『いい子なだけなのに。』#夜店から#シロクマ文芸部【短編小説】
夜店から放たれるにぎやかな光を見上げると、必ず幸せそうに私を見つめる両親がいる。
中学生のころ、夏祭りは毎年家族で行っていた。周りの子たちが友達同士のグループや、カレシとかいう相手とお祭り会場ではしゃいでいる中、家族と仲良くお祭りに行くのは、私にとっては密かに自慢だった。
家族となんてダサい、と思う子もいるだろう。そういう子と比べて、堂々と家族と歩ける自分は、一歩大人になれている感じがした。ご近所さんにも仲のいい家族だとほめられるし、お父さんもお母さんも嬉しそうだし。
だから高校一年生になった今年も、家族でお祭りに行くものだと思っていた。
「あみ、今年の夏祭りって誰かと予定入れてる?」
クーラーの効いたリビングで夏休みの課題を進めていると、台所から出てきたお母さんが質問してきた。
「急にどうしたの。入れてるわけないじゃんか、いつもうちは家族で行ってるでしょう?」
「あらぁ、ちょうどよかったわ。今年はななちゃんと行ってみたらどう?」
いやいや、どういう流れでその提案が出てくるのだ。今までは夏祭りと言えば家族とだったじゃないか。
だがお母さんの顔を見ると、私の予定が空いていることに明らかに安心している。
「なんで急にななちゃんが出てきたの、?」
ななちゃんは小学校からの同級生だ。近所だからという理由で、よく一緒に下校するように言われていた。高校からは別の学校に進学したから、特に連絡は取っていないのだが、、、
「ななちゃんね、高校が遠いでしょう?だから夏祭りは一緒に行く子がいないって残念がってたらしいのよ。で、そのまま、ななちゃんのお母さんと話してたんだけど、あみが一緒に行くのはどうかと思って!」
お母さんは自分のアイデアが最善策とでも言うように、満面の笑みを浮かべている。その笑みを、窓からの日光がこれでもかというほど助長している。
まあ、お人好しのお母さんならその提案になるのも無理はない。私は、ななちゃんと同じように、地元から少し離れた高校に通っている。しかし、中学の頃の友達の大半は地元の高校に進学しており、ななちゃんも誘いづらいのだろう。
「んー、わかった。今年はななちゃんと行くね」
「助かるわぁ!ありがとう、あみ」
お母さんは私の頭をなでてくれた。高校生になっても、やっぱりお母さんに褒められるのはうれしいし、外ではしっかりした娘さんといわれても、家に帰ればまだまだ甘えっ子である。
外から差し込む夏の光は夏のお手本のようなまぶしさだったが、クーラーで心地よく冷やされた空気はこの部屋を真夏の安全地帯に保っていた。
午後四時五十分。ちょうど待ち合わせ場所に到着したときにスマホが鳴った。届いたメッセージをみると、ななちゃんが十分ぐらい遅れるらしい。
十分早く来る人と、十分遅れてくる人が待ち合わせすると、二十分待ち時間ができるんだよなぁ。なんて考えながら、すでににぎわっているお祭り会場を眺める。
友達と何人かで来ている小学生、幼稚園ぐらいの娘を連れたお父さん、浴衣姿で手をつなぐ大学生ぐらいの男女。いろんな人が楽しそうに流れていく。
恋人と夏祭りデートかぁ。中学生の頃は同級生がカップルでお祭りに来ていてもなんとも思わなかったが、高校生になると、いつかあんな感じの素敵なカップルになれたらいいな、と憧れてしまう。
あれ、いま中学時代の同級生が通ったような、、、誰だっけ、あの男の子、、
「あみちゃーん、おまたせ!」
久しぶりの甘ったるい声に振り返る。
「、、、」
そこにいるのはもちろん、ななちゃんだった。ななちゃんなのだが、、、
「ごめんね、遅れちゃって!浴衣着てみたの!どうー?」
浴衣、で来るなんて聞いてない、、、
「やっぱりななちゃんはなんでも似合うね!かわいいと思うよ」
「うれしー、ありがと。じゃあ行こ!」
そこからはたくさんの夜店の間を回りながら、たわいもない話が続いた。高校の授業がどうとか、部活は何にしたとか、中学の頃ななちゃんは高森君が好きだったとか。
「あみちゃん、ごめん!ちょっとトイレ行ってもいい?」
「迷わないようにね。ここ並んどく!」
前に並んでいるお姉さんとお兄さんが素敵だったので観察していると、そこそこ長いりんご飴の列もあまり苦ではなかった。夜店のおじさんにりんご飴を二つ頼む。
にしてもななちゃんが遅い。トイレも混んでいるのだろうか。とにかく電話をかけてみる。
「もしもし、ななちゃん?トイレいけた?大丈夫?」
『あみちゃん、いま高森君とばったり会っちゃって!なつかしいねって話してたんだぁ。待たせちゃってごめんね、えへ』
思い出した。ななちゃんを待ってる時間に見かけた中学時代の同級生、あれは高森君だ。となれば、ななちゃんは、、、
『もう少しおしゃべりしてってもいーい?』
まあそうよな。高森君も、ななちゃんと会話を切り上げないってことは、満更でもないのだろう。
「もちろん!てかふたりで回りなよ!あ、わたしも友達見つけたから切るねっ」
嘘は、あまり得意じゃない。
手元にはふたつのりんご飴。会場の中なら、誰かと食べる予定の人に見えるかな、なんて周りの目を気にしていた。
みんな自分が楽しむことに夢中で、私なんて見ていないのに。
夜店が放ったまぶしすぎる光が、私を一人置き去りにした。
