『加害者』#シロクマ文芸部#熱帯夜【短編小説】
熱帯夜でバカになった頭は、罪を犯してもいいと言った。そして、彼は1人になった。
◆中学二年生 九月
「やば、あいつの隣とか笑笑 可哀想すぎる」
席替えの時間に、くじで引いた数字を開きながら、そんな声が聞こえる。よくあるいじめというやつだ。ターゲットはあの男の子。ひとりで座って、すました顔をしている。そんな顔をしたら、余計に反感を買うだろうに。全くもって不器用だ。
◆小学六年生 五月
音楽の時間が終わったので、大好きなちーちゃんに話しかけに行く。
「ちーちゃん、おつかれー!」
ふと机を見ると、消しゴムのカスがたくさん。
「そんなに今日のプリント難しかったー?笑笑」
「んー、ちょっとね笑笑」
ちーちゃんが音楽のプリントで苦戦するのは意外だった。というか、どの教科でも意外だ。ちーちゃんは授業をきちんと聞いている。いつものテストでも上位に入るぐらいの点数は、コンスタントに取る子だから。
「それより早く教室帰ろー」
「ん、わかったわかった」
◆小学六年生 九月
みんなが浮ついた雰囲気で、ひたすらに日光だの、キャンプファイヤーだの話している。修学旅行の準備期間は、運動会の準備よりも少し大人っぽい。それでもやっぱり待ちきれない感じが子どもっぽい。
「それでは、班ごとに自由行動の時間があるので、4人グループを作ってください」
先生が声をかけ、クラスメイトが一斉に動き出す。私は真っ先にちーちゃんのところに行った。
「ちーちゃん、一緒に周ろ!」
「ありがと!周ろ周ろ」
他のメンバーを決めようとクラスを見ると、2人で組んでいる女の子たちがいた。
「良かったら一緒に周らない?」
笑顔で話しかけたが、一瞬微妙な空気が流れた。感じたくない違和感。
「あー、いいよ?」
2人組のうちひとりが答えてくれたので、4人グループは無事に決まり席に着いた。
「うわ、かわいそー笑笑」
そんな声が聞こえた気がしてクラスを見回すと、ニヤついた男子と目が合った。そっか。そういうことか。
◆小学六年生 十月
机を見るとやっぱり消しカスがたくさん。
「やっぱりあいつ?」
「うん、、たぶん、」
机の上の消しカスは、ちーちゃんが出したものではない。そのことがわかったのは修学旅行が終わってすぐのことだった。
授業のあと、ちーちゃんの髪の毛に、消しカスが引っかかっていたから。よくよく聞いてみると、授業中に消しカスが飛んでくるのだという。
犯人の心当たりもあった。ちーちゃんと誰かがペアになると必ず小声で「かわいそー笑笑」とニヤついているあいつだ。
クラスの大半は気づいているようだった。気づいているのに、誰もちーちゃんを助けようとしない。それどころか遠回しに避けている。
すぐにでも先生に相談すべきだと思った。でも、肝心のちーちゃんが、先生に言わないでとお願いしてくるのだからどうしようもない。だからせめて、ちーちゃんの親友は絶対にやめないと、心に誓った。
◆中学二年生 十月
定期テストが終わる。まぁできただろう。満点とは行かずとも、どの教科も9割は堅い感覚に安堵する。
「なっちゃーん、テストどうだったー?」
クラスの子が何人か集まってくる。
「まぁまぁかな」
「とか言って絶対できてるじゃーん笑笑」
「どうかなー笑笑」
定期テストの時期はトモダチが増える。
「塾でもらった時事問題の対策用プリントを見せてほしい」
「なっちゃんのまとめた副教科のノートが見たい」
「社会はどこを優先してやればいいと思う?」
理由は様々だが、要は点数が上がればいいのだ。私じゃなくていい。私の情報がほしいだけ。
だから定期テストの期間だけ、私とトモダチになる。
ふとクラスを見渡すと、例の男の子が真っ青な顔をして机を見つめていた。教室の後ろにはクスクス笑う男子たち。
目線はその男の子、かと思いきや、もうひとつ見ている場所がある。そういう事か。ロッカーの上に消しゴムが置いてある。テスト中に彼は消しゴムが使えなかったのだ。クラスの男子たちが消しゴムを隠したから。
そんなことをしたら、大人にバレそうなものだが。まぁ、先生が問い詰めたところで、落し物かと思ってロッカーの上に置きました、とでも言うのだろう。
◆小学六年生 三月
結局、最後までちーちゃんに私以外の友達ができることはなかった。私も、ちーちゃん以外の友達は作らなかった。
「一年間ありがとう。とても素敵なクラスで、先生も楽しかったです」
どこが素敵なクラスだ。
「楽しい中学生活を送ってね」
あほか。何が楽しい中学生活だ。まともな一年間を送らせてくれなかったくせに。
卒業アルバムの寄せ書きに書かれた「一年間ありがとう、中学生になってもよろしく」の集合体も、殴りたくなった。ふざけるな。無視してたくせに。
ちーちゃんがどれだけ辛かったか、わかってて無視したくせに。
◆中学二年生 八月
だから私は、彼をターゲットにした。ちーちゃんの小学六年生を台無しにしたあの男子を。
中学生とは単純なもので、ネタさえあれば、たちまちいじめが起きる。しかも、昔のいじめとは少し違う。スマホが使える分、大人にはバレないように上手くやる。
私は、クラスメイトの中で、私を信頼していて、かつ正義感の強い子を選び、小学六年生のときに、ちーちゃんがいじめられていたことを打ち明けた。ずっと誰にも相談できずに怖かった、次の彼のターゲットは私なのではないかと怖かったと。
翌日から、彼の話し相手はいなくなった。
◆中学二年生 三月
このクラスで最後のホームルームが終わる。
「楽しかったね」
「ねー!来年も同じクラスがいいな」
「来年の先生、誰が担任になるかな」
クラスメイトは別れを惜しみながらも笑い声を交わしていた。誰もが思い出に浸る中、彼には誰も話しかけない。
あの日、熱帯夜でバカになった頭でも、この行為は罪になると分かっていた。分かっていたけど、悪いのは彼だと言い聞かせた。
私の大事な親友をいじめたから。許せなかった。許せなかったくせに、3年前の私は何もできなかった。だから、だからいいのだ。
悪者と正義のヒーローは、矛盾しない。もう彼はいじめをしないだろう。悪者を成敗するための罪なら、いいのだ。
私は正しいはずだった。
