一般的な宿より高単価での設定が採算を支えている。古い建物に対して「日本らしさ」という高い対価を払う外国人観光客の需要が、このモデルの土台になっている。

許可が取れない、物件が動かない


開業への道は複雑だ。

旅館業法(保健所)・建築基準法(役所)・消防法(消防署)の3機関すべての許可・適合が必要で、申請を並行して進めることになる。古民家の多くは現行の耐震基準・防火基準を満たさない旧基準建物のため、改修範囲が当初の想定より広がりやすい。行政書士向けの情報源によれば、用途変更の費用が100万円を超えるケースは珍しくなく、規模によっては1,800万円超になることもある。

補助金を前提にした計画が崩れるパターンも複数報告されている。「補助金対象外の事業者に依頼してしまった」「期待していた助成金が交付されなかった」といった事例だ。

そして「空き家なのに使えない」という問題がある。所有者が「いつか子どもが使うかもしれない」「思い入れがあって手放せない」という理由で賃貸・譲渡を拒むケースは多く、再生したい物件に辿り着けないことは業界の構造的な課題だ。自治体の空き家バンクに登録されている物件でも、実際に動かせる状態にあるものは一部にとどまる。

観光客のいない過疎地では成立しない


一連の事例から、一つの不都合な事実が浮かぶ。

尾道・篠山・大阪の成功には、いずれも再現が難しい固有条件がある。尾道には「坂のまち」「文学・映画のまち」という全国的な知名度がある。篠山には歴史的な農村景観と丹波篠山ブランドの食がある。今昔荘の拠点は、世界有数のインバウンド集積地・大阪だ。

これらの条件のない地域で同じモデルをそのまま持ち込んでも、採算線に届かない可能性が高い。「古民家であれば成立する」ではなく、観光需要が先にある地域にゲストハウスが成立する——これが核心だと僕は考える。

建物の状態よりも前に問うべきことは、「その地域に来る理由が今あるか」だ。

DBJのレポートが示す「分散型エリア開発40件超」という数字は、法整備とインバウンド需要が噛み合ったここ数年の急拡大を示している。今後その数がどこまで伸び、どんな地域が続いていくかは、インバウンド需要の質的変化と地方の観光力次第だ。




自分のまちの状況を調べたいなら、観光庁が公開している「観光地点等入込客統計」や各自治体の観光統計が起点になる。「〇〇市 観光入込客数」または「〇〇市 観光統計」で検索するとたいていウェブ上で確認できる。空き家の現状は「〇〇市 空き家バンク」で登録物件を見ることができ、物件の詳しい状況は自治体の空き家対策担当部署に問い合わせると教えてもらえる。

あなたの地元に古民家や空き家を使った宿泊施設はありますか?また、地域の空き家がどう使われているか(あるいは使われていないか)、コメントで教えてください。

#まちづくり #空き家活用 #古民家 #ゲストハウス #地域活性化

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