Photo by
rdt
【信号機ぶどう味】焦る青年、焦る老人
高層マンションの窓辺で、老人は赤ワインを飲んでいた。グラスの中で、信号機の赤が揺れている。
視線の先に、一人の青年がいた。青信号を待ちきれないのか、つま先を何度も打ちつけ、腕時計に目をやっている。
仕事の打ち合わせか。恋人との約束か。
老人は、静かにワインを口に含んだ。渋みと、長い年月を重ねた香りが広がる。
青年は、何かが始まるのを待っている。
自分は、何を待っているのだろう。
ふと、信号が青に変わった。
青年は弾かれたように踏み出し、夜の街へと駆け出していく。その背中はあっという間に小さくなり、闇に消えた。
老人は、しばらくその先を見つめていた。
――彼は先へ行くために焦り、私は止まることに焦っているのか。
信号が再び赤に変わる。
老人は、グラスに残った深い赤を飲み干した。
